第57話 交換
翌朝、
モンファにも同様に、魔法ペンで作ったお団子頭のカツラを被せて
あとは
「
「うん、任せて。追っ手を撒いた後はスバルでプレイオネへと戻ればいいんだよね?」
「ああ、舞彩を連れて戻ってきてくれ」
「うん。行くね」
憲兵たちが
「亜琉弓、うちらも行くぞ。なるべくモンファを隠すように歩いてくれ」
「わかりました。えと、手繋ごうか」
そう言って亜琉弓はモンファの手を取る。見た感じは仲の良い姉妹に見えるだろう。
俺たちはホテルをチェックアウトすると総督府の官邸へと向かう。遺跡の方は後回しにして、まずはイシアカ総督の元へ行くことにした
あの遺跡を開けるには少し準備が必要だからな。
とにかく舞彩たちが来るまでは時間があるので、その間に先に用事を済ませようということである。
亜琉弓とモンファはすぐに仲良くなって、道中での会話は弾んでいた。
二人とも見た目は同年代であり、亜琉弓は精神年齢もそれに準拠しているので親しみやすいのかもしれない。それだけじゃないかもしれないが。
ドリュアスの時もそうだったけど、亜琉弓には相手の心を開く能力でもあるのだろうか?
総督府に行くがイシアカ総督は留守だった。さすがに中で待たしてもらうことはできないので一旦、外に出る。
そりゃそうだ。身元不明の危険な奴が総督の許可も得ずに官邸の中に入れるはずがない。
しかたなく作戦を変更する。聞き込み調査では、総督は街の様子を見るために昨日のように部下をつれて練り歩くという。
俺は通信機から
「
――「はい。なんでしょう?」
「イシアカ総督の居場所を知りたい。写真は共有してあるだろ? 彼と一致する人物をそっから探知魔法で居場所を教えてくれないか」
イシアカ総督の写真は、昨日俺の手に付けた指輪型のカメラで撮影してある。
――「了解です。ちょっと距離が遠いので、時間かかりますよ」
「ああ、頼む」
それから一時間ほどかかって、ようやく返答が来る。
――「見つかりました。現在、中央通りの北西部を西に向かって歩いています。座標は、言ってもわからないと思いますので、ハルナオさんの頭に直接地図を送りますね」
戦艦でヘルプボタンを押したときのように、情報だけが流れてくるのだ。なんとも言えない気分。白昼夢でも見てるような感じか。
「ありがとう。
俺たちはその情報を頼りに総督のもとへと向かう。
「いた!」
総督を見つけると、しばらくはその後を付ける。そして、ひとけの無い道に入ったところで声をかけた。
「イシアカ総督ですね?」
まず始めに部下がこちらに向き、拳銃を構えてこちらに向ける。
「貴様は何者だ?」
「私自身はイシアカ総督に用があるわけではありません。あなたに会いたいという子を連れてきただけです」
そう言うと、総督はゆっくりと振り返り、睨むようにこちらを見つめる。そして、俺の後ろにいるモンファに目を向けると、落ち着いた口調で部下へと指示を出す。
「ヒラカワ、ナナセ、銃を下ろせ」
「しかし……」
「危険はないよ。あの者も武器を手にしていない」
「あの者を拘束しなくてよろしいのですか?」
「ああ、かまわないよ」
一通り部下とのやりとりを終えると、再び俺の方を見つめる。
「貴殿は何者だ?」
「ただの旅人。ですが、この子は違います」
モンファが前へ出ると、指輪をした左手を見せるようにしてこう告げた。
「私はこの国の元女王リウ・モンメイの娘モンファです。総督にお願いがあって参りました」
総督の瞳が驚いたように見開かれる。
「モンファ……ああ、なるほど。ヒラカワ、ナナセ、総督府に戻るぞ。客人をもてなさねばならぬ」
彼は部下たちにそう言うと、こちらを向いてくしゃりと破顔した。まるでモンファとの再会を喜ぶかのように。
**
総督府の応接間にて、俺たちはイシアカ総督の接待を受けた。赤い絨毯にフカフカのソファー、そして大理石と思われるローテーブルはどれも最高級品ともいえる代物だろう
お茶は香り高い青茶。風味としては鉄観音に似ている気もする。
「おまえは覚えていないだろうがな、儂はおまえがまだ赤子の頃に会っている」
