第12話 リボルト#19 希望と絶望 Part4 鉄の獣たち
街に出ると、見るからにヤバい機械たちがあちこち破壊行動をしてやがる。奴らは機関銃や火炎放射器、ひいてはレーザーやミサイルまで放っている。どう見ても、この世界の代物じゃないことが明らかだ。
それに伴うのが、耳をつんざくような悲鳴と爆発音だ。あの野郎ども、無関係な人間まで……!!
「おい! お前たち、弱いものいじめを止めて、このオレが相手だ!」
プライドの手に握っている剣を掲げ、巨大歩行兵器に向かって大声を出して注意を引こうとする。その姿は、あたかも勇者そのものだった。
この一声はかなり有効で、巨大歩行兵器が砲口をこっちに向けてきた。
彼の勇気ある行為は称賛に値するものだったが、これを見て眉をひそめる人もいた。
「プライド、キミはバカか! ヤツらがこちらに気付いていない時は、不意打ちを仕掛ける絶好のチャンスだというのに!」
バフルはプライドの無謀とも言える行動を非難し、焦りを見せている。
「いや、勇者たるものは、そのような卑怯な作戦をしてはいけない!」
「まったく、キミというヤツは……」
あまりにもバカ正直すぎるプライドの言葉を聞いたバフルは、やれやれと首を横に振る。
それにしてもこのやりとり、どこかの二人に似てるような気がするな……
俺は正人と拓磨がいる方向へと見ると、彼らは互いの顔を見合わせ、何故か気まずそうに目を逸らす。やっぱりそうなるのか。
「ちょっと、今はお喋りしてる場合じゃないでしょう! 敵の攻撃が来るわよ!」
霞の注意と共に、巨大歩行兵器がバルガンの銃身を出現させ、銃弾の雨を降らせる。
「大丈夫だって! どうせこれもゲームの演出で、当たっても痛くねーんだよ!」
まだゲーム感覚に溺れている聡は、なんと逃げも隠れもせず、堂々と弾道の前に突っ立ってやがる!
だがこの音と飛び散る破片は、どう考えてもリアルすぎる。もしあの銃弾が本物なら、聡が危ねえ……!
「この馬鹿者!」
「うわっ!?」
幸い広多がとっさの行動で聡を押し倒し、なんとか弾道からずらすことができた。ふうー、危ないところだったぜ。
「なっ、なにやってんだよ、広多!」
「お前こそ何をやっている! 危うく死ぬところだったんだぞ!」
「け、けどよ……」
「話は後だ! 今は戦闘に集中するぞ!」
広多の口元はいつも通りにマフラーに隠れているため表情が見えないが、その険しい目付きから彼が聡のことを本気で心配していることが窺える。
それにしても、なんて大きさだ。あの巨大歩行兵器、近くで見るとビルみたいにすげえ高えじゃねえか。
その構造は、蜘蛛のような長い足に、背中には大きな砲台が乗っている。なんつーか、まるでヤドカリみてえだ。
そして碧の話によると、こいつらには魔法も効かないらしい。資質持ちの俺たちには関係ない話かもしれないが、生身の人間がこんな機械に勝つには、一苦労するだろうな。
「えいっ!」
突如どこからともなく、バスケットボールのような大きな火の玉が飛んでくる。それが巨大歩行兵器の一台に見事に当たったが、目標はまるで何事もなかったのようにびくともしなかった。
「うそ、まさか『イフレ・ラブル』も効かないだなんて……噂は本当だったのね」
声がした方向へと向き直ると、そこには学校の制服らしき衣装を身に包んでいる女性が分厚い本を持っている。その後ろには、もう一人の少女の姿が見える。
その様子からだと、敵ではないようだ。そんなことはさておき、俺もそろそろ何か技を仕掛けないと。
「行くぜ! 千里の一本槍!」
俺は得意技を駆使し、稲妻を目の前の敵を目掛けて放つ。
「ズズズズズ!」
稲妻が敵に当たった瞬間、電気により憎き巨大歩行兵器が震えている。どうやら魔法は防げても、
「よし、効いたみたいだな!」
目覚ましい成果を目の当たりにし、俺は喜びを隠しきれず片腕でガッツポーズを取る。
「マジか! よーし、オレも続けていくぜ!」
俺の攻撃を見て自信が湧いたのか、聡は早くも自分が先ほど生と死の境目をさまよっていたことを忘れ、資質で自分の指を工具に変化させると巨大歩行兵器に向かって走っていく。
「馬鹿野郎、前に出すぎだ! 秀和、俺は奴の援護をするから、フォローを頼むぞ!」
「ああ、任せとけって!」
広多は俺に声をかけると、すぐさま自分の得物である大鎌を手にして聡の後を追う。
あいつ、すっかり聡のことが気になるようになったな。まあ、本人の前で言えばきっとまた反発するだろうな。
「どけどけ! 聡サマのお通りだぜ!」
まったく怖じ気付く様子もなく、聡は依然としてまっすぐ進んでいく。敵が絶え間なく発射してくる銃弾も、聡が器用に指の工具で弾いていく。
そしてあっという間に、聡と敵の距離が少しずつ縮んでいく。
このまま聡が敵にダメージを与えられると思われているが、相手もただものじゃなさそうだ。なんと今度は相手が上方からミサイルを、下方から火炎放射器で一気に攻撃を仕掛けてきやがった。
「うわ、あぶねっ!」
炎を見た聡は、さすがに今回は条件反射で横に避けたが、その動きを読んだかのように上方からのミサイルが軌道を変え、聡のいるところに向かって飛んでいく。
あまりの早さに、もちろん聡はミサイルまで対応する余裕がない。だが……
「はああああ!
