第123話:街の様子と四つ目の婚約指輪

ということで俺はマイカを置いて次の目的地へ行くために歩き出したのだが


自分で宣戦布告をしといてなんだけど、勇者率いるクロノチアとの戦争がすぐそこまで近づいてるってのにみんな余裕そうというか…これ完全にいつも通りの空気だよな。しかも俺の所にきて直接お祝いの言葉をくれた子が何人かいたのに対して戦争に対する不安の声や応援の声は一切ないし。


それだけマイカとの婚約発表が効いてるってことなのか? まあ普通に考えれば負け確定な相手とこれから戦争するって時に婚約発表なんて馬鹿なことする国王はいねえからな。別に俺がやったわけじゃないけど。


なんてことを考えながら歩いていると今回の目的地であるジュエリーショップの扉を開けて中に入ると不機嫌そうな顔をしたエレーナがやってきて、これまた不機嫌そうな声で


「……いらっしゃいませ」


「なにこの態度の悪さ。決して安くはないジュエリーショップの店員とは思えない態度なんですけど。これでも一応私この国の国王なんですけど。こんなちゃらんぽらんでも実は俺がこの国で一番偉いんだけど」


なんてふざけてみたもののここに来るまでにすれ違った人達がおかしいだけでこんな大変な時期にその元凶である国王が自分の働いてる店に買い物をしに来たらこんな反応もしたくなるだろうと思ったのも束の間、不機嫌そうな顔のエレーナが


「本当なら今日のシフトに私は入ってなかったんですよ! 今日一日に頑張れば明日はお休みだって考えながら仕事して、自分の家でゆっくりししてたら突然の婚約発表ですよ‼ そしたらいきなり店長から『いつソウジ様がマイカちゃんの婚約指輪を買いに来られるか分からないから、うちにご来店されるか他所のお店で買われたという情報が入ってくるまで毎日出勤しなさい』って言われたんですよ‼ お陰様で休日出勤一日目ですよ‼」


「不機嫌な理由はそっちかよ! 若干申し訳なく感じてた俺が馬鹿みてえじゃねえか‼」


「全然馬鹿みたいじゃないですよ! 若干どころか大いに申し訳なく思ってくださいよ‼ 下手したら戦争関係のごたごたが終わった後にくる可能性も考えられたから普通に何十連勤とかあり得たんですよ‼」


別にその指示を出したのは俺じゃなくて店長のアーデルさんだし、文句があるならそっちに言えよ。つかどう考えても国王の俺に不満をぶつけるという頭のネジ数本外れた奴にしか出来ないような芸当をするより、自分の上司にその怒りをぶつけた方が色んな意味でいいだろう。別に俺は気にしてないどころかちょっと気に入り始めてるけど。


とか考えていると俺達の声が店の奥にまで聞こえていたのかアーデルさんがこっちにやってきて


「まずはマイカ様とのご婚約…おめでとうございます」


「ありがとうございます。もしかしたらまた今日のようにお世話になるかもしれませんので、その時はよろしくお願いします」


「その時はもう少し成長したエレーナがご対応させていただくと思いますので何とぞよろしくお願いします」


少なくとも今はエレーナに対して注意をする気はないらしく、軽い嫌味程度で終わったので本当に何とも思っていない俺は


「他の客相手だったらあれでしょうけど別に私相手なら今日みたいな日があっても全然気にしませんよ。既にご存知かもしれませんが、一緒に城で暮らしている人達をはじめ自分の部下である騎士団の人達にも変人扱いされている程ですから。逆にこういう友達感覚で相手してもらった方がこっちとしても気楽でいいんですよね」


「もちろんソウジ様がそれでいいと言うのであれば私からは何も言えませんが……、ただありがたいことに実は奥様方にもうちのお店をご贔屓にしていただいておりまして、まだまだ未熟ながらもエレーナをヴァイスシュタイン家専属にすることのご許可をその方々から正式に頂きました。その為今まで以上に仕事に集中するようプレッシャーをかける意味も込めて少々お給料を上げたのですが、これは元に戻した方がよさそうですね」


「すみませんでした! これからはいついかなる時でも真剣にお仕事させていただきますので、それだけは勘弁してください‼ 本当にお願いします‼」


なんか凄い勢いで謝りだしたけどそんなに給料を上げてもらったのか? 俺の勝手な評価で申し訳ないんだが、この店で働いてる人達は全員そういうことであーだ、こーだ言うような人ではないと思うんだけどな。


