第103話:なんで泣いてるの?

仕事ついでのストレス解消という名のただの八つ当たりをすることによって大分落ち着いた俺は懐中時計で時間を確認しようとしてポケットがないことに気付き


「そうか、今はティアの体だから服も違ければ時計も無いのか。……ん? じゃあ何時もあいつは一体どこから俺の血が入った試験管を出してるんだ?」


別に後で直接本人に聞けば済む話なのだが気になったものはその場で解決したい性分なので悪いとは思いつつあっちこち服や体を触り続けること約一分。


見つけた…けど、見た目的にも年齢的にもこれはどうなんだ?


というのも俺が探していた物は太ももに装着されているレッグホルスターに試験官みたいなやつを刺すような感じで収納されていたのだ。


……まあどうやっているのか知らないけどティアがどんなに激しく動こうとも着物の中が見えたことは一度もないので問題ないといえば問題ないんだろうけど、ロリ婆がこれってどっちを取ってもアウトだろ。いや、でも吸血鬼基準で見た420歳はかなり若いらしいしからセーフなのか?


もう面倒くさいから似合ってれば何でもいいや。さっさとこの血まみれの格好を何とかして帰ろう。


ぶっちゃけ疲れたので早く帰って寝たくなった俺はそんな適当な結論を出した後、本当は風呂で洗い流したいのだがそれをしようとすると血だらけで家に帰ることになるので仕方なく魔法で時間を戻して服や体を綺麗にしてから直接玄関へと転移した。






……電気がついてるってことはまだパーティー中か? チッ、もう少し遅く帰ってくれば―――


そう思った瞬間後ろから誰かに肩を掴まれたかと思えばそのまま無理やり前を向かされ…正面から抱きしめられた。


「よかった~、やっと帰ってきました」


「まったく家出するならするでちゃんと宣言してから出て行ってください」


「ふ~あ、帰ってくるのが遅いからもう少しで寝落ちするところだったわよ。この馬鹿ソウジ」


「別にそこまで心配する程のことじゃないんじゃし、何よりもう夜遅いんじゃからセリアは先に寝ておれと言ったじゃろうに」


「まあソウジ君が私達を置いて突然いなくなるわけないしね」


「なんだ坊主、随分と短い家出だったな。男ならもうちょっと頑張れよ…って言いたいところだけど、やりたい放題やった挙句師匠にパーティーを押し付けて突然いなくなったって考えればそこらのチンピラよりも男だな。裏を返せばただの問題児だけど」


みんなが普段の格好に戻っていたり、ティアが大人の状態とはいえ俺の姿じゃないってことはパーティーは既に終わってるってことで……こいつらもしかしてずっと玄関で待ってたのか? 馬鹿じゃねえの。


「……今日のパーティーでのことは悪かった。正直自分が犠牲になるだけで他の誰かが傷つくなんて考えはなかった、というか想像すらしてなかった」


逆にこれでまたみんなから褒めてもらえるとは思ってたけど。


「あのですねソウジ様。確かにあの瞬間私達は凄く後悔しましたし、問題の二人やそれに同調していた方々には腹が立ちました。ですが一番私達がショックだったのは…ソウジ様から自分ならいくら泥を被ろうが馬鹿にされようが結果的に勝てれば何でもいいというような……自己犠牲精神が感じられたことです」


「いや、あの、確かにミナが言ってることは全部当たってるんだけど……なんでちょっと泣いてんの?」


そんなに何か不味いことをしたのかと内心焦り始めているとティアが


「はぁ、まさか二日連続でこの話をすることになるとはのう……。言っておくが自己犠牲とカッコつけることは似て非なるものであり、今のお主がやっておることはどれもカッコつける為にやっておるように見えてただの自己犠牲じゃぞ。………まったく、わらわとしたことがこんなことも見抜けておらんかったとわ」


二日連続? いや、そんなことより自己犠牲とカッコつけることってどう違うんだ? というか今までの俺の頑張りが全て自己犠牲だと? いくら心を読めるからって変な言いがかりはやめ………。






もう朝か。…………もう朝⁉


「やばっ‼」


今日は重要な仕事があるにも関わらず目覚ましをかけ忘れたことを思い出した俺は文字通り飛び起きたのだが、頭がクラクラするだけでなく突然吐き気まで襲ってきたせいで前のめりに倒れそうになったところをお母さんが


「まったく、ようやく目が覚めたかと思えばいきなり飛び起きたり倒れそうになったりと忙しい子ね。ほら、まずは大人しく布団に戻りなさい」


「おい、今何時だ? つか離せ! 俺は二度寝してる場合じゃねんだよ‼ ……力つよ⁉」


「いいから病人は大人しく寝てる。だいたい誰もソウジを起こしに来てない時点でまだ時間に余裕があるか何か理由があることくらい落ち着いて考えれば分かるでしょうに」


言われてみれば確かにそうだな。逆に起きたくなくて二度寝してると絶対にリアが起こしにくるし。………ん? 病人?