広多は大きくジャンプすると、使い慣れた大鎌を素早く振るい、ミサイルを一気に切り裂いた。
「サンキュー、広多! 助かったぜ!」
「お前は何度俺に助けられれば気が済むんだ? この前にあのサソリに殺され掛けた時に、お前を助けたのも俺だぞ」
「何だよ、せっかく感謝したのに! 恩着せがましいヤツだぜ!」
広多は相変わらず上から目線の発言で、聡を挑発する。ツッコみを入れたいところだが、今はそんな余裕はないな。
俺はもう一度千里の一本槍を放ち、電撃を喰らった巨大歩行兵器がまたしてもよろめく。
素質が効くのはいいものの、あれだけ厚い装甲に覆われると、致命傷を与えるのはやはり難しい。
それに素質ばかりに頼ると、
「うおおおおお!!!」
突然、空からプライドが落ちてきて、両手に大きな剣を頭上に掲げている。そしてその切っ先が巨大歩行兵器に突き刺し、大きな穴が開く。
「はあああああ!!!」
それでもプライドは剣を握る手を放すことなく、そのまま重力の作用で剣と共に下降し、巨大歩行兵器を切り裂く。
「ドーン!」
大きな爆発音と共に、一台の巨大歩行兵器が炎の海に飲まれる。プライドは振り向くことなく、こっちに向かって歩いてくる。風になびく赤いマントが、まさに英雄の証だ。
「す、すげえー……」
プライドの勇姿を見ていた聡は、呆気に取られている。
「みんな、無事か!?」
プライドは俺たちに声をかけ、状況を確認する。
「ああ、俺たちは大丈……」
「おい、今の技はなんだったんだ? 名前は? MPはどれぐらいかかるんだ? どうやって習得できるんだ?」
俺の言葉を遮り、聡はプライドの両手を握り、食い入るように彼を見つめながら質問攻めにする。
「え、えっと……? 何の話だ?」
さすがに熱血なプライドも戸惑いを隠せず、目をぱちぱちさせる。
「聡、何度も言っただろう! ここはゲームの世界じゃないって!」
そんな聡に俺は苛立ちを見せ、彼の場を弁えない発言を窘める。
「いやいや、だってこの世界も人も、どこをどう見てもRPGの世界じゃないか!」
「お前、またそんなことを言って……」
やれやれ、聡のゲーム好きは知っているつもりだが、まさかここまでとは思わなかった。早くこいつをなんとかしないと……
「ドン!」
俺たちが巨大歩行兵器を倒して気を抜いている時に、遠くから響いた大きな物音が再び俺たちの神経を引き締める。
……そうか、もう1台があったのか!
「おい、もう1台があったぞ! 助けに行くぜ!」
俺は皆に声をかけると、物音がした方角へと移動する。
そこにあるのは、大きなハサミを振り回しているカニのような機械だ。奴と戦っている仲間たちはその威力とスピードに
「くそっ……! この野郎ーー!!!」
仲間が倒されているのを見て、プライドはまたしても焦って剣を掲げて敵に向かってジャンプするが、カニ機械がそのハサミを上げると、難なくその刃を防ぎきった。
「な……なんてこった! この
プライドは驚きの色を見せるが、感情のない機械から返答は一切なし。奴はハサミを大きく動かすと、衝撃を受けたプライドは弾かれてしまい、遠くの地面に叩き落とされてしまう。
「ぐわっ!」
ダメージを受けたプライドは、悲鳴を上げる。彼を助けたいのは山々だが、まずはあの殺戮マシンを止めておかないとな。
「哲也! 援護を頼む!」
「ああ、分かった!」
俺の呼び掛けに応じて、哲也はカニ機械の攻撃をいつでも対処できるよう、腕に装着しているバックラーを展開させる。
案の定カニ機械がその大きなこっちを目掛けてハサミを突き刺すが、幸い哲也のバックラーが固く、ダメージを受けずに済む。
カニ機械が哲也に気を取られている隙に、俺は奴に近付いて攻撃を仕掛ける。
真正面から攻撃を仕掛けると、またプライドのようになるかもしれない。ならば……!
