第105話:実はちゃんとお兄ちゃん
今の俺は武器一つ呼び出すのにすらあらかじめ細工をしておかなければいけないほどまでに使える魔力量が強制的に減らさられているとはいえ、相手の魔力や気配を感じ取る能力はそのままのはずなのに全く気付かなかったぞ。
そんな自分の理解を軽く超えることが目の前で起こったせいで頭がパンク寸前になったところでそれを狙っていたかのようにイリーナが俺のことを抱き上げ
「知ってますかソウジ様。姉より優れた弟なんてこの世には存在しないんですよ…ということで無事確保。……少しは落ち着きましたか?」
「取り敢えず今の俺がお前らに勝てないことは分かった」
本当にこいつらメイドが本業か? メイドは仮の立場で本当は暗殺部隊の人間ですとか言われても普通に信じるぞ。
「そりゃー、ここにいる十人全員ソウジ様のお姉ちゃんなんですから当り前じゃないですか」
「勝手にそんなこと言ってると姫様とリアーヌに怒られぞ。あの二人はもう坊主の嫁のくせして…いや、正式に嫁になったから別にいいのか?」
もうやだこの兄妹。
「なんでお前までいんだよ。姉を名乗るのはギリギリ許しても兄は絶対に許さねえぞ」
「坊主の兄貴なんてこっちからお断りだっつうの。ここに来たのはどこぞの馬鹿上司が殺気を振りまきながら廊下を走ってたり、人の家だっていうのに遠慮なしに魔法を使いまくって追いかけてるメイドが十人もいたからだろうが」
そうアベルが言った瞬間俺を含め全員が一斉に顔を背け、まるで何も無かったかのように
「よし、部屋に戻るか」
「そうですね。ということでソウジ様のことは私達がちゃんと部屋まで連れて行くから、お兄ちゃんも自分の仕事頑張ってね」
「やったー、私旦那様のお姉ちゃんになっちゃった!」
いや確かに許可は出したけどさ、それでいきなり国王の頭を撫で始めるとかメイド長がメイド長なだけあるな。つか刀返せよ。
「今みたいに小さい陛下のお姉ちゃんもいいけど、私は普段のカッコいい陛下にお姉ちゃんって呼ばれた~い!」
「じゃあじゃあ私は―――」
もう姉でも妹でも勝手にしてくれ。正直その方が色々と助かるし。
その後俺は抱っこされたまま部屋に連れ戻されベッドに寝かされたかと思えば何故かメイド兼自称姉十人が綺麗に並び、代表者としてイリーナが
「それじゃあ私達はそろそろ帰りますけどその前に。……昨日は本来私達メイドは絶対に参加できなかったはずのパーティーに、それも来賓と変わらない扱いで参加させてくださりありがとうございました。ここにいる十人は勿論他の子達もミナ様やリアーヌ先輩とは結構長い付き合いでしたので本当に嬉しかったですし、何より私達に後々危害が及ばないようにソウジ様自身が盾になってくれたのは嬉しかったを通り越して好きになっちゃいましたよ。まあその答えが貴方のお姉ちゃんなんですけど」
なるほどね。だから突然『ここにいる十人全員ソウジ様のお姉ちゃんなんですから』とか言い出したのか。………姉多くね?
