第29話:頓挫
街は光に彩られて、キラキラと光る。
そう、イルミネーションの季節。
色とりどりのイルミネーションに包まれる季節は、恋人たちにとって胸が躍る季節でもある。
クリスマス。
嫌でも期待が高まる、恋する人には特別な日。
バイトにも気合が入るっ!
前みたいに、プレゼントを考えてなくって当日バタバタするのを避けるため、今度は準備もバッチリ。
もう取り置きしてもらってるし、来週受け取りに行く。
一ヶ月前からだったら、万一の入荷トラブルにも落ち着いて対応できるっ!
翔は悩んでいた。
前の誕生日は、
今度は大イベント、クリスマス。
中学のとき、翔はイベントごとの時期を前にして別れていて、こういう恋人と過ごすイベントごとに慣れていない。
「なぁ
「なんだ?」
「クリスマスって何すりゃいいんだろうな?」
意外な顔をされた。
「お前、中学の頃も散々モテてたろ」
「そういう護もちやほやされてそう」
翔が言い返す。
「俺は緋乃一筋だからな」
「
やれやれと肩をすくめる。
「言っとくけど、隙を見せたら俺はいつでも緋乃を狙うからな」
「それ、詩依も承知のうえなんだっけ」
「詩依は意外に鋭くて、隠しても絶対バレっからな。だから隠さない。だから詩依は緋乃に対抗意識メラメラさせてる」
「そうなのか。そうは見えないけどな。ところで話戻すけど、クリスマスってどう過ごしてるんだ?」
「今年は詩依と過ごすけど?」
ガクッ。
わかりやすくずるコケる翔。
「だから何して過ごすつもりなんだって聞いてるんだ」
「何をするかは重要じゃない。どう過ごすかが重要なんだ。お前が緋乃と何をするかはどうでもいい。その過ごす中で何を伝えたい?それが答えだ」
何を伝えたい、か…。
緋乃をどれだけ大切に思ってるかを伝えたいな。
どうすれば伝えられるんだ?
「じゃな、緋乃」
緋乃は今日もバイトが入っている。
放課後はいつも駅で見送る。
「うん、またあしたね」
翔はスマホを取り出して、クリスマスデートで検索してみる。
おすすめデートスポット特集が組まれているけど、どれもピンとこない。
近くの観光スポットをあれこれピックアップしてみた。
「うーん、どれも今ひとつだな。行きたいところがあちこち離れてるのもな」
スマートにエスコートしたいな。
できれば移動は少なくしたいところだ。
年に一度のイベントだし、夕食は少し気取りすぎない程度に奮発するとして…。
メインにするスポットを中心にして計画するのがいいか。
夜景もいいな。
テーマパークも考えてみたが、その周辺は区画が広くなっていて、近くに良さそうなレストランも少なくて移動が結構しんどそうだ。
緋乃に伝えたいこと…か。
大切にしていることを伝えるのはもちろんだけど、できれば海沿いのホテルでやめてしまった続きも…。
緋乃は心配性だから、手を出さないことに不安を感じているかもしれない。
実際、夏休みが終わってからあのことを聞かれた時、やめないでほしかったって言ってたみたいだし。
あれから雪絵のことがあったり、バイトで予定が合わなかったりして、キスどまりのまま進展はしていない。
考えていても仕方ないか。
いくつかの候補を見繕って、自分の目で直接調べてみるか。
いつも降りる駅をそのまま通り過ぎて下見に向かった。
「ありがとうございました~」
あたしはテーブルを拭きながら声を上げる。
お客さんの波が過ぎ、店内はガランとした。
「緋乃ちゃん、ずいぶん気合い入ってるじゃない」
先輩女性がいつものコミュニケーションを図ってくる。
「楽しみにしてる日が近いものね。嫌でも気合い入っちゃうのかな?」
「べっ、別にクリスマスに彼と過ごすからじゃないよっ!?」
「あらあら。あたしはそこまで言ってないけど。一緒に過ごすんだね」
かぁ~っ!
「もうっ!いじわるっ!」
先輩女性が近づいてきた。
「緋乃ちゃん」
こっそり耳打ちするように顔を近づけてくる。
「彼とはまだでしょ?」
「どっ…どうしてそれを…?」
耳まで真っ赤になってしまう。
「初々しいんだもん。わかるよ。だ・か・ら…クリスマスデートは、しっかり勝負下着で行きなさいよ」
「しょっ…」
勝負下着~っ!?
