第102話:最低最悪の行為?

な~んて、プライド高き…あっ、間違えた。誇り高き貴族様相手に挑発染みたことを言えば必ず反応する奴が出てくるわけで


「これはこれは、流石は式典が始まる前どころかそれが終わった後にすら私達の所に挨拶へ来なかっただけでなく、国王としては勿論貴族としても有るまじき…お粗末で横暴な開国宣言をなされたお方だけはある」


「あははははは、手厳しいご指摘ありがとうございます。まあ私は皆様のように貴族の教養が一切ないもので色々と不慣れなことが多くてですね、今後も何かしら無礼を働くことがあるでしょうが多めに見てくださると助かります」


なんて心にもないことを如何にも反省してますよ感を出しながら言うと、今度は文句を言ってきた男の奥さんらしき女が


「どうやら貴方は貴族としての教養がないだけではなく私達についての知識も足りないようなので教えて差し上げますが、私達は夫婦でマリノ王国を中心に大商人として仕事をしております。……この意味お分かりでしょうか?」


「……お恥ずかしながら私が住んでいた国では中々お聞きしない言葉でして、ちょっと分からないですね。すみません、勉強不足で」


なんて嘘に決まっているのだが今の俺はポーカーフェイス中。つまりこんな演技をするのなんて簡単なわけで、それを真に受けた男は厭らしい笑みを浮かべながら


「ではそんなソウジ陛下にも分かりやすく説明しますとですね、私達夫婦はマリノ王国を中心に様々な方面で大商人として商売をしております。つまりあの国の商人関係者の中でもっとも権力が強いのは私達であり、商品の輸出・輸入に関してはかなりの影響力を持っているということです」


「そしてソウジ様は既に有り得ないほどの無礼を働いたにも関わらず、更にそれを積み重ねてしまった。しかもそれがミナ王女の婚約相手とあって私達以外の方々も内心では呆れていたり、今からでも婚約破棄するべきではないかと考えているのもいることでしょう。……そういえば、日本では土下座というものがあるとかなんとか」


………う~ん。クソ婆(奥さん)が俺に対して遠回しに土下座をしろと言ったことによってニヤニヤしだした奴や俺がどうするのか興味深そうに観察してる奴、そしてミナがこの会話に割り込もうとしているのをお母さんが止めているってことは土下座の意味は知ってるっぽいな。誰だよ異世界に来てまで土下座なんてした奴わ。


などと周りの反応を観察し終えた俺は壇上から降り、そのまま床に正座をし


「この度は私の勉強不足のせいで皆様に大変失礼なことをし、ご不快にさせただけではなく、今回の式典ではマリノ王国の王女様ならびに彼女のご両親であられるブノワ様・アンヌ様。そしてそれに参加されいた関係者の皆様には私のお粗末な建国宣言等で恥をかかせてしまい」


そこで一度言葉を切った俺は一呼吸置いた後、少し大きめの声で


「大変申し訳ありませんでした‼」


そう床に自分の額をピッタリとくっ付けた。つまりは人生初の土下座である。


そして人生初の土下座を約五秒程続けた俺は何事もなかったようにスッと立ち上がり、そのまま再び壇上へと昇り


「ということでですね、これ以上私とマリノの大商人のお二人が関わるとお互い嫌な思いをしそうなので今後一切関わらないようにしようかと思います。……あっ、もしかして実は地球産の商品を仕入れる為のルートを自分達が圧倒的有利に交渉を進めて確保するためにワザと俺に謝罪をさせて、許す代わりに~みたいなことを考えてました? 別に私個人が貴方方と今後一切関わらないというだけでして、婚約者であるミナやうちの執事兼交渉人のセレスはまだ何も言っておりませんので交渉も兼ねて是非パーティーをお楽しみください」


言っちゃ悪いがこの世界の商品と地球産の商品ではどれをとっても品質の差がありすぎる。つまりはたかだが一国の大商人だか何だかとの繋がりがなくなったところで全く痛くない。


そしてそれに気付かない程馬鹿じゃない問題の二人は顔を青くし、先ほどまで人のことを馬鹿にするような貴族様方の目が一気に変わった。あと今アベルの妹が口パクで『ざまぁ』って言ってたのを俺は見逃してねえぞ。


「折角のパーティーでしたのに私が頭のおかしなお願いをしたせいで皆様を不快な気持ちにさせてしまい申し訳ありません。ですがこれがうちでの方針ですのでご理解頂けない方は今すぐお帰りください。………反応がないということはご納得頂けたということでしょうか? であれば私は今からシャワーと着替えをしてきますが皆様は先にパーティーをお楽しみください」


