8-4
~8-4~
不意にあの人の両腕が背中に回された。自分の身体を確りと抱き止めたあの人が耳元で囁く。
「済まなかった」
其れは紛れもない謝罪の言葉。しかしそこに後悔の念は感じられず、寧ろ決意に満ちた響きが有るように思えた。
「無意識にお前の想いに甘えてしまっていたんだな…不甲斐ない」
自分も無い腕を懸命に動かし抱擁に応えんとあの人の首元を優しく包んだ。背中に感じる感触が強くなっていく。
「伴侶とは、互いに支え合うものなのでしょう?」
抱擁によって得た充足感が寂寥を溶かしていく。最早自分の心には愛しさだけが在った。
常には自分の情緒を見誤り失言も屡有るこの人だけれど、衷心からの求めに対しては言わんとする所を正しく理解し欲しい言葉を返してくれる。言葉ではなく通じる心が嬉しいのだと、いつかは直接告げなければいけないと思った。
「伴侶、か、そう思ってくれていた事にも気付いていなかった」
安心してしまったのだろうか、またもや失言ですよ、と心の中で苦言を呈する。
「つれない仰り様、そうでなければ一体僕はどんな位置付けなのだか」
もうぞろ再び虐めてやっても良かろうと判断した自分は芝居がかった口調で問い詰める。
「まさかあれだけ犯しておいて庇護対象などとは仰りますまいね?」
挑発的な笑みで見上げながら問うてみる。調子を取り戻したらしいあの人も自分と同じ表情で見下ろしていた。
「犯すとは心外だな、何時も善がるのはお前の方だと思ったが」
抱き締める手を腰に回し指先で撫ぜ上げてくる。吐息を混ぜながら耳元に喘ぎを浴びせてやった。
「許可を得たと見て早速盛っていらっしゃるので?まるで獣ですね」
「嬌声を上げながら言う台詞か」
「気分が高まるでしょう?…お互いに」
相手の肩を支えにして体を持ち上げた自分は眼前に見える耳を舐め上げた。思わず息を飲むあの人を鼻で笑ってやる。
「愛らしいのはどちらでしょうね?今日は僕がリードしてさしあげましょうか?」
既にスイッチは入っている、相手が望むのなら安淫売の様に奉仕する事も厭わない心境だった。
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