とか思いつつも悪い気はしないので一応昨日の土下座の件について謝罪をし、最後はベッドから手を振って見送った。
そしてそれを黙って見ていたお母さんはイリーナ達が出て行ったのを確かめてから
「昨日私に怒られたのが気に食わなくて家出までしたみたいだけど、ああやって感謝してくれてる子もいたみたいでよかったわね。まあ私もその点についてはちゃんと褒めようとしたのにソウジが勝手にキレて部屋を出て行ったんだけど」
「別にあれだけが理由で出って行ったわけじゃねえし。本当はあの後も俺に突っかかってきた貴族様で遊ぶ予定だったのに、それが出来なくなったからってのもあるし」
「はいはい、そういうことにしといてあげるから布団で顔を隠さないの。あとさっきイリーナ達が来る前に言おうとしたことの続きが聞きたいのだけれど」
「……ミナやリアが今まで自分の立場のせいで抑え込んでたであろう感情とかを自然に出せるような環境は用意したつもりだし、それのお陰か二人とも年相応の態度を取ることが多くなったから安心しろって言いたかったんだけど…そこらへんの気遣いはずっと昔からお母さんと母さんがちゃんとやってたみたいだな」
布団の掛け方やリンゴのくず湯を作る時の手際の良さなんかもそうだが、今日一日この人とずっと一緒にいたことによってミナがお姫様としてだけではなくちゃんと一人の子供としても育てられたんだろうなっていうのが凄く感じられた。
「なに? わざわざそんなことを言いたかったの? そのことなら既に気付いてたし、私もアンヌも本当に感謝してるのよ、お兄ちゃん」
いや、お兄ちゃん言いながら人の頭を撫でてる時点で絶対に馬鹿にしてるだろ。
「ここまで偉そうに言っといてなんだけど自分ではそれの成果を得られたと思ったことはまだ一回もないんだけど」
「それはただソウジが気付いてないだけでしょ。だって手巻き寿司をご馳走になった日のリアーヌなんか自分の母親とはいえ普段はどんな場所でも仕事中は必ずメイド長として接するのにあの日は仲良く二人で普通の親子みたいに台所に立って料理をしてたし。……私はあの二人と長い付き合いだけどリアーヌとアンヌがああやって台所に立っている姿なんてホント久しぶりに見たわよ。冗談抜きで数百年ぶりに」
それが王族直属のメイドとしての人生であるといのは分かっているものの、こんなことを聞いて黙っていられる程大人ではない俺は再び起き上がり
「ちょっとリアの所に行ってくる」
「駄目に決まってるでしょうが。ソウジは二人のお兄ちゃんでもあるんだから少しは我慢を覚えなさい」
「じゃあミナの話も聞かせろ。そしたら大人しくここで今後の予定を考える。あとお兄ちゃん止めろ」
そう言いながら寝っ転がるとお母さんは悩む素振りを一切見せることなく
「ミナで言うといい意味で少し子供っぽくなったわね。今まではどんな不満があっても自分は王族だからで大抵のことは我慢してたし、そのお陰でって言うのはあんまりよくないんだけど私達がお説教をすることもなかったのよね。だからこの前の浮気云々の時はミナを叱りながらもそれが出来て嬉しかったし、そういう環境を作ってくれたソウジには感謝していたわよ」
「悪い、浮気云々騒ぎ出した件については昔からそういう子だったのかと思ってたわ。まさか自分で自分の首を絞めていたとは」
それからもお母さんによるお褒めの言葉が続いたり昨日のパーティーにイリーナ達と入れ替わりで来ていたらしいマリノ側のメイドの子達が何回かに分けてお礼に来たくれたのは嬉しかったのだが、代わりに熱が上がった。
わざわざお礼を言いに来てくれたのは嬉しかったのだが熱が上がったのも事実なわけで、最後の子達が帰ったと同時に寝落ちし次に起きた時はもう夜になっていた。しかし熱は全く下がっておらず意識が若干怪しい状態だったためもう一度寝ようとしたところでお母さんが
「それじゃあ私はそろそろ帰るわね。じゃないとそこにいるパジャマ姿の二人が五月蠅そうだから」
「まるで私達がここに来なければこのまま泊まるみたいな言い方なのが気になりますが、マイカさんがお母様に対して感謝していたので今回は目を瞑ります」
「そう。じゃああの子によろしく伝えておいてちょうだい。あとこの漫画何冊か借りていくわね」
いや別にいいけど、それ全巻読むつもりなの? 言っておくけどコ○ンは今の段階で90巻超えてる上にまだ未完だから全部読もうとしたら結構掛かるぞ。もしかして王妃って暇なの?
とか考えているうちにお母さんはいなくなっていただけでなく、何故か俺は大きいベッドに移され両隣にはミナとリアが寝っ転がっていた。
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