そう言い終えた俺は扉に向かいながら一人で歩き出し、それの前についたところでワザと後ろを振り向きながら


「これはちょっとしたおまけですが…私がこの部屋に入ってからここを出るまでの映像を見たヴァイスシュタイン王国・マリノ王国の国民の様子を色んな場所から撮影したものになります」


そんな言葉と同時に壇上の天井から大型スクリーンが下りてきて……動画の再生が始まった。






それから俺は一人で自分の部屋に戻り、シャワーを浴びた後に普段着へと着替えてから洗面所を出ると


「なんでお母さんがここにいる? しかも椅子じゃなくてベッドに座りやがって」


「まさかとは思うけど貴方その格好で戻る気? ……ギリギリ許せなくもないけれど、他のがあるならそっちを着た方がいいわよ」


「残念ながら時間的に二着までしか用意できなかったんだよ。流石に一日でどっちも汚すとは思わなかったけど」


そう言うとお母さんは納得したらしく、数度頷きながら足を組み替えたかと思えば突然


「さっきのソウジの交渉に関してだけど……、全然ダメ、0点ね」


「はあ? どいうことだよ?」


「どういうことも何もあれは最低最悪の行為だったて言ってるのよ。お分かり?」


自分で言うのもなんだがあの交渉にはかなりの自信があったし、何より恥もプライドも捨てて土下座までしたにも関わらずここまで言われて黙っていられるはずもなく


「ああ゛っ⁉ だったらアンタ等はあそこにいた貴族共に見せしめをしただけでなく両国の国民を一瞬で味方につけたあの交渉よりも優れた交渉が出来るってのかよ? もしそうなら是非ともご教授いただきたいね!」


「確かにあの場にいた貴族の殆どはソウジのことを舐めていたし、私達にはあんなスムーズにことを進めることは出来ない」


「はっ、偉そうに批判してくる割には大したことねえじゃ―――」


「でもさっきのソウジと違って自分のことを大切に思ってくれている人達が傷つくようなことは絶対にしなかったでしょうね。……特にミナなんかは自分がもっと上手く立ち回っていればって凄く後悔していたし、今にも悔しくて泣きそうなのを我慢しながら笑ってるわよ。大好きなソウジ様の為にね。そして他の子達もそれぞれ悔しがっていたり、腸が煮えくり返りそうなのを我慢しながら笑顔を振りまいていたりと頑張っているでしょうね。まあティア・セレス・エメに関しては最初から何があっても成長を見守り続けるっていうスタンスでやってるみたいだから例外だけど」


ここで俺が冷静ならお母さんの言ったことが嘘だと、どうせみんなもあの人と同じで周りの目を気にしてるだけなんだろ? なんて思いもしないのだが


「はいはい、全部俺が悪かったよ。今回は私の足りない頭のせいで皆様に恥を搔かせてしまって申し訳ありません! 全部俺が悪かったですよ‼」


そう怒鳴るように言った俺は八つ当たりするかのように扉を乱暴に開け、これまた乱暴に扉を閉じた。


その後ティアを呼び出して有無を言わさずに無理やり入れ替わり、例のデッカイリボンを使って魔法で黒色にした長い髪の毛をポニテに、続き今度は動きやすいように下駄を脱いで裸足になってから千里眼を使ってギルドに出ている依頼をチェック。


そして一人それに出ていたモンスターや盗賊がいる山へと向かった。






ああ゛ー、イライラする。なんで頑張ったのに誰も褒めてくれないんだよ。なんで俺がボロクソに言われなきゃいけないんだよ。今回は褒めてもらえるかと思ったのに、流石って言われるかと思ったのに結果は悔しくて泣きそうだ? 腹が立ってキレそうだ?


「さっきからギャアギャアうるせえぞ‼ テメェらみたいな雑魚モンスタが俺に勝てると思ってんのか!」


「「「「「――――――」」」」」


「無駄無駄無駄‼ 何匹でかかってこようが負けるのはお前ら雑魚なんだよ!」






「盗賊の皆さん、こ~んば~ん~は♪ 楽しくキャンプ中のところ申し訳ありませんが皆さんには今から死んでもらいまーす‼」


「「「「「――――――」」」」」


「何言ってるか聞こえねえけど、俺の八つ当たりついでにこれまでの行いを振り返りながら殺される順番でも待ってろ‼」

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