33-6
~33-6~
不意を討って腰から手に取ったデリンジャーを抜き撃ちにするまでは恐らくコンマ五秒前後、先程の早撃ちを見た後では何とも頼りない。生きて帰れた時には欠かさずスピードシューティングの訓練をしようと心に決める。
詰め切るには私のデリンジャーの他にもう何手かが欲しかった。手数、と言うよりは男が引き金を絞る迄の数瞬を買えるような手順が。
腹部の出血を抑えるのに片手の塞がった義父殿、薬で動けない老紳士、事切れた護衛の二人と床に転がった彼。何とも頼りになる布陣、泪が出そうだ。しかし其れ等すらも手の内に数えて策を練り上げねば到底裏返せる窮状でもない、時間は限られている。
「忠節は結構な事だ、だが大勢は決しておらんなら此方に付くのが道理ではないのか」
せめて誰かが気を逸らしてくれればと、そんな祈りが通じたか息も絶え絶えの義父殿が男に問答を投げ掛けた。
「この場の決着しかご覧でない手合いと違って俺は先まで見越しとりますんで」
男は忌々しげに吐き捨てる。まぁ言わんとする所は分かる。
「あぁ、まぁ、言わんとする所は分かる」
義父殿は私の独白と一言半句違わぬ文句を返す。いや、其処で納得されては困るんですが。見切り発車で会話を試みたらしく存外役に立ちそうにない。
「オヤジに伴って連中と付き合う内にどれだけ強大な相手と対峙しているか、街を取り戻すのに見合うリスクか考えちまったらもう、俺にはこれ以上無理でさ」
思いがけず独り語りに興が乗ってくれたらしい。悪くない展開だが右手に構えたブローニングを下ろす気配は無い。指一本も動かせない現状に動きが無い事にも変わりは無いのだった。
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