第七節 制限された社会の中で如何にして体制を成すか

一八 報告会

 寒さも緩んできた3月上旬の週末、3人はアビアンも交えて、郊外の酒場の2階でいつものように飲んでいた。

 酒の肴は節約して、小鉢に入った魚料理を一つか二つ頼んでいた。

 結果から言えば、あの冬の日の武器の持ち出しは成功裏に終わっていた。そればかりか、あの成功体験に味をしめ、既に2回ほど同じ手口で武器の持ち出しを行っていた。3回目には、何があったのか、大量の盾まで手に入った。

 人員確保の方は、規模を考えればまだ満足とは行かないものの、呼びかければ何百人と集められるのではないかというところまで来ていた。


「さて、あと一ヶ月を切ったわね」

 4人は、計画の本格的決行日を4月の第一日と決めていた。ミュレス民族にとって、「春」というのは民族的にも重要な意味を持っており、特にその始まりである4月1日は、この日に始めると全てうまく行くとされる一番の吉日で、「芽生えの日」とされている。

「やっぱりその日を意識すると緊張するわね」

「そうね。最初の一歩はとても重要よ。後悔しないように、準備はしっかりやっていきましょう」

 フェルファトアは冷静に言い放った。

「とは言ってもね、どうやるの?」

 4人は再び口を噤み、ただ黙ってお互いに目を見合わせていた。

「……最初の一歩、か」

 エレーシーは組んでいた腕を頭の後ろに組み直し、天井を見上げた。

「いきなり大都市に挑むのは無理だよね。例えば、このシュビスタシアとか」

「そうね。あと一ヶ月弱じゃあ、まだまだ足りないところは多いわね。武器も、人数も」

「そうだとしても、小さな村をコツコツしていくのでは、すぐに制圧されてしまうわね」

 再び、沈黙が場を支配した。


「……まずは現状を把握しましょう。じゃなきゃ、作戦も立てられないわ」

 4人は、これまでの活動の成果から作戦を考えることにした。

「そもそも貴女達、これまでに何人に話しかけられて、誰が協力してくれそうか分かってるかしら?」

「うーん、私は毎日会いすぎて、ざっくりとしか覚えていないかも」

 アビアンは空を見つめながら、これまでに会った人を一所懸命に思い出そうとしていた。

「さすがのアビアンも、この人の波じゃ無理か。私も一応、会う度に紙に書いてはいるんだけれど、直接会った後にまたアビアンから聞いたりしてるから、正確な数は分からないけど……私のところは大体、そうね……」

 エレーシーは部屋のタンスの奥にしまった紙束の量を思い浮かべていた。

「6~700人くらいかな」

「さすが、街の人は違うわね。ティナは?」

「うーん、私はこの町に知り合いがいるわけじゃないからそんなでもないけど、村の皆は結構手伝ってくれそうだし、運送関係の人達も結構来るわね。あ、あと、同じ黒猫族の皆は私に話しかけてくれるわね。全部で、えーと……それでも3~400人はいるわね」

「みんな、この冬の間だけで結構頑張ってるじゃない」

 フェルファトアはティナとエレーシーのグラスに酒を注ぎながら褒め称えた。

「ありがとう。それで、フェルフは?」

「私のところはすごいわよ」

 フェルファトアは酒を一飲みした。

「2000人は超えてると思うわ」

「2000人? !」

 3人は思わず声を張り上げた。

「ちょっと、静かにして」

「だって、この数ヶ月で2000人も集めたんでしょ?」

「私は行く先々で本を使ってるしね。一応、町に一人は信頼できる人がいるの。その人伝で広めてもらってるわけ。それに、西の方が何となくだけど、興味持ってくれそうな人は多そうだわ」

 すると、アビアンが申し訳なさそうに手を小さく上げた。

「あ、あの。一つ質問なんですけど」

「何?」

「フェルファトアは西のほう、ティナとエレーシーはシュビスタシアで人を集めてるけど、どうしてひと処で集めないの?」

 実に素朴で適切な質問だったが、これにフェルファトアが答えた。

「まあ、最初はこの中央地域で集めようと思ったんだけど、意外と私が地上統括府市にいることも少なくないし、それに西の方でも人を集めていればいいことあるかなって思ってたからよ。それに、ティナとエレーシーが頑張ってるのに、私がのんきに構えてるわけに行かないでしょ」

「でも、2000人を放置して、そのまま4月を迎えるのは惜しいわね」

 ティナは再び腕を組み、考え直した。

「まあ、自分で言っておいても、惜しいと思うわ。2000人って相当だもの。でも、地上統括府の近くだとさすがに警備も堅そうだし……」

「わかるよ。天政府人って、上の人の言うことにはパッと従うらしいから、ちょっと統括府長が言えば、パパっと集まっちゃいそうだよね」

「私の受入所でも、その上に従うせいで散々苦労したんだから」

「パパッとね……」

 フェルファトアは一言つぶやいて、また腕を組んで目を閉じた。

「それだけいるんだったら、そっちで別に部隊を組んだほうが良くない?」

 エレーシーは妙案を思いついたとばかりに明るい顔で提案した。

「地上統括府市で? それはちょっと大胆すぎるわ……」

 フェルファトアは少し困ったように顔をそらした。それを境に他の3人の感触も良くなく、また静まり返ってしまった。

「ま、まあ、そっちの方は後で考えましょう。」

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