33-1

~33-1~


 隠し通路の終着点は人目に付き難い北東角の物置部屋だった。幸いにして見張りの姿も無く、想定外の奇襲を掛けると言う最低限の目標は達成出来るだろう。欲を言えば、このまま敵の監視を避けて目標を奪取できれば言うことは無いが。


 義父殿に付いて居た一人がポイントマンとなって廊下に繋がる扉の前に立った。もう一人が手慣れた様子で援護位置に付く。軍隊式の洗練された動作は感心の一語に尽きる。後に続くかと思われた義父殿が此方に振り返った。


 「達者でな」

 穏やかな声の中核に有無を言わせない意思を込めているのは誰の耳にも明らかだったのだろう。後背からシャツを噛む彼自身後ろ髪を引かれる思いを僅かばかり抱くような、そんな力の加減を感じた。


 何をか言葉を返そうと口を開きかけた刹那、扉と我々の中間に位置取っていた一人が此方に向けて後退るのが見えた。視線と銃口は扉に向けたまま後ろ手に義父殿の背を叩く。義父殿が向き直した扉の方向ではポイントマンが何がしかの合図を此方に送っていた。


 其を見るやに義父殿は手近な物陰に私の身体を押し込んだ。どうやらポイントマンは接近する足音に気付いたらしい。物陰に身を潜めたと同じ頃合いで私の耳にも届く、既に扉の前に迫っている。


 今から隠し通路に駆け込んだのでは間に合わない、追撃を避けるなら此の場で音を立てず排除する他は無い。足音は一人。この面子であれば造作も無いにせよ、この後を考えれば決して慢心はできない。


 追従する足音が無いことを認めた一党は方針を即時排除ではなく捕縛してからの尋問に切り替えたらしい。MPをブローニングに持ち替えたポイントマンは扉の死角に音も無く移動する。文字通り息を殺し薄暗い部屋の中で輪郭すら朧気になったのではないかと錯覚し眉を顰めた私の頭を義父殿の手が再度物陰に押し込んだ。


 扉の前で足音が止まる。全員が息を殺す中で、早鐘を背中に感じる私は額を伝う汗の冷たさに辟易する余裕も持てなかった。

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