幼馴染へ送る言葉。

ぶらっくまる。

いい加減にくっつけ

 自分に対する恋心に疎い男――鈍感! 鈍い男とか言われるアレである。


 そんな男が俺の身近にもいた。


 幼馴染である友哉は、同じく幼馴染の希咲に想いを寄せていた。


 友哉、希咲とそして俺の三人は、幼いころから常に行動を共にし、今では兄弟、兄妹のような間柄となっている。


 当然、兄は俺だ。


 控えめで心優しく、何かと俺に気を使う弟の友哉。


 思い立ったら即行動といった感じで、騒動が起きたらその中心にいる妹の希咲。


 いつも、俺がそんな二人をまとめ、尻拭いをしてきた。


 そんな関係に変化が出始めたのは、一年前の春だろうか。


 俺たちが高校二年生になり、性に対して多感なお年頃。


◆◆◆◆


 同級生たちが、


「あのね……私、彼氏ができたの」

「えっ、マジ!」

「キャー、マジでマジで! え? 何組?」


 などと、休み時間や放課後にわーきゃーやっているのをよく耳にするようになった。


「はー、あいつらはバカだな。何がそんなに楽しいのかね?」


 友哉が同級生の騒ぎにそんなことを言いながらも、ばっちし視線は希咲に向いている。


「え? いいじゃん、いいじゃん。青春って感じで! ねえ、直人もそう思うよね?」


 何故か、希咲は俺にそんなことを振る。


「ん? まあ、そうだな……いいんじゃないか?」

「な、何だよ、直人まで。もしかして、好きな奴いるのか?」

「えー! 直人、そうなの? ねえ、誰? 誰なの?」


 何故そうなるのか、わからんが、友哉と希咲が過剰に反応する。


 俺は知っている。


 友哉が希咲のことを気にしていることを。

 そして、希咲も友哉のことを気にしていることを。


 ただ、それが恋心なのかはわからない。


 そんな気がするだけだった。


 何をするにもいつも一緒だった俺たち三人は、揃って生徒会に所属していた。


 俺は俺で、生徒会長である橘先輩に恋心を抱いている。


 たった一学年の違いだが、物凄く大人に見えて尊敬していた。

 それが、恋心に代わるのに、そう時間は必要なかった。


「まあ、そうだな……好きとは、違うが、生徒会長のことは尊敬してるな」


 俺は恥ずかしさからそんな誤魔化し方をした。


 しかし、それから俺たちの関係に少し変化が出始めたのだ。


 友哉は何故か、一人行動をとることが増え始めた。


 そして、それを心配した希咲が俺に相談をしてくる。


 当然、兄として俺が友哉にその行動の理由を探ろうとしたところ、とんでもない勘違いが判明した。


「先輩より、もっと身近な存在に目を向けた方がいいぞ」

「は? なんだそれ?」


 そう答えるしかなかった。


 だが、それで友哉のとんでもない思い違いを理解した。


 希咲と俺がくっつくべきだと言いたいのだろう。


 しかし、それは誤解だ。


『ねえ、直人。どうしたらいいかな? 友哉がいないとなんかつまらない』


 はっきりとは言わなかったが、希咲が友哉に想いを寄せていることを知っている俺からしたら、ハッキリ言ってめんどくさかった。


 だからといって、「友哉、希咲に告白しろよ」とは、言えなかった。


 友哉は、希咲が俺のことを好きだと勘違いしているからだ。


 友哉は、そんな男なのだ。


 自分の好きなやつが、他の男に想いを寄せていても、希咲が幸せならそれでいいと考える、超が付くほどのお人好しであった。


 まあ、その相手が俺だからかもしれないが、迷惑な話だ。


 俺は俺で、自分の恋心で精一杯なのだから、互いに好き合っている奴らの相手なんぞしている暇は無い。


 それから、半年が経過し、クリスマス。


 生徒会の代が変わり、希咲が生徒会長になった。


 希咲は色々な生徒から人気があったが、俺たち二人の存在があったからか、クリぼっち。


 当然、それが嫌な希咲は、俺を出しに友哉を呼び出せなどという。