とかなんとか考えながら俺は二人の会話が終わるのを待つことにした。






その後エレーナはこちらの要望通り友達感覚というか自然体で俺の相手をしてくれたのでそのまま一緒にマイカの婚約指輪を選んでもらい、前回同様小切手での支払いを済ませた。


「ではこの前と同じで完成次第私がそちらにお届けいたしますので」


「ああ、指輪に関してはそれでいいんだけど…どうしても話しておきたいことがあるからアーデルさんを呼んできてくれないか」


「多分今は奥で自分の仕事か休憩中だと思うので大丈夫だとは思いますけど、急に真面目な顔をしちゃってどうしたんですか? ……もしかして、実は私の最初の態度が気に食わなかったとかですか⁉ ここまで本当に気にしてない風を装っておいてそれはないですよ!」


「全く違うどころかお前には一ミリも関係ない話だから安心しろ。つかこう見えて俺も忙しいんだから早くしてくれ」


実際この後も行きたいところがあるのでそう言うとエレーナは疑いの目を向けながら店の奥へと消えていき、少しすると二人揃って出てくるとアーデルさんが気を使ってくれたのか応接室に通してくれたので念のため外に声が漏れないように防音障壁を張った後、お互いが着席すると


「それで、お話とはなんでしょうか? ソウジ様のことですから今回のエレーナの件について…というわけではいことくらいは分かりますが」


「本当はミナにこういうことは絶対にしちゃ駄目だって教わったんですけど、貴方だけにはどうしてもお話ししておこうと思いまして」


そこで一旦言葉を切り、改めて姿勢を正しながらアーデルさんと目を合わせ…一拍置いた後


「ご存じの通り我が国は異世界の勇者率いるクロノチアと戦争することになりました…というより俺が決断し、相手側に宣戦布告をしました。その為当たり前ですがこちらで選抜した騎士団のメンバーを戦場に連れて行くんですが……貴方の旦那さんであり、エレン達の父親であるリーダーは今回は国内に残ってもらい引き続き街の警備並びに情報収集にあたってもらうことにしました」


「そうですか」


ユリー達三人を除いた情報部の人達は全員戦場には行かずいつも通り警備の仕事をする代わりに、今回の戦争が終わるまでは基本泊まり込みをし交代制でクロノチアの動きを監視するように命令してあるので勿論リーダーも家には帰れていない。その為今俺が言ったことをアーデルさんは知らなかったはずなのに一切表情を変えることなくただ一言そう返事を返してきた。


「意外とあっさりしてるんですね。別にこの部屋には私しかいないんですから何を言ってもいいんですよ」


「それでは三つ程こちら側のお願いを聞いていただいてもよろしいでしょうか?」


「私に出来ることでしたら」


「ではまず一つ目に、二度とこういったお話を騎士団に所属している親族及び恋人等にお話ししないことをお約束ください。理由は言わなくとも分かっていますね?」


ミナにその理由として何個か教えてもらったがその中でもかなり重要になってくるのが


・一人でもこの話をしてしまうと他の関係者にまで広まってしまう可能性があり、何でうちの人は戦場に行くことになったのにあの人は一番安全な場所に残るんだと暴動が起こる可能性がある。

・どんな状況であろうとも戦争が行われることになった理由の一つは、ほぼ間違いなく自国の国王が関係しているので下手に謝罪でもしようものならそれについて文句を言ってくる人が出てくる可能性がある。

・そういった行為を国王自身が行うことにより関係者側の気持ちが揺らいだり、人によっては侮辱されたと感じる人も出てくる可能性がある。


の三つである。


「勿論分かっていますし、ご不快に感じたのであれば謝ります。ですが必ず―――」


「次に二つ目ですが、先ほどの続きになってしまいますがエレンとルナにもこの話はしないでおいてください。というのもエレンに関しては騎士団の仕事を甘く考えているようなので今回の戦争を機に少しでも考えを改めてくれればと思っておりますので、何かしらの方法で協力してくだされば幸いです。そして最後のお願いは……ソウジ様にはソウジ様なりの考えがあるようですが敢えて私はお聞きいたしません。ですがその代わりに行動で示してください」


「………分かりました。その三つのお願い事は私ソウジ・ヴァイスシュタインが全て聞き入れさせていただきます。特に最後のものに関しましては何が何でも実現させて帰ってきますので貴方一人だけではなく、より多くの人々に奇跡なのではなく必然であることを見せつけてあげますよ」


そう言うとアーデルさんにとって満足いく回答だったのか少し柔らかい顔になり、『期待していますよ』と言ってくれた。

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