愛の守護りは君にこそ

36-3

  ~36-3~


…似合っているな』


 新婚旅行、と言って差し支えない筈の行楽から帰還してはや半月。未だに思い返しては口角の歪みを抑えきれぬ程の幸福感に陶酔していた。


 「…そっちの手番だけど?」

 カウンターの対面から声が掛かる。あぁ、そう言えば対局の最中だった。


 「投了で…」

 「いや多分あと数手でこっちの詰みなんだけど!」

 見習い氏には申し訳無いがそれどころではない。カウンターに垂らした契りの証は繁雑な盤面よりも眺めて楽しいのだから仕方ない。


 「腑抜けた顔しちゃってもう…旅行は余程楽しかったね?」

 「えぇ…それはもう…」

 話し半分に返答する。頭を凭れさせて眺める先には談笑するあの人の横顔、全く絶景である。


 「出先からずっとこの調子だ…正直照れ臭い」

 此方に目をくれること無く呟くあの人、本当に照れているらしい。可愛いなぁもう。


 「一月見ない間にえらい変わりようだな、一体どんなハネムーンだったか想像したくもねぇ」

 「じゃあ態々口に出すなよ…お前も、余り冷やかしの種を呉れてやるな」

 おっと、思わず心中が口から漏れていたか。それでも漸くと此方に視線を向けられてつい頬が弛んでしまう。

 「駄目だこりゃ」

 対面の見習い氏は九死に一生を得たキングを指先で弄びながら呟いた。

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