おめでとう
杜侍音
おめでとう
「おめでとうございます‼︎ 一等、2泊3日東京旅行二名様でーす!」
地方のとある町の小さな商店街で、私はクジ引きで一等を引いた。
周りで見ていた人は賛辞の拍手を送ってくれる。
「え、当たったの⁉︎」
「はい、それはもちろん金色の玉が出ましたので〜」
すぐ後ろのスーパーで千円毎に買い物することで、クジ引き権が一枚貰える。
私は母のおつかいで頼まれたものを千円ちょっと分買っただけ。貰ったクジ引き権たった一枚で引き当てたのだ。
私は家に帰り、すぐさま晩御飯の食材を待っていた母に報告する。
「へぇ〜、絵梨花凄いじゃない。おめでとう」
「あれ、あんまり驚かないんだね」
絵梨花とは私の名前。
母はこちらに顔を向けずに返事し、早速晩御飯の準備を始める。
「まぁ、良いことしてたらそれが返ってくるって言うしね。それに最近、運が悪いーって言ってたじゃない。やっとツキが回ってきたということよ」
「そっか、そういうもんか」
そこに父が晩御飯を待ちきれず、自室からリビングへとやって来る。
「ご飯まだー」
「今、食材が来たところです」
「お腹すいちゃったよ〜」
私はもちろん父にも同じ報告する。
「え、凄いな‼︎ おめでとう!」
母とは対照的な反応を見せた。
「で、誰と行くの? もしかしてパパと──」
「友達かな」
「ですよねぇー」
「もうすぐシルバーウィークだし、その連休中に行こっかな」
「夏休み終わったばかりのくせに、もう連休ですか」
父はふてくされて、そうボヤいた。
「お金はどうするのよ。遊んだりご飯食べたり、色々他にもかかるでしょ?」
「あぁー、確かに。お父さんお金ちょーだい?」
「やだねー。ただでさえお小遣い少ないんだし」
「ケチ臭っ」
「ケチとはなんだ! ……あ、そうだ。今お前運良いんだろ? 今度競馬でさ、勝つ馬を当ててくれたらお小遣いあげてやるよ」
「えー、競馬分かんないし」
「適当でいいんだよ、んなもん!」
「お父さん。何も考えなしに競馬にお金を使ってるんですか?」
母の料理する手が止まる。
笑っているけど怖い。
「あはは……と、とにかく! そうじゃないとお小遣いは渡せんな!」
仕方がないので、小さな希望を賭けて、競馬などよく知らない私は適当に番号を順番にいくつか言った。
そして、それが15万円を超えるほど大当たりするのであった。
「おぉ! 凄いぞぅ! 臨時収入だ!」
「お父さん。当てたからお小遣い」
「あ、はい」
もちろん、約束したことなので、父から5万円をお小遣いとして貰うことになった。
そして、旅行当日。
私は悩みに悩んだ末に親友の
東京に行くのは私も由佳も初めて。何から回るか何度も作戦を練った。
「やっぱりネズミーランドは外せないよね!」
持ってきた制服に着替えた私たちは千葉のネズミーランドへ入園すると同時に、私は花束を渡された。
「へ……?」
「おめでとうございます! あなたは7億7777万7777人目のゲストでございます!」
と、私と友達はあれよあれよとキャストに連れて行かれて特別ステージへと立たされた。
キャストの他に当園のキャラクターたちもお出迎え。園は完全なる歓迎ムードとなっていた。
年間パスポートや非売品のぬいぐるみなどをプレゼントしてもらった。
「え、なんかめっちゃラッキー!」
私の運はまだまだ続く。
興奮気味でホテルに戻ると、私たちの部屋が別のお客さんとダブルブッキングになっていたことが発覚。
私たちも向こうのお客さんもランクアップされた部屋に案内される。
さらにさらに、個人情報の生年月日から知られたのか、私の誕生日をホテル総出で祝ってくれた。
「「「誕生日おめでとう‼︎」」」
「あ、ありがとうございます……」
「
「ありがとう由佳……」
これだけじゃなかった。
風呂上がりにアイスを食べたら、当たり棒で、
「絵梨花凄い! おめでとう!」
と、祝福されて。
次の日にはまた別の施設で記念すべき人数として歓迎される。
「「おめでとうございます‼︎」」
「ありがとうございます……」
今、祝福されることが多い気がする。
街行く人々からも突然おめでとうと言われる。私、何もしていないのに。
