17-2

~17-2~


 男の様子を一瞥した私は食材の保管庫を開く。料理長は場末の売春宿に相応しく雑把な性格をしており、客に使った残りの食材を其処の隅に置くことを許していた。賄いに其れ等を自由に使って良いとも。


 玉葱が半分、マッシュルームが二つ、封の開いた、10分程前に期限の切れた生クリーム、親指大のパルミジャーノ・レッジャーノ、それと冷えて固くなったライスを一皿。其れ等を調理台に載せた私は更に昼から仕込んでいたコンソメを一掬いだけ失敬して包丁を手に取った。


 再び清掃する手間を考えないではなかったが、幸運な事に明日は休暇を貰っていた。郷里を離れてからこっち他人に料理を振る舞う機会がなかった事も手伝って上機嫌で手を動かしていた記憶が有る。


 出来上がったリゾットを恭しくも手早く掻き込んだ男は満足そうに息を吐いた。視線の先に栓の開いたロッシィ・バスをちらつかせたところ満足気に頷く。同時に目線で同席を促して来た為グラスを二つ手に取って対面に腰掛けた。


 「親切な料理人に」

 残り物を半々に注いだ為一杯と呼ぶにはやや不足したグラスを傾けた男が笑顔と共に告げる。どうやらこう言った遣り取りを恥ずかしげ無く熟す洒落者らしい。


 「未成年に飲酒を促す碌でもない親分さんに」

 まともに取り合うのも馬鹿らしかった私は悪態で返す。若さに任せたとは言え少々どぎつい毒だ、今思い返すと笑うしかない。


 互いに一口含み、味わい、飲み下す。先に口を開いたのは男の方だった。


 「成人していないのかい?とても見えないね」

 「ついでに申し上げると料理人でもありません、只の雑用係です」

 褒め言葉ともつかない言葉への返答に迷った為もう一つの誤解を解くことを優先した。


 「其れを言うなら私も親分と呼ばれる立場ではないね、ここは兄の持ち物だ」

 どうやら互いに勘違いをしていた様だ、と付け加えた男は愉快そうに笑い声を上げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る