「先輩は…?」
「や~ね~、仕事よ。仕事」
ケラケラ笑いながら言う。
まあ、こういう時のお約束って仕事上がりの後で逢うパターンだよね。
そっか…海の時はあたしが怖がって、誕生日はプレゼントに振り回されて全然そんな雰囲気にならなかったよね。
でもクリスマスともなれば、そういう雰囲気にもなるよね。
翔ならスマートにエスコートしてくれそうっ!
お店選びもセンス良さそうだし、夕食は海の夜景が見えるキレイなおしゃれレストラン知ってそうっ!
その後、二人で過ごすところも予約してて…そのまま邪魔の入らない空間に二人きり…キャーッ!!
「あらあら?もしかして今妄想マックス?」
顔を赤くして
「っ!そんなんじゃないからっ!」
でも、全部翔に任せっきりってのもちょっと図々しいかな…。
あたしも行きたいところ、いくつか見つけておいて、翔の負担を減らしてあげたほうがいいかな。
でもでもっ、もし翔が全部考えてくれて、それを全部あたしがひっくり返しちゃ翔の立場が無くなっちゃうっ!
「二人の時間は、二人だけのものよ」
「はいっ?」
「あれこれあたまでっかちに考えるよりも、行動してみて、ダメだったらお互い話し合ってみるの。最初のうちは失敗なんてつきものよ。行動あるのみ。緋乃ちゃんなんて特に若いんだから」
「先輩も…そういうことあるんですか?」
「今も失敗ばかりよ。彼の考えてることなんてよくわからないし、怒らせることも普通にあるわ。でもそれを立ち止まる理由になんかしないで、先に進むことをやめないようにしてるわ」
そうなんだ…失敗ばかり…素敵な女性だから、きっと恋もそつなくやってるかと思ってたけど。
「恋はうまくいかないのが当たり前。順調で甘々なだけの恋は長持ちしないわ。だから面白いんだよね」
順調なだけの恋は長持ちしない…か。
「時に甘く、時に苦く。食べるときも甘い物ばかりや同じ味ばかりじゃ飽きるでしょ?だから、ぶつかることを恐れないで」
先輩…きっといい恋をしてきたんだろうな。
ぶつかることを恐れない。
でも…やっぱ怖いよ~っ!
バイトを終えて、家で一息ついた。
ぶつかることを恐れない…。
今日頭に残った言葉。
二人の時間は二人だけのもの…。
全部翔に任せっきりにしちゃうのもよくないかな。
いつもデートプランは任せてるけど、結構重荷に感じてたら…。
もしあたしだけが甘々に思ってるなら、翔はその分だけ苦い思いをしてるかもしれない。
それで愛想尽かされちゃったら嫌だし…。
よし、なら行動あるのみよ。
クリスマスデートで検索してみる。
たくさん出てきた。
ムードよさそうな行き先がありすぎて、決められない。
これは自分の目で確かめたほうがいいかも。
次の休みにでも、下見へ行ってみるかな。
「さて、どこから行こうかなっと」
休みの日になり、スマホ片手に外に出かける。
ここから近いところを順に回ってみよう。
広い公営の公園がここから近そうだな。
早速向かってみる。
「うーん、イメージがわかないなぁ」
公園の入り口に差し掛かって、気づいたことがあった。
クリスマス用のデートスポットを紹介してる写真は、夜だった。
朝から来てみても、キラキラしたイルミは無いし、歩くのにどんな暗さ明るさなのかが全然わからない。
夜に来なきゃダメかな…。
けど夜を狙って回るとしたら、あまり数を回れない。
仕方ない。良さそうな夕食のレストランを中心にして考えてみるかな。
お財布事情もあるから、メニューの代金が基準になっちゃうけど…。
公園でベンチに腰を掛けて、デート向けのレストランを検索した。
…結構いいお値段…。
あたしのバイト代じゃ、4000円くらいがいいところかな。
そうなるとかなり制限されちゃう。
居酒屋が予算内に入ってきたけど、未成年だし…お酒はナシにしても、たぶん賑やかすぎてムードがちょっと…。
お手頃なお店っと…。
うーん、ちょっと予算オーバーしちゃうな…。
となると少し方向性を変えなきゃ。
あっ、公園で出店のあるクリスマスイベントなんてやってる。
これなら予算の調整もつきやすそうだし、クリスマスっぽいムード出るかも。
難点はクリスマスだけの期間限定だから、前もって様子を見ることができないことかな。
これを候補にしておいて、他のところを見てみよう。
うーん、レストランは結構予算が厳しいな。
カフェのディナーメニューが妥協のしどころかな…。
あたしは明るい時間ながらもあちこち見て回った。
有名なイルミスポットや、大型商業施設、公園…。
明るいうちだと夜のイメージはわかないなぁ。
イルミスポットの通りを歩く。
木や地面に敷かれたイルミ球を眺めて、これが何色になるのかはわからない。
なんとなくイメージしてみるけど、実際に見るまでは想像の域を出ない。
どんっ。
「ごめんなさいっ!ついよそ見を…」
誰かにぶつかってしまった。
とっさに謝った…けど
「緋乃…なんでこんなところに?」
「し…翔っ!?」
まさかここに来てたなんてっ!!