もしかして過去だけではなく、未来の分まで、人生の運を全て使い果たしているのか。そこまで幸運は生き急がなくてもいいのに。
「わー、おとめ座一位だってー。絵梨花っておとめ座だよねー、おめでとう」
「朝の占いってさ、正直あてにならないよね」
「まー、確かに言われてみればそうかも」
「だからあまり嬉しくないかも」
「まぁ、一位になったことがラッキーていうか。ちょっとハッピーになれるじゃん!」
由佳は意外とポジティブ思考だな。
まぁ、由佳も結構運がいいか。私が当てたことで由佳も初の東京に来れたのだから。
由佳とは幼稚園からの友達だったけど、そういえば由佳の方が昔から運が良かった気がするな。
と、私は惰性でやり続けているソーシャルゲームアプリの10連ガチャをしながらそう思っていた。
結果はもちろん、大当たり。
「ねぇ、絵梨花。今日も制服で東京探索に行こう」
「えぇー、ネズミーランドでも着てたじゃーん」
「今のうちに制服着ておかないと、卒業したらコスプレになっちゃうんだよ!」
「確かに。さすがに卒業してから東京を制服でってのはキツイかぁ〜」
「じゃあ決まりだね!」
こうして私たちは東京を制服で観光することにした。
数々の観光名所を潜り抜け、様々な場所で思い出の写真を残していく。
「おめでとう。それは身を守ってくれるお守りだよ。それを引き当てるなんて凄い運だねぇ」
どこかのお店で、私はまた運を使ってしまった。
様々な効力があるストラップを販売しているらしい。これには、そんな力が宿っているのだという。
「由佳にこれあげるよ」
「え? いいの?」
「うん。付いてきてくれたお礼」
「ありがとう! 私の方が連れてきてくれてありがとうって言いたいのに。このお守り大事にするね! なんか私も考えないとなー」
「いいよ、別にー」
「おめでとう!」
「うわ⁉︎ ビックリした!」
別の場所を散策してたら、突然変なおじさんに祝福された。
宗教勧誘のような風体。無視して進んでいくと、別のところから「おめでとう」と祝福の声が。
とある女性が子供を妊娠したことを友達に報告したらしい。
私に向けてではなかった。
もしかしたらさっきの宗教っぽい男も私に向けてではないかもしれない。振り向いてみると、めっちゃこっちを見つめていた。
全然気のせいじゃなかった。しかも、不気味に笑ってるし。
また、「おめでとう」の声が聞こえる。
今度は電話越しの声だった。会社に就職が決まり、親に報告しているらしい。
そしてまたしつこく「おめでとう」が耳に入って来る。
両親に挟まれて手を繋いでいる男の子が3歳の誕生日を迎えたらしい。
「おめでとう!」
今日はどこかのチームがリーグ優勝が果たした日だという。
野球はあまり詳しくない。
「絵梨花? どうしたの、体調悪いの?」
「え……いや、全然! ちょっとうるさいね、この辺」
「そりゃー、目の前にはあの! 渋谷のスクランブル交差点だからね!」
信号が青に変わった。
待っていた人々はその瞬間、四方から八方へと自分の行きたい場所へと向かって行く。
間も無くして、断末魔が聞こえた。それと同時に叫び声や悲鳴も聞こえる。
「おめでとう」に飽きた私は、祝福と相反する叫びに意識を向ける。
「何だろ……?」
由佳も気になり、騒ぎのする方へ私と同じく意識を向けた。
と、いきなり人混みを掻き分けて一人の男が包丁を持ってこちらに向かっていた。殺意の目を宿らせ、男がここに来るまでに何をしてきたのか、私はすぐに理解してしまった。
そして、由佳は男と目が合ってしまう。
「由佳‼︎」
呆然として動けない由佳を、状況を把握した私が突き飛ばした。
同時に腹に感じる熱。何の抵抗もなく私はその場に倒れ込む。
「えりか……‼︎ えりかっ!」
由佳が私の名前を呼びかけ続ける。
しかし、声は段々と薄くなり聞こえなくなっていく。
痛かったはずなのにもう痛くない。
私を刺した男は次の人間に狙いを定めて、どこかへと行ってしまった。
何も聞こえなくなってしまったところで、一つだけハッキリと声が聞こえた。
──おめでとう。親友を救えたね
おめでとう 杜侍音 @nekousagi
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