第124話:成長途中の二人と一歩前進した女の子

一通り話しておきたいことは話し終わったのとこれ以上ここにいては仕事の邪魔になってしまうだろうと思いそろそろお暇しようかと思ったのだが、どうやらアーデルさんはそうでもなかったらしく俺と自分のカップに二杯目のお茶を入れながら


「以前ソウジ様がうちにいらしてくださった際にご自分のことを『成長途中』だと仰っていましたが、どうやらうちのエレーナ同様まだまだ成長の余地がありそうですね」


「まだまだなんて言葉じゃ全然足りませんよ。その証拠にミナにバレたら説教どころじゃ済まないことを勝手にやって、本来なら貴方に呆れられてもおかしくないといのに態々私にご教授していただいただけでなくこの後どうすればいいかのアドバイスまでを頂いてしまって……。まあだからってこの国の王様を辞める気は一ミリもありませんけどね」


「ソウジ様がこの国に来てからまだあまり時間が経っていないというのに私達国民に対して他の国では出来ないようなことを幾つもしてくださったのですからあれくらい普通ですよ。まあ一国民である私が陛下に対してあれだけ失礼なことを言ったにも関わらず嫌な顔を一切見せないどころか、逆に感謝するというのは普通ではありませんが」


俺が普通じゃないということを予め知っていたからこそ例の三つのお願いをしてきたくせによく言うぜ。


「ところで話は変わるんですけど、エレーナの給料を元に戻す云々の話をしてた時なんであの子はあんなに焦ってたんですか? 私の勝手な評価で申し訳ないんですけど、ここで働いてる人達は全員お金の為だけに働いているわけではないというか…何かそれをされると困る理由があるんだろうことは分かったんですけど……」


「あまりこちらの裏事情を話しいてしまうと努力自慢みたいになってしまうのであれなのですが…実は私はあの子をヴァイスシュタイン家専属にしたと同時に勉強代の意味も込めてかなりの額のお給料アップをいたしました。といっても殆どそれに持っていかれてしまうせいで残るお金はちょっとお給料が増えた程度みたいですけど」


「別にミナ達とも結構仲良くやってるみたいですしそこまでガチガチに勉強する必要もないんじゃないですかって言いたいところなんですけど、やっぱりお店としてはそうもいかない感じなんですか?」


まあ店側としては王族を相手に出来る人材が増えるに越したことはないだろうし、そういう狙いがあるならこれ以上の機会はないだろうけど。


「ありがたいことにソウジ様をはじめ皆様には大変よくしてもらっているようですが、だからと言ってその状況に甘えてばかりではいられないと言いますか。実はこの間行われた建国式で奥様方とのご婚約が発表されて以降多くのお客様がお見えになるようになりまして、そのお陰か他国のお偉い方の来店率も上がっておりまして」


「つまりエレーナをヴァイスシュタイン家専属にした以上今後他のお客さんにも指名される可能性があるから、という感じですか?」


「理由の一つとしては正解ですがそれよりも大事になってくるのはあの子がお客様に対して何か失礼なことをしてしまえば『こんなのがヴァイスシュタイン家専属なのか』となり、『あんなのを専属にしている王家の人間はどうなっているんだ?』という感じでどんどん悪い噂が広まってしまいます。ですので今は勉強代も含めてのお給料になってしっていますが、一通りちゃんとした対応が出来るようになればそれなりに見合った額であることを教えたうえでそれを与えることにしました」


うひゃー、仕方ないこととはいえこれ完全に俺のせいじゃん。つかエレーナ程じゃないにしろ絶対他の店員さん達も今まで以上に気を付けて仕事をしてだろうし、そう考えるとなんか申し訳なくなってきたな。


まあその反面売り上げとかは上がってるんだろうし謝る気はないけど、今度日本で人数分のケーキでも買ってこよう。それを食べたら最後死ぬまでそのことを内緒にしなければならないという貴族共を相手にする以上の責任を負うことになるけど。


なんて若干脅しみたいなことを考えながら二人で雑談をした後俺は改めてお礼を言い、次の目的地へと向かった。






ということで次の目的地であるリーダーとアーデルさんの娘であるルナがやっている露天商の近くまできたのだが、どうやら今日は時間が悪かったのか若い女の子達が先客として店先にいたので一旦落ちつくまで認識疎外魔法を使いながら様子見をすることにしたのだが


