第98話:スマ○ラ
3月7日、建国宣言当日の午前9時。式典会場は元々そういうことにも使うために作られた訓練場であり、開始時間はお昼の12時から。つまり本日の主役である俺はその時間までに会場へ行けばいいということで
「おい、この前までそんなハメ技使ってなかっただろ。……ちょっ、待て待て待て、復帰阻止はズルい」
「うるせえ今日くらい大人しく落ちろアベル。お前はいつもしつこいんだよ」
という感じで居間のテレビを使ってスマ○ラをしていた。ちなみに戦況はお互い残り1の状態で俺がアベルの使っているキャラの復帰阻止中である。
「どっちらでもよいから早く負けてわらわに代わるのじゃ」
「流石と言うべきか、相変わらずと言うべきか、式典当日どころかもう3時間を切っているというのに息子達はいつも通りテレビゲームとやらか。類は友を呼ぶ…昔の日本人は上手い言葉を作ったものだ」
「陛下のお気持ちは分かりますが、こうやってこの国の上位人のうち3人もの方々が家でくつろいでいるということはそれだけ警備関係には自信があるということですし、よいことなのではないでしょうか」
そこら辺に関しては警備室にあるシステム設定を式典用にしてあるので完璧である。特に一番の違いとしては普段は何か事件が起こりそうになった場合警備室に連絡が行き、それを確認した警備兵が転移魔法を使って確保しに行くというものだが、今回使っている式典用は事件が起こりそうになった場合は勝手に転移魔法が発動し、犯罪者はとある場所に直接送られるという今日という日を狙っていた犯罪者さんからしらたまったもんじゃないクソ仕様である。
あっ、やっと落ちた。
「どこが最弱キャラだよ。滅茶苦茶強いじゃねえか」
「ピ○ューは最弱であり最強。つまりそれを使っている俺は超最強ってことだ」
「ほほ~、ならもう一回ピ○ューでくるということかの?」
などと言いながら自然な流れでイカを選ぶティア。
「お前相手だと絶対に負けるから無理。ということでゲッ○ウガ」
「あっ、聞いてくれよ師匠。坊主ってばゲッ○ウガが瞬間移動みたいなのを使う時は必ず地面に黒い影が出来るっていうのに全然教えてくれなかったんだぜ。しかも俺がそれを知らないことをいいことに、全く同じことをしてやり返そうとしたら必ず反撃を食らって吹っ飛ばされた挙句笑いながら馬鹿にしてくるし。こいつ性格悪すぎねえか?」
「所詮ゲームとはいえ戦いは戦い。敵から情報を教えてもらおうなんて甘ちゃんにも程があるんだよ。………はあ⁉ なんだよその技! どうやったか教えろよ!」
「お主、さっきと言っておることが真逆じゃぞ。……ほれ、もう3-2じゃ」
クッソ、こうなったらもう負けること覚悟でティアの手元見ながらプレイするか。
そう思った俺は自分のキャラを操作しながら横目で観察してみると……
「おまっ、それはもう人間が出せるスピードを優に超えてんじゃねえか⁉ 尚更どうやってんだよ!」
「はあ? どうやってて今坊主が自分で言ってたじゃねえか。実は緊張してて頭の中一杯いっぱいなのか? ぶははははは、それならそうと素直になれよ」
「実は内心誰よりも緊張してるせいで頭の中が一杯いっぱいのアベル君にも分かるように教えてやるとな、今ティアがコマンド入力してるのは全て数手先どころか数十手先のものであって、画面に映ってるあのイカの動きは時間にして数十秒以上前に指定された動きをしてるだけなの。つまりこいつはゲームですら俺の思考を先読みできてるってこと」
「………へ?」
ヤバッ、馬鹿に付き合ってたせいで3-1じゃねえか。………きた! インク補給時は一番隙が生まれるタイミング。つまり今がチャンスだ‼
そう思った俺は最速で移動し、速攻でハメ技へと繋げようと例の瞬間移動っぽいことをして近付いたまではよかったのだが、その瞬間ティアは持っていたコントローラーをテーブルの上に置いたというにも関わらず勝手に動いているイカが俺のゲッ○ウガに攻撃を与えているのを眺めながら
「それは愚策中の愚策、少し焦りすぎじゃ」
「……もはやこんなのチートだろ」