「千里の一本槍・
俺は風を引き起こし、憎きカニ機械を下からひっくり返す。仰向きになった奴はバタバタと足を動かすが、もちろんその状態で思うように動くのは不可能だ。
よし、俺もさっき買ったチェーンソー型の剣で、こいつを八つ裂きにしてやるぜ!
俺は背中に付けている「ディスクライマー」を手に取り、カニ機械を目掛けて得物を振り下ろす。
カニ機械の外殻は思った以上に硬く、鋸の歯が当たってもなかなか傷痕が残らない。
まあ、ちょうどいい。こいつの真のすごさを試させてもらおうじゃねえか!
俺はディスクライマーの刀身にある大きなDの字のボタンを押すと、刃の部分がまるでチェーンソーのようにすさまじいスピードで回転する。
これならいけそうな気がする。さあ、覚悟しろ……!
俺は迷わずディスクライマーをもう一度振り下ろすと、空気をつんざくような鋭い金属音が響き渡る。そして俺は難なく剣を動かし、カニ機械を真っ二つにしてやった。
まるで豆腐を切るように容易かった。さっきの硬い
大変便利な代物だが、さすがにこれを人間に使うのは止めよう。何しろ俺はどこかの殺人鬼とは違うからな。
「みんな、大丈夫か?」
俺はプライドに倣い、負傷している仲間たちの状況を確認する。
「大丈夫なわけないじゃないか! いくら殴ってもびくともしなかったし、もう拳がパンパンだぜ!」
直己が腫れ上がった手をばたばたさせて、その痛みを必死に伝えようとする。
「あの硬い外殻にダメージを与えるのは、普通の攻撃じゃやはり無理そうだな。この世界の住人の魔法も当てにならない」
拓磨は手中のサバイバルナイフを回しながら、自分の無力さを嘲笑うかのように首を横に振る。
「なんだ、素質を使えばいいんじゃないか?」
「それぐらいのことは考えてある。だが素質ばかり頼っていると、P2が底を突き体が無気力になってしまう。そうなればただの的だ」
正人の質問に、拓磨は少しイラついて返答する。
「えっ、なんでそうなるの?」
それを聞いた優奈は、思わず次の質問を投げる。
「それはあたしが説明するわ」
突然、後ろにいた十守先輩が前に出る。
「以前P2には正と負の二種類があるって、話したわよね」
「ええ、そうですが」
「あたしたちが今こうして頑張れるのは、体の中に正のP2があるからよ。『やるぞ』『がんばれ』とか」
「あっ、ジュエル・クインテットがピンチになった時に、視聴者のみんなに応援してもらって、パワーをもらうのと同じ感じですね!」
菜摘はこの前見た魔法少女戦士のアニメを思い出し、分かりやすい例を挙げる。
「ええ、まあ大体そんな感じね。でももし素質を使ってP2を大量に消耗すると、逆に空気などに漂っている負のP2が入り込んできて、頑張ろうとする気力がなくなって、逆にだるいとか思うわけよ」
「なんか仕事が終わったサラリーマンみたいですね」
「うわ、妙にリアルな例えやめて」
十守先輩の説明を聞いた俺もごく自然に例を挙げるが、それを聞いた聡はあからさまにイヤそうな顔を浮かべる。
「で、どうする? 銃が使えればある程度P2の消耗を抑えられるが、このままだと確実に戦闘に支障をもたらしてしまうぞ」
この一連の状況を分析し、拓磨はとある結論に導いた。
確かに彼の言う通り、銃が使えないと自然に素質を使うことが多くなりP2の消耗も激しくなるが、銃を使うとこの国の法律に触れることになる。そうなると俺たちは牢獄に閉じ込められ、この世界を救うのも無理だろう。まったく、とんだジレンマだぜ。
俺たちはまだこの世界に来たばかりだし、何よりも大事なのはいい人間関係を築くことだ。もしここで法律を無視して無闇に銃を使うと、これからの行動に支障が出るに違いないだろう。
ブラック・オーダーの連中め、まさかこれを見越してこの世界を舞台に……? なかなか考えたじゃねえか……!
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【雑談タイム】
聡「なんだってー!? あのクソ教師ども、よくもこんな手の込んだトリックを……きたねえー、マジできたねえーぜ!」
広多「ふんっ、今回だけは貴様とは同意見だ」
菜摘「どうしよう~? 銃が使えないと、素質を使うしかないし、でも素質ばかり使ってるとみんなすぐ疲れちゃう……何か方法はないの?」
美穂「んふっ、こうなればやっぱりあたし自身の武器を使わないとね」
千恵子「どういう意味ですか?」
美穂「そんなの決まってるじゃない。お色気作戦よ! というわけで菜摘、千恵子、その自慢の体を晒しなさい!」
千恵子&菜摘「い、いやああああ~!!!」
秀和「いや、機械相手にそれは無理だろう……」
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