一九 横か、縦か

「でも、ティナとエレーシーの人数を合わせると1000人くらいだよね。すごいよ!」

 アビアンがエレーシーの肩を叩いて励ましたが、ティナはそれを聞いて背筋を伸ばした。

「1000人か……私の村の何倍もの人だものね……」

 フェルファトアは閉じていた目を伏し目がちに開けた。

「天政府人のような、縦型の体制にするしかないのかしらね……」

 この言葉にいち早く反応したのは、同じく縦型の社会で生きるエレーシーだった。

「でも、私達ミュレスの民はその『縦型』に支配され続けてきたんだし、嫌がる人も多いんじゃないかなぁ……」

「いやあ、それでもみんな横並びの社会にはならないわよ」

 フェルファトアは伸びをしながら応えた。

「これくらいならともかく、1000人もいたら決められないと思うわ。やっぱり、誰かが上に立たないと」

「みんなの上、か」

「まあ、決めるとしたら、この中から決めるのでしょうね」

 4人は、またもや周りを見回した。

「……フェルフはどう?」

 エレーシーが静寂を打ち破って声を上げた。

「私? だけど……4人の中じゃ私はよそ者だけど、いいの?」

「うーん……」

「エレーシーは? 頭もいいし」

 エレーシーは微笑みながら腕を組み、頭を揺らした。

「どうかなあ……」

「大丈夫よ」


 譲り合いの応酬が繰り返される中、一人様子を見つめていたティナが突然立ち上がった。

「待って。ここでこんな事をしてても何も決まらないわ。ここは、ここは……」

 ティナは口を固く締め、開くとともに小さく震えた声を発した。

「私が……やるわ」

 ティナはこれまでになく真剣な顔つきで3人を見下ろした。その覇気に、言い争っていたフェルファトアとエレーシーはただただ見上げるしかなかった。

「……ティナが、やるのね?」

「……ええ」

 3人は再び顔を合わせ、柔和な面持ちでティナを見つめた。

「そうだね。ティナなら優しいから、上に立っても反発は置きないかもね」

「そうね。足りないところは、私達で何とかしていきましょう」

「じゃあ、今から、私達の首長はティナでいい?」

「いいよ」

「決まりだね!」

 3人は拍手して新たな指導者の誕生を祝った。

 ティナは、しばらく上を向いて立つばかりであった。


「じゃあ、私はティナの支援をするよ」

 エレーシーは拍手の手を止めてスッと立ち上がり、ティナの肩を抱いた。

「そうねえ、私もティナのサポートをしようかなあ」

 フェルファトアも少し考えた後にゆっくりと立ち上がった。

「じゃあ、私は……エレーシーの支援をする!」

 アビアンはサッと立ち上がり、勢いそのままにエレーシーに飛びついた。

「あ、こら」

 エレーシーは突然の抱擁に驚き、ティナの肩から手を放してアビアンを抱き返した。

「ふふ、決まったわね。それじゃあ、当面はこの4人を中心にして、がんばりましょう」

 ティナは少し笑みを浮かべながら、テーブルの上のグラスを手にして胸元へ掲げた。それを見た3人もティナの要求を察して各々のグラスを手にした。

「それじゃあ、明日からはさらにがんばりましょう。民族のために」

「民族のために」

 4人は再度グラスを合わせ、残りの酒を一気に飲み干した。

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