ダッ!!
顔を赤くしたあたしは背を向けて走り出す。
「ったく!」
全速力で走ったけど、あっさり追いつかれて捕まった。
「なんで逃げるんだ!?」
「なんで追ってくるの!?」
「わからないからだよ。ここにいる理由が」
「どこへ行くにもいちいち言わなきゃダメなの?」
居合わせた気まずさから、つい口調を荒げてしまう。
「せっかくこうして会えたんだから、ここにいる理由次第では一緒に過ごしたいと思っただけだ」
一緒に…あたしもすごく一緒にいたいと思う。
けど今は貴重な時間を使ってクリスマスの下見に来てるんだから、時間を無駄にしたくない…。
「その…友達来てたんだけど、はぐれちゃって…」
つい嘘をついてしまった。
「なら俺も一緒に探すよ」
「ううん、ひとりで探してみる」
「そうか。あんまりぼーっとしてるなよ」
翔の手を振りほどいて、その場を後にする。
ごめん、翔…。
翔も下見に来てたのかな…?
だとするとこの辺を今日見るのはもうやめておいたほうがいいかな。
あたしは電車に乗って、別の場所を見ることにした。
有名なイルミスポットをチェックしてたけど、昼から会うかもしれないんだよね。
となると明るいうちから過ごすことも考えておかなきゃ。
そう考えて、イルミだけじゃないスポットを探してみた。
公園を散歩なんてのも、明るい内ならいいかも。
それから暗くなった頃に夕食とイルミってコースもありかな。
考えながら、角を曲がる。
「あ」
最悪っ!
また翔と鉢合わせっ!
なんでこうもばったり会っちゃうわけっ!?
「よっ、緋乃。友達は見つかったか?」
ううっ…これもう絶対バレてるよね…。
下見に来ていたなんて知られたくないけど、嘘つきなんてもっと思われたくないっ!
あたしはバイト先の先輩に言われた言葉を思い出した。
二人の時間は、二人だけのもの。
クリスマスを前に気まずくなるのはイヤ。
「ごめん、翔…実は…」
「そっか。さっきのとこでそんな気はしてたけど」
あたしはクリスマスに向けて下見に来てたことを白状した。
「それで、どこかいいところは見つかったか?」
あたしは
「考えるほどにわからなくなって…今の所、公園のクリスマスイベントが候補なんだけど…翔は…?」
「実は俺もわからなくなってて…夕食のお店はよさそうなところがあるんだけど、緋乃が気になってるところがあるなら…」
「ううん、あたしはいい。せっかく翔が決めてくれたところなら、そこがいい」
あたしダメだな、と思いつつも結局全部任せちゃう自分がいやになる。
翔と本気でぶつかってみたい気持ちはある。
けどこんなに逃げ腰な自分じゃ、きっと弾き飛ばされちゃう。
「それじゃ、お互いによさそうなところを見つけたら、そこで相談ってことでいいか?」
「うん。そうする」
あーあ、ダメなあたし…。
「あははははっ!なにそれ面白すぎっ!」
「笑うなんてひどいよ~先輩~!」
バイト先で下見のことを話したら思いっきり笑われた。
「下見でばったりって…しかも一日に二度っ!?あははははっ!」
お腹を抱えて笑う先輩。
せっかく自分でプラン立てて、受け身なだけじゃないってアピールしようとしたのに、いきなりバレちゃうなんて…。
タイミング悪すぎでしょあたし。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます