33-4

 ~33-4~


 渡世の術に命の遣り取りを選んだ以上避けて通れない道ではあるが、実の所銃弾を真面に身に受けた経験は数える程しか無い。先達ても義父殿から利き足の肉を抉られた訳だが、其れより深刻な位置に傷を負ったのは物騒な稼業に身を投じる前の事だ。


 ~回想-4~


 火の手の周りは遅い、道を誤らなければ良いのだと自分に言い聞かせ時折縺れそうになる足を鼓舞しながら歩を進めた。塞がった両手で躓きでもしては目も当てられない。右手で彼を抱き、左手は彼女の手を引いている。緊張か熱気の為か、湧き上がる手汗が疎ましくて仕様が無かった。


 「…ごめんなさい、私が自分で走れないばかりに」

 泣く子を小脇に抱えた私の隣で自身も泣き出さんばかりの声で彼女が語り掛けてくる。視界を得ない彼女にとって、口を開いて居なければ不安に圧し潰されてしまいかねない状況なのだと理解していた。


 「良いんだよ、こんな時でなければ頼ってくれないだろ?」

 握った手を揺する様にして自省の不要を訴えた。努めて明るい声で、届かないと知っている笑顔を向けて。実際、普段の彼女は大概の事は一人で始末を着けてしまう為亭主は形無しも良い所だったのだから。


 苦笑で返す彼女の手を再度確りと取り直し歩み続ける。私達が居るのはホテルの三階、もう一フロア降りてしまえばエントランスホールから正面入り口が視界に捉えられる筈だった。


 「こっちだよ!急いで!」

 火災警報と燃える柱が爆ぜる音に交じって響く声は良く見知ったメイドの其れだ。下階へと続く廊下で此方に手招きをしている姿を灰煙の奥に見付けるのが容易な程度の火勢、安全に脱出する猶予は十分に有ると思えた。


 「大丈夫です!先に行ってください!」

 歩みを止めず言葉を返した。助けを乞う程に切迫はしていない。抑、両手に携えた私の命の内何方を他人に託せば良いかなど決められる筈も無い。不安げに、しかし了承したらしいメイドは頷きだけ返すと階段を下りて行った。


 数舜の後、明らかに周囲から響く其れと異なる破裂音と閃光が耳目に

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