「わたしにですか? その頃は、まだこの国は龍譲の庇護下にはなかったと思われますが」
調査によれば、この国が同君連合を受け入れて実質上、前王国が消滅したのが十四年前。モンファが十五歳だから、生まれた頃は臨安王国という国がまだ存在していた。
「その頃の儂は、外交官として公務についていた。儂はリウ女王と交渉するように龍譲から出向いていたのだ」
「なんの交渉ですか?」
モンファが語気を強めて問いかける。
「戦争を回避するための交渉だよ。お主の母上は民の事を考え悩んでおった」
「龍譲はこの地を支配しようとしているのではないのですか?」
「それは半分正しくて半分間違っている。我が国がこの国を利用しようとしていることは間違いではない。ただ、臨安王国のままでは国は疲弊し、隣の夏王国に攻め落とされていただろう。それもまた一つの道。どちらが正しいということではない」
「母さまはイシアカさまに説得されたのですね?」
事情を理解してきたのだろう、モンファの言葉も柔らかくなってきた。
「そうだ。儂も最低限の裁量権を行使して、臨安の未来についての提案をした。彼女が争いを選ばぬように」
「やっぱり……母は国を売ったわけではなかったんですね」
モンファはぼろぼろと涙を流す。今まで溜め込んだものを吐き出すかのように。隣の亜琉弓が彼女へとハンカチを差し出す。
しばらくしてモンファが落ち着くと、無理に笑顔を作りながらイシアカ総督に問いかける。
「あ、あの? 私の父親の事もご存じですか?」
そういえば、モンファの父親のことは謎であった。噂では、側近の一人だという話もあったが、その人も女王と一緒に殺されているので真実はわからない。
「すまない。彼女の私的なことに関しては儂は知らないのだ」
イシアカ総督の視線が一瞬だけ、モンファの方から逸れる。何か思うところがあるのだろうか?
「そうですか、すみません」
「謝ることはない。謝るのは儂のほうだ。リウ女王には済まないことをしたと思っている。彼女を初代総督の座に推しさえしなければ、あのような悲劇は起きなかったであろう」
「やはり母は国民に殺されたのですね」
「ああ、同君連合に反対する民を煽った奴らがいてな。わずかな火種が、臨安全土に及んだのじゃ。その頃、総督府として扱われていた王城に民がなだれ込んで火を放ち、モンメイは……女王は逃げ切れずに亡くなった」
総督がつらそうな表情で目蓋を閉じた。
そこで、ふいに
――「ご主人さま。今、雄高の街の北西にある森の中へと着陸しました。到着をお待ちしております」
「話の途中で済みませんが、さきほど申し上げたように、これからやることがありますので、ひとまず退散させていただきます。のちほど、モンファを迎えに来ますので、それまで。どうかよろしくお願いいたします」
俺たちは一礼をして立ち上がった。
亜琉弓は、モンファとハグをすると「またね」と言って別れる。
総督府を出ると、合流地点である北西部の森へと向かった。日ももう落ちているが、ここらへんで目立たないで離着陸ができるところはあそこぐらいだからな。
森の中なら亜琉弓は最強の能力を発揮できるので、夜でも心配はいらないだろう。
「遅くなった」
俺らはスバルに乗り込むと、
今回は舞彩の建設魔法が鍵を握る。もちろん魔物なんか無視するっていう手もあるが、付近の村や街が襲われるのは寝覚めが悪い。
罪のない人間を魔物に殺させるわけにはいかないからな。各国の政治には首は突っ込まない代わりに、その国の人間にも最低限の干渉で済ませたい。
「じゃあ、遺跡についたら、さっきの指示通りに動いて欲しい」
「了解しました。ご主人さま」
「わたしも、了解です」
舞彩と亜琉弓の二人が頷く。
「あたしは当面は運転手でいいの?」
少しだけ不満げに
「
「うん、わかった」
「じゃあ、遺跡へ向かうぞ」
次回 純粋な想い
遺跡で準備を行っていたハルナオたちに、緊急通信が!?
※次回 5/14投稿予定
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