「相手の狙いを読みながら動けと模擬線時にも言っておろうに。まあ今回はわらわの凄さに動揺したようじゃがの」
最後の方は完全にドヤ顔してきたので反論してやろうかとも思ったのだが、俺の横にセレスさんがエレーナを連れてやってきて
「旦那様、お客様をお連れしました」
「親父二人と話してる最中だったのにワザワザありがとうございます。それからお客様は私の向かい側にどうぞ」
そう言いながら俺はティアの隣の席を進めると大人しく座ったのでキッチンへコップと麦茶を取りに向かうと
「なんじゃ、朝から息など切らしおって。この後何か急ぎの用事でもあるのかの? ああ、喋るのは落ち着いてからでよいからの」
「………実はソウジ様に頼まれていた婚約指輪を式典までに間に合わせるためにさっきまでずっと作業をしてたんですけど、それがやっと終わったので私が走ってお届けしにきたんですよ」
「婚約指輪⁉ おいおい、あの坊主がそんな気の利いたもん用意したってのか? ……明日は雨だな」
残念、明日の天気は晴れです。日本の天気予報舐めんなよ。
「ほら、麦茶で悪いけどどうぞ」
一応紅茶も入れられることは入れられるとはいえ人様にお出しする程の腕前でもないので冷蔵庫にあった麦茶を出したのだが、走ってきたせいか喉が渇いていたらしいエレーナはお礼も言わずに一気飲みし始めた。
その為俺は空になったコップに再び麦茶を注いでやっていると、朝からずっとリビングにいるブノワの親父が
「あそこに息子専属のメイドが一人いる気がするのだが、お互い何も言わずにお茶汲みをやるとは相変わらずだな」
「ここでは立場など関係なく自分で出来ることは基本自分で、が旦那様の方針ですからね。まあリアーヌ君なんかはどうしても譲れないことがいくつかあるようで、例えば彼女の手の空いている時に旦那様がご自分で紅茶を入れようとすると無理やり止めたりしますし」
「恐らくそれは妻に似たのでしょうね。私も昔はしょっちゅう同じことをされましたし、あの二人は似ていないようで結構似ていますから」
てっきりエメさんも同じようなことしてくるからメイドとして譲れないものがあるのかと思ってたけど、変なプライドというか拘りがあるのは母さん似かよ。まあでも一流のメイドとしての母さんに似たって考えればいいか。
「んぐ、んぐ、んぐ………ぷは~」
「一応ここは俺の家…つまりは王城だっつうのに初めて会った時とは態度が大違いだな。しかも今日はマリノの王様と宰相もいるっつうのに」
「…………へ?」
どうやら頭の中には指輪のことしかなかったらしく、それに加えて走ってきたことによる疲労が加わり完全に自分が置かれている状況を理解していなかったようで……。
あれから大慌てでイリーナが周りを見渡したり、頭を抱えたかと思えば謝罪しだしたりというちょっとした騒ぎが十分程続いた。
「んで、俺が買った指輪って着けたら勝手にそいつの指のサイズに合わせてくれんのか?」
「はい、この世界で売られている物は値段にもよりますが基本的には魔法で勝手に調整されるように作られています。なので最後に私が何か異常がないか確認すれば大丈夫ですよ」
「なるほど。んじゃ今三人は専用の部屋でドレスに着替えてるはずだから頼むわ」
ちなみにティア以外の女性陣は三人の着替えを手伝っていたり、自分達の着替えをしていたするので全員同じ場所にいる。
では何故ティアだけそこに混ざっていないのかと言うと、ドレスよりも和服がいいとのことなので仕方なく俺がそれ絶対飾りであって機能性ゼロでしょ、みたいな和服に合わせて作られたデッカイリボンで髪を結んでやったら大変お気に召したらしく、そこから暇つぶしに三人でゲームをとい感じである。
「わらわはお主が直接渡した方がよいと思うがの~」
「直接渡すのは結婚指輪の時、つまり俺と婚約する人は全員イリーナから婚約指輪を渡されるってことでよろしく~」
「私ですか⁉」
「どんなにカッコつけて言っても恥ずかしくて直接渡したくないってのはバレバレだぞ、坊主」
るっせえ、ほっとけ。
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