11-2-3

~11-2-3~


 廊下に男性の絶叫が響き渡る。見真似も甚だしいゲリラ撃ちが四方や命中するとは思わず何かの罠かと思い警戒を強めたが応射の様子も無かった。呻き声に変わった音源に向って今度は手慣れた獲物で追撃を加える。声が止むのを確認した私は姿勢を低く保ち柱の影を転々としながら化粧室へと歩を進めドアを開いた。


 手狭な化粧室に転がる遺体を蹴り転がし事切れて居る事を確認すると踵を返し階段に向って駆け出す。道中の遺体の生死を確認する暇は無かった為視界に入っている数と風体のみを検める。襲撃に気付き小ホールまで退避する道中に仕留めた者、其処からの応酬で仕留めた手応えの有った人数と相違無い事を確かめた私はホール前を通り過ぎる刹那「クリア」と叫び其の儘廊下を直進した。


 階段の手前、廊下の切れ目で一度立ち止まる。ホールを出るとき同様にクリアリングを行いながら二階へと続く踊り場を覗き見る。壁から三歩分ほど離れた所で視界の端に人影を認めた。反射的に引き金を引くが踊り場の壁に銃弾を阻まれる。即座に身を潜めると同時に乾いた発砲音と風切り音が耳に届く。狙いは正確、遮二無二撃ち込む様子も無い点から対峙した相手の力量が窺えた。だが相手の獲物が分からない。


 廊下に転がっている連中の装備は揃ってMP5、サプレッサーは着けていない。潜入ではないのだから別段違和感もないが今耳にした発砲音は消音機から放たれる其れだった。連射速度も毎分800発には到底及ばないように聞こえた。狙いの正確さから言って自分の様なマシンピストルとも思えない、と言うより問題は其処だ。


 装備と力量の差から言って不利は此方に有るように思えた。唯一の救いは此方が上階から撃ち下ろせる事だが、人数を集められれば必敗を余儀なくされる時点で先程の攻防と変わりは無い。愈々玄関の警護が手際良く片を付けて挟撃を仕掛けてくれる事を期待せざるを得なくなった訳だが、それまでの膠着を相手が良しとしてくれるだろうか。久方振りに伝う冷や汗の感触を楽しむ余裕は無論の事無かった。

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