第106話:おもてなし

「どうやら文句がないようなので次のお知らせに移らせていただきます。……ということでですね、先ほど犯罪者共に片っ端から事情聴取をし処刑か永久追放か保留かの三つに分けましたが、あれを見ていた皆様なら分かる通り結構お金に困っていてやったという人達が多かったんですよ。まあだからと言って許されることではないですし度が過ぎたことをやった奴らは全員処刑か永久追放にしましたが、私はこういうことが起こった原因として仕事がしたくても出来ない人達がいることも影響しているのではないかと考えています。そこで私は救済処置を考えさせていただきました」


とまあ全部を話すと長くなってしまうので簡単に纏めると


・騎士団の人員募集

・新しい農作物(米)を今年から作り始めたいためそれの人員募集

・新しくこの国に作ったレジャー施設 (プール)で店を出す予定の飲食店(人員不足の店のみに限る)の人員募集

・プール関係での人員募集

・銭湯関係での人員募集


の五つを募集すること、またこれらに興味がある人は明後日の午前九時から午前九時五十分までの間宮殿の正門で受付を行うため時間までに受付を済ませることを伝えた。あとついでに一部の人限定で明日一日無料で銭湯を貸し出すことも。


「それとこれは私からのお願いなのですが、今回保留にした人達の処罰に関しては先ほど渡した特別報酬の減額という形にしてこの応募に参加する資格を与えさせてくださいませんでしょうか。……まあ次何か犯罪を犯せば問答無用で処刑しますけど」


「どんな些細なことでも犯罪を犯せば問答無用で処刑とか人間変わりすぎだろ。一体なにを師匠に叩き込まれたんだ?」


「うるさい、今国民の反応を確かめてるところだから黙ってろ。減給するぞ」


「はあ⁉ おいふざけんなよ坊主! いくら給料が―――」


………う~ん、大体の人が理由が分からず反応に困ってる感じか。


「どうやらこんなお願いをする理由が分からないという方が多いようなので私の考えを言わせてもらいますと、まず犯罪者には犯罪を犯すなりに理由があります。ただの気まぐれ、自己満足、欲望のため、その日を何とか生き延びるため。まあ最初の三つに関してはただの屑なのでどうでもいいんですが、四つ目に言った『その日を何とか生き延びるため』だけは違うのではないかと私は考えます。しかし生き延びるためなら何をしてもいいとは言いません。その証拠に同じような理由であっても盗賊まがいのことをしていた奴、子供を誘拐して売りさばこうとした奴などは全員処刑済みであり保留にした者達は全員店先に置いてあった食べ物を盗んだり、人のお金を取ろうとした者達だけです。まあだからなんだと。盗みは盗みだし犯罪は犯罪だろうと。じゃあうちの店で出た被害総額は一体どうしてくれるんだと思う方もいるでしょう。ちなみにそう思っておられるお店の店長さんがいるようでしたら手を挙げるなりして反応してくださると嬉しいのですが」


そう言うと何人かが実に不満そうな顔をして手を挙げ始めた。


「なるほどなるほど。手を挙げてもらっといて何ですけど、もちろん貴方達は何らかのお店で働いておられる店長さんであり、何かしらの被害に遭われたご経験があるのですよね? まあこの場で嘘をつくことが得策ではないことは皆さん分かっていますでしょうしそんな人はいないと思いますが。更に言わせてもらいますとこの国の国民全員に特別報酬としてかなりの金額を配布しただけではなく、各店舗の店長さんには別で特別報酬を、しかも大よそ十倍の金額をお渡ししているのですが…それでもまだ被害額のせいで赤字もしくは赤字ギリギリだったでしょうか? もしそうなのであれば追加でお金をお渡しいたしますのでご希望の方はもう一度お手をお上げください。それが嘘じゃないと証明でき次第即お渡しできますのでどうぞご遠慮なさらず」


さあさあご遠慮なさらずどんどん手を挙げてくださいよ。なんて心の中でふざけながら様子見をしていると俺の後ろでお母さんが


「国民への特別報酬だけでも十分過ぎる額を渡しているのになんで各店舗にまで、しかもあんな額を渡したのかと思えばそういう狙いがあったとわねぇ。ちなみに誰があの子に入れ知恵をしたの?」