そう思った瞬間再び眩暈と気持ち悪さが同時に襲ってきたせいでお母さんに抵抗していた力が一気に抜け、ガクッとなったところを正面から抱きかかえられるような形になり


「なんか怠い。もう動きたくない…というか動いたら吐きそう。でもこれ吐けないやつだ」


「吐きたくても吐けないのは貴方が昨日の朝ごはん以降何も食べてないからであり、吐きそうな理由は胃が空っぽだから。あと医者が言うには疲れが溜まってて熱が出たんだろう…ですって。分かったら大人しくもう一回寝なさい」


そう言いながらお母さんは俺の体をゆっくりとベッドへ倒し始めたところでようやく自分のオデコに冷○ピタが貼ってあったり、なんでか体が小さくなっていることに気付き


「おい、なんで俺の体が小さくなってるんだ? いや犯人は一人しかいねえけど」


「ティアがその方が看病しやすいだろうってことで貴方を小さくしたのよ。まさか寝起き一発目で役に立つとは思わなかったけれど」


なんか最近勝手に俺の体小さくされがちじゃね? しかもそれら全部に一応理由があるのがちょっと腹立つな。


などと考えているうちに俺の体がベッドへと戻されており、掛け布団をかけてくれようとしたのか一旦離れようとしたところを慌てて服の裾を掴み


「あっ、あの……」


やばい、早く言いたいことを言わないとあの人みたいに『言いたいことがあるならハッキリ言って』って言われる。早く、早く言わなきゃ、早く、早く、早く………。


『この朝の忙しい時にやめてよね』、『私学校に電話したくないから貴方が電話してよね』、『なに? 結局学校行くの? 行かないの?』、『それで、一体どうしたいわけ? 私暇じゃないんだけど』


体調不良のせいか思い出したくない昔のことまで思い出してしまい尚更上手く言葉が出なくなってしまったところでお母さんの口が動き出すのが見え、ドキッとしたと同時に


「ん、なに?」


言葉や状況は同じなのにあの人とは違って凄く優しく、まるで今の俺の気持ちに気付いて落ち着かせようとするかのように自分もベットに倒れ込んで目線を合わせながらそう問いかけてきたのをうけて自然と涙が流れ出したのと一緒に


「昨日はお母さんに向かって乱暴な言葉を使ったり酷いこと言って…ごめんなじゃい、うぅ、すん。ごめんなざいー」


「別にそんなに泣かなくてもいいじゃない。あれくらい普通の親子ならよくある喧嘩でしょ? 会話の内容は普通とは程遠いものだったけれど。まあ今日はゆっくり休みなさい」


別に謝っている時は号泣というほどのものではなく勝手に涙が流れてきているという感じだったのだが、お母さんの最後の言葉を聞いた瞬間まるでずっと求めていたものをやっと手に入れたかのような感覚を得たせいか、泣きつかれて寝落ちするまでずっと泣き続けた気がする。






「んー、やっぱり―――の影響が一番―――なのかな」


「なんて言うか…あれは私と――ことで泣いて―――よりは何か別の――原因で―――気がするのよね」


………んっ、ぅん~。誰かがこの部屋にいるのか?


そう思いながらゆっくりと目を開けると


「あっ、ごめんねソウジ君。もしかして起こしちゃった?」


「……腹減った」


「貴方、それは全く返事になってないわよ」


「さっきも思ったけどなんでお母さんの近くにコ○ンの漫画が大量に積まれてるわけ」


「これは完全に頭が働いてないわね。悪いんだけどエメかリアーヌにソウジのご飯をお願いしてきてもらっていいかしら?」


失礼な、見た目は子供でも頭脳は大人だっつうの。


「オッケ~、じゃあこの話はまた後でってことで」


「お母さんに対する態度軽くない⁉ うっ……」


「はいはい病人は大人しくしてる。じゃあお願いね」


そう言いながらお母さんは寝汗でベタベタになった俺の髪の毛を整え始めたのだが、それを見たマイカはいつかのようにちょっと羨ましそうな顔をしつつ部屋を出て行った。

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