 本当は、橘先輩を誘おうかと考えていたが、「しかたない、兄がまた一肌脱ごう」と、二人の世話を焼いてやった。


 が、


 二人の仲が進展することは、全くなかった。


 いい加減に呆れた俺は、毎日三人揃って登校していたのだが、そこから離脱することにした。


 友哉と希咲の二人で登校させることにしたのだ。


 それが功を奏したのか、学校では遂にあの二人が付き合っているのか、という噂が立ち始めた。


 それなのに!


 友哉は、希咲の目の前で否定しやがった。


 当然、希咲はそのことに胸を痛めていた。


 そして泣いていた。


 だが、希咲は強かった。


 次の日、「大丈夫か?」と、希咲にそのことを暗に尋ねたのだが、


「え? 何のこと?」


 だとか、


「友哉がどうしたって?」


 などと、まるで何もなかったかのようにあっけらかんとしていた。


 俺は、そんな希咲を見て、友哉に腹が立った。


 友哉を呼び出し、希咲がそんなことを言っていたぞと、伝えた。


「ふーん、そりゃはそうだろう。俺となんかと噂になったらアイツも可哀そうだ。直人が慰めてやれ」

「は?」

「悪い、先生から呼ばれてんだ。また、あとでな。希咲のこと宜しく!」

「お、おいっ」


 そう呼び止めたが、友哉は廊下の角を曲がって姿を消してしまった。


 完全に友哉は、勘違いしたまんまだった。


 その後も、色々と試行錯誤したが、上手くいかなかった。


 俺的には、


「友哉! 希咲が好きなのは、お前だ!」


 だとか、


「希咲! 友哉が好きなのは、お前だ!」


 といってやりたかったが、結局できず、三年生の卒業式となってしまった。


 俺は俺で、やり遂げなければならないミッションがあった。


 それは、橘先輩への告白。


 橘先輩は、都内の大学へ進学するため、彼女に想いを伝えるのは、今日が最後のチャンスだった。


 しかし、それは呆気なかった。


 生徒会役員同士で集まって話をしていたのに、いつの間にか、その場には俺と橘先輩だけになっていた。


「ねえ、直人くん……」

「は、はいっ」


 いきなり上目遣いで橘先輩から声を掛けられ、思わず声が上ずってしまった。


「好きな人とか、いたり……する?」

「はいっ!」

「え? あ、そう……」


 半ば遮るように俺がはっきり言ったもんだから、伏見がちになっていた。


「俺は、橘先輩が好きです!」


 その途端、面を上げて花のように笑みが広がっていくのがわかった。


「わ、私も直人くんのことが好きです! 付き合って下さ!」


 どうやら、お互い想い合っていたことが判明した。


 正直、何なんだよ……という感想だ。


 それは、友哉や希咲に気を取られていなければ、もう少し早く成就していたかもしれないという思いからだった。


 それから、俺と橘先輩は付き合うこととなり、一緒に下校することになった。


「おいおい、まじかよ……」

「あらあら……やっとなのね」

「ん? もしかして、知ってました?」

「うん。だって、あからさまだったから」


 ああ、さいですか……


 実は、俺も橘先輩にはあからさまにアピールしていたつもりだったが、それには気付いていなかったようである。


「あめでとう、友哉、希咲」

「うふふ」


 そう、俺が橘先輩と校門を出て、下り坂を歩いていたら、手を繋ぎ肩を寄せ合っている友哉と希咲の姿があった。


 何がどうなってそうなったのかはわからないが、お互いの想いを知れたようだった。


 本当に、おめでとう。


 俺は、今までの苦労を思い出しながら、弟と妹が前に進めたことを、心から祝福したのだった。


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

幼馴染へ送る言葉。 ぶらっくまる。 @black-maru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