「その~、何と言いますか…実を言うと私達もこの計画についてはお母様と同じで今気付いたばかりでして。恐らくですがソウジ様の独断かと」


「確か息子はおもてなしの国、日本出身だったと思うのだが…もしや腹黒の国、日本の間違いだったか?」


「それについてなのですがこの前ソウジ様が私に『おもてなしの国、日本ってのは表がないからおもてなしって言うんだぞ』って教えてくださいまして……」


「ぷっははははは、ソウ君も上手いこと言うねぇ。確かに裏しかなかったわ。あははははは」


あんだけ冗談だって言ったのにまだ信じてたのかよ。まあ実際は本当だけど。……つか笑いすぎだろ。


なんてことを思いながら俺は更に対象者を追い込むため、収納ボックスからよくテレビとかで見る札束のピラミッドをあらかじめ用意しておいたテーブルの上に置き


「どうしました? 別に遠慮しなくていいですよ。お金ならこの通りまだまだありますし、何より私は後からあーだーこーだと騒がれるのが大っ嫌いですからね。ちなみにこの会場に入れなかった方々もここで行われている式典を映像越しで見れているはずですので、もし会場の外におられる方で文句がある人は手を挙げてくだされば後でお店の方にお伺いさせていただきますのでご安心ください」


……流石にここまでされて騒ぐ馬鹿はいないか。


「どうやら皆さんのご理解を得られたようですね。本当にありがとうございます」


そうお礼を言った後丁寧に一礼し


「では次の話に移らせていただきます。まず先ほど人員募集の際に出てきたレジャー施設 (プール)に飲食店を出すという話でしたが、これはこの国でお店を経営しているものの中から選ばせて頂きたいと考えておりますのでご興味がある方は明日の朝九時から九時五十分までの間にうちの宮殿正門で受付をお済ませください。そうしますと十時から説明会が始まりまして、それを踏まえたうえで店を出したいといと思ってくださった方々を対象に採用面接となります。またこちらの説明会に関しましては各店舗二人までの参加でお願いいたします。……これで私からのお知らせは以上ですが何かご質問などありませんでしょうか?」


俺的には圧倒的な先手を取ってから今回の救済処置の件を話して抑え込んだつもりなんだけど、やっぱりやり方が拙かったか?


なんて若干弱気になり始めていた時、一人二人と拍手をしてくれる人達が出てきてたかと思ったのも束の間、訓練場内どころか国中が大きな拍手と歓声で溢れかえった。






なんてことを一人廊下の窓から正門を眺めながら思い出しているとティアが俺の隣に転移してきて


「時間まで居間で大人しゅうしておれと言ったじゃろうに、なんでお主はわらわの言うことを聞かんのじゃ?」


「別に居間にいたところで熱が下がるわけでもなければ楽になるわけでもなんだからいいだろ。それにその件に関しては約束外だし」


「だいたいその約束じゃってわらわが妥協案として出したものじゃというのに随分と偉そうなことを言ってくれるのう。別にこっちはミナ達に本当のことをバラしてもよいんじゃぞ」


ここまでの会話を聞いていれば何となく察している人もいるだろうが、実はまだ熱が下がっていないどころか昨日から全く変わっていないのだ。しかし今日の説明会だけはどうしても俺が直接顔を出したかったのでまだ寝ていたティアの所に行って体を無理やり戻させた後、自分に冷却魔法を使ってパッと見は治った風を装い続けていたりする。


その為実際はかなり怠かったりするのだが今のところティア以外にはバレていない。


「正門が閉まったってことはそろそろ時間か。ほら、一応約束は守ってやるからついてこい」


ちなみにティアが出してきた条件は


・体は元に戻すが引き続き使える魔力は制限する

・今日一日一緒にいること(監視のため)

・説明会に出席出来る時間は三十分まで

・それが終われば即病院に行くこと


の全部で四つである。つまり


「なにが一応約束は守ってやるじゃ。思いっきり約束を破っておるではないか」


「それはお前が勝手に居間で大人しくしていると決めつけて目を離したのが悪いんだろうが」


「……どうせ今のお主はまともな魔法を使えんせいで自由に転移もできんのじゃし首輪でも着けようかのう」


ふざけんな。そんなことしてきたら約束なんて即破棄してマリノ王国の宮殿に家出だわ。


「変なところに行かれるくらいならレミア達の所に家出してくれた方が百倍マシじゃが、そんな体で行ったらそれはそれで怒られると思うぞ。まあちゃんと看病はしてくれるじゃろうが」


あの人達とはまだ短い付き合いとはいえ簡単に想像が出来るぜ。そしてそのことがバレてミナ達に怒られることもな。

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