………あんまりにも人がいなくなったかと思えば次の客がきての繰り返しが続くもんだから魔法で逃亡時によく使う見た目17歳くらいの美少女になって出店で適当に食べ物とかを買った後、丁度いい場所にあった家の屋根を勝手にお借りしてそれを食べながら様子見をし続けてかれこれ約一時間。


その間一回も客がいなくならないとか繁盛しすぎだろ‼


一応認識阻害魔法は使っているとはいえ声を出せば普通にバレてしまうので心の中でそう叫ぶと、まるで俺の心の声を感じ取ってくれたのか今いた客は会計を済ませていなくなったのに加え他の客も来る気配がないのでこのチャンスを逃すまいと急いで準備を整えルナの元に行くと


「いらっしゃ…ソウジ様‼」


「よう、今はルナ一人だけか?」


ずっと見てたからエレンが店の奥にいるのは知ってるけど。


「エレンはいつも通り私の手伝いをしていたんですけど、ありがたいことに最近は以前に比べてお客さんが多くいらっしゃるようになりまして…午後になるとあんな感じで勝手に一時間くらい休憩するようになっちゃって。まあ基本私は奥で作業をしていて店番やお会計は全部任せっきりなんで、これくらいは大目にって感じですね」


「んまあこの店は二人だけでやってるみたいだし、別にサボりを推奨するわけじゃないけどあんまり無理しないで数時間おきに休憩を取りながらの方がいいと思うぞ。って、現場のことなんて何も知らない上の人間が偉そうに言うなって話だけど」


どこの世界でも上の人間と現場で働いている人間とでは様々な差が生じてしまうのは同じであり、出来る限り俺は気を付けるようにしてはいるのだが…この前だって自分のところの騎士団の一部の連中に不信感を抱かせてしまいティアの逆鱗に触れるという事件があったのでそう言うと


「私にはまだ知識などが少ないせいで半分くらいしか意味が分からないんですけどうちの両親…特にお父さんなんかは凄くソウジ様のことを褒めてましたし、あっ、でもでも新しく設置してくださったお台所とトイレの凄さは分かります‼ あんな物が自分の家にあったら二度と元の生活には戻れないですよ‼」


多分リーダとアーデルさんはお互いの仕事場で起こったことや政策面なんかを主に評価してくれてるんだろうから別にまだまだ子供なルナ達はそこら辺のことを理解できなくても問題ないだろうけど、まさかここまでこっちの思惑通りにいくとは。なんかみんなを騙してるみたいで申し訳ないけど、これも俺の仕事なんで許してくれ。


「あははははは、そう言ってもらえると俺らも頑張ったかいがあるよ。ちなみに他には何かあるか? ホント何でもいいから教えてくれると助かるんだけど」


一応情報部を通して国民の声は聞くようにしているのだがやはり自分で聞いて回るのも重要だろうということで数少ない知り合いに聞き取り調査を行ってみると…幸い今のところは大きな不満はなく逆に街中に設置した街灯についてはかなり褒められた。


あとこの店が繁盛していたのは俺が婚約者三人にあげたヘアゴムを着けて何回か外を歩いたことにより、本人の希望通り若い子達が集まってくるようになったらしい。まあこれに関してはあの三人による宣伝効果もあったんだろうけど、やはり一番の決め手はルナの努力とセンスのお陰だと思うので上から目線で申し訳ないが『それは自分の力で掴んだチャンスなんだから無理しない程度に頑張れよ』と伝えておいた。


俺は約22年間ぶっ続けで世の中なんとかなるなるでここまで生きてきた人間だから、この世界に来るまでは本気で何かに取り組むなんて滅多にやらなかったけど。


「話を聞かせてくれたお礼ってわけじゃないんだけどこの前俺が買った髪飾りって確か五種類あったよな? 実は残りの二種類のうちの一つを買いたくて来たんだけど…まだあるか?」


「あれでしたら私が勝手にソウジ様専用デザインってことにして誰にも売っていませんし、お客様に頼まれても同じものは作らないようにしていたので二個ともそのまま大事に保管してありますよ。もしあれでしたら奥から出してきますけど」


「じゃあ種類はホワイトのやつで、前回と同じでこのヘアゴムに付け替えてくれ」


そう注文するとルナは一言返事を返してきた後店の奥へと消えていったかと思えば、お前本当は疲れてるフリしてサボってただけじゃねえのか? と聞きたくなるほどの元気の良さでエレンが飛び出してきた。

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