ようこそ『おめでとう』

黒秋

終わりの出会い

幸雄、入学おめでとう、

高校生活楽しめよ。



親父が今年の四月にくれた言葉だ。


受験勉強を机にかじりつくぐらいに

頑張って入った進学校での生活を

自分自身もその頃は楽しみにしていた。


しかし現実とは非常に厳しいもので、

孤立した俺はイジメの対象になった。


全くヘドが出る、

イジメてくる同級生にも、自分にもだ。


俺の下手なプライドが邪魔をして

今日までそれらしい報復が

出来なかったことが一番イラつく。


…だが、もう今日で全てにカタがつく。



深夜に校舎の屋上にひっそり侵入して

夜景を楽しむのにもそろそろ飽きてきた。


俺はいまから自殺する。


…なにか、疲れた。

イジメが解決したとしても、

友人がおらずひたすら孤立することに

心がこたえてしまった。


自殺しようと決めたあとの行動は

結構早かったし俺はやけに落ち着いていた。


手紙を自らの脚元に一通、

念のため自らの机の引き出しにもう一通

仕込んでおいた。


中には自殺に至る原因である

イジメてきた奴らの名前を書いておいた、

ざまぁないなと笑みが止まらない。

奴らはこの先、人を死に追いやった

外道という称号を死ぬまで引きずるのだ。


もみ消し、なんかもあるかもしれない。

奴らの親が実はかなりの権力者だったり

金持ちだったりするかもしれない。

だから校舎から落ちる瞬間、

snsに実名をリークしてやろうと思う。


…死ぬとなると何も怖くないな。

死は恐れられるものだが

自死にはさまざまな メリット が潜んでいる。

世間の注目を集められる、

好きなタイミングに死ねる、とかな。


はぁ、独り言も疲れてきた、

そろそろ飛び降りてやろう。


寒い夜の風を精一杯浴びながら、

安全防止の柵を乗り越える。


snsリーク用のスマホの準備はok、

…心の準備はok。

あ、死ぬ前といえば最後に何か言いたいな。


…俺の死が、貴様らの絶望になる。

これは俺の最後の報復である。


んんんん、良い、最高だ、

よし、叫びながら飛び降りてやろう。


「俺の死が!貴様らの絶望に繋がる…

これが!俺の!最後の報復だ!」


「おめでとうございますー」


パっと、倒れ行く身体を止めるために

安全防止柵を掴む。


「え、あ…だ、誰?」


「え?死神ですよぉ、というか、

早く降りてください、さぁ、せーの」


「…」


これほどまでに精巧な

幻覚はいままで見たことが無い。


リアルな人間の骸骨を頭に乗せ、

それ以外の部分は黒いローブで隠している。

その中から飛びだす腕は

2m以上はあるであろう鎌を掴んでいた。


「えー、なんですか?冷やかし?」


「待て待て、死神…?

というかさっきの おめでとう ってのは?」


「あぁ、現世からの解放

おめでとうございますってことです。

新生活の始まりは めでたい ですからねぇ」


「はぁ…」


死神なんていう非現実的な存在を

俺は全くもって信じてなかったわけだが

目の前にいるのであれば信じざるをえない。


「さて、早く死んでくださいよ」


「な、なんでそんなに急かすんだ?」


「いやあねぇ?

人間って死んだら魂だけになって

天国か地獄に行くわけなんですけど、

現在地獄の労働者が減少傾向にありまして…

それに伴って労働力の補充が必要なんです」


「あぁ…つまり誰でもいいから死んで

地獄に行けぇって考えか」


「まぁ簡単に言ったらそうですね」


「人の死を何だと思ってるんだか…」


「現世での死はこちらに来るだけですから…

地獄出身の私としては

別に珍しくも悲しくもないですねぇ」


「…ま、なんというか、悪いな死神。

俺は地獄に行くほど悪いことはしてねぇよ」


「えぇ…残念。死んでください」


「おい待てその 死んでください は

ただの罵倒だな?」


「よく気づきましたね!死ね!」


「はは!なんだぁてめぇ!」


頭蓋骨を掴みながら

ぶんぶんと揺らしてやったら

眼球があった場所に、

漫画じみた渦巻きのマークが生まれた。


「うげぇー揺らすのはやめてー!」


一息ついて。


「なぁ、地獄の労働力が減少とか

言ってたけど、地獄から人が

いなくなるってありえるのか?」


「いやぁ、最近の魂は脆いんですよねぇ…

魂って暫く時間が経つと無に還ったり

別の生命に宿ったりするんですけど、

最近の魂はそれが急速に起こるんです。

最近大犯罪者が減りましたからねぇ。

まぁそれでお偉いさん方が

魂を無理やり縛り付ける装置を

造ったんですけどねぇ…

その装置を使うにも今魂が少なくて…」


「俺みたいに…自殺するやつとかが

いるんじゃあないのか?」


「正直自殺者なんて

程度が知れてますからねぇ。

早く戦争起きないかなぁ」


「あんたは… これ が仕事か?」


「えぇ、はい、死んだ魂をすぐに回収して

地獄へと届ける係です。

あんまり大声で言えませんけど最近に限って

ほんのちょっと法を犯したりした魂でも

地獄に連れてってokって言われてますから…

あなた窃盗とか暴行事件とか

起こしてたりしてないですか?」


「してねぇよ。俺は真面目に生きてきた」


「そうですかぁ…あーあ、

ノルマ今月達成できてないんだよなぁ…

あと4人ですよ?しかも明日中にって…

無理に決まってるでしょ全く」


「死神の仕事にもノルマとかあるんだな」


「死後の世界でも

労働の毎日ですよみんな。

ま、よっぽど悪いことしてなければ

軽度の労働ですけど…大犯罪者の場合は

拷問受けながら仕事してたりです」


「ノルマ達成出来ないとどうなる?」


「消滅です」


「まじで?」


「大マジですよ…はーぁ、

転生も出来ないとかブラックすぎる…

数百年、数百年ですよ?私はコツコツ

地獄の為に頑張ってきたのに…

たまたま…今月は死人が少ないんです。

努力が報われないとかどこの現世だよ全く」


「…死後の世界も大変そうだな」


「そうですねぇ、ま、罪が無いなら

すぐに死ねとは言いませんよ、

適当なタイミングで適当に死になさい」


「んー何だろうな、人と…いや、死神か。

まぁ何にせよ会話したら気持ちが晴れた。

最近、人と会話してなかったんだよ

…色々…あってな」


「まぁ、こっちの世界も楽じゃないのは

知ってますとも」


「…自殺辞めるよ、やりたいことができた」


「それは良かった。やりたいことなんて…

私は全然出来てませんよ。

…それでは私はここら辺で

消滅しないように足掻いてきます」


「あ、待ってくれ」


「?何です?」


「…ちょっと相談が…いや…」


「?」


「…取引がしたい」






『ーーーK市連続猟奇殺人事件の犯人として

田中幸雄容疑者が逮捕されました』


『調べに対し幸雄容疑者は

「イジメられていた報復として

あの4人を殺害した」と容疑を認めており、

背景にあるイジメの調査が進んでいます』







「…はっは、おめでとう、罪深き者よ」


4つの魂が祝福の言葉と共に

紅い目をした死神に掴まれる。


「本当は軽い罪なんだけど…

死神と悪魔は契約をキッチリ守るんだ。

貴様らの魂は彼のご希望通り

ちゃあんと 大罪人 扱いにしておこう」


めでたい、めでたいと祝福しながら。

その影は嗤い、地の獄へと溶けていった。

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ようこそ『おめでとう』 黒秋 @kuroaki

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