第97話:誰のため?

それから俺は大人しく母さんに抱っこされている間、朝ご飯の時程ではないもののイリーナ以外のメイド達は恐る恐るという感じでついてきていた。ちなみに俺は真正面からそれをされているので後ろを向いている状態である。


そりゃ自分の上司がいきなり他国の国王(仮)を自分の息子扱いしただけでなく、口を引っ張り出したり役職は違えど元同僚が『誰が役立たずだボケ‼ 元はと言えば坊主が悪いんだろうが‼』と言ったかと思えば今度は抱っこだからな。こんなの立場とか関係なしに一般人同士でも普通にアウトだぞ。


などと考えていると俺達の前を歩いていたうちのメイド達(ティア以外)が扉の前で止まったらしく、母さん達も止まった。ティア? あいつはもう完全に肩書だけメイドだよ。


「ん? ここって確かパーティー会場じゃなかったか? まだ一回も使ったことないどころか、一生使いたくないけど」


「ってソウ君は言ってるけど?」


「そんなのご主人様がこの国の王になる時点で無理に決まってるじゃないですか。現に明日も一件パーティーのご予定が入っているからこそお母様達をお呼びしたんですし」


なに⁉ そんな話一言も聞いてないぞ。


「リアーヌ、ソウジ様が私達の方を向いたまま『そんな話一言も聞いてないぞ』みたいな顔してるけど、まさか隠してたの?」


またエスパーが一人増えたよ。もうこの世界の女ってどうなってんの。


「ご主人様に事前に教えたら絶対に嫌がりますからね。下手したら建国宣言自体すっぽかす可能性もありますし。逆にアベルはお酒が飲めるだの美味しいものが食べられるだのと喜んでおられましたが」


「あははははは、流石はお兄ちゃん。なんかこっちに来てから更に元気になった?」


「良くも悪くもご主人様のお陰で毎日うるさいくらいですよ。……はい、鍵が開きましたので皆さん中へどうぞ」


そんなリアーヌの声とほぼ同時にイリーナ達の方から驚きの声やらなんやらが聞こえてきた。


「ふふ~ん、凄いでしょ? でも隣に隣接してるキッチンはもっと凄いんだから!」


「なんで母さんが自慢げなんだよ。ここのデザインとか配置を考えたのはミナ・リア・セリア・エメさんの4人だろうが」


「リアーヌは私の娘なんだから私がみんなに自慢したって全然変じゃないでしょ?」


どこのガキ大将だよ。


などと半分呆れていると、まだ続きがあったらしく母さんは俺を椅子に座らせたかと思えばワザワザしゃがんで目線を合わせ


「でも…一番の自慢はこんなに凄い建物を作ったソウ君よ」


「別に俺は何も―――」


「してないなんて言わないわよね? これだけ私達の世界では見たことがないような部屋の作りをしているのに。それと前回見た時はこんな部屋の構造じゃなかったはずだけれど」


「……一応学生とはいえあっちの世界では建築を学んでたからな。母さんが見たことない作りをしているのはこっちの世界の人達のアイディア不足というわけじゃなく、今ある建築技術では実現不可能なことを俺がやっているからだ。といっても地球ではかなり一般的なものだけどな」


最初この城を作った時は俺一人だったり、ミナ達が部屋を大規模リフォームした時は別にパーティー会場なんて使う気もないし適当でもいいかと思っていた。


だが日を増すごとに色々と考えるようになった…というかまずは自分の出来ることだけでいいから兎に角周りの王族貴族達よりもカッコつけたくなったというのが本音である。


それも誰かに強制されてそいつの為にではなく、自分と自分が大切だと思っている人達のために。


そんな俺の考えを見抜いたかのように母さんは俺の両頬を優しく包み込み


「初めて私達と会った時のソウ君も十分カッコよかったけれど、今はもっとカッコよくなってる。でもそれは誰かの為に頑張っただけであって、自分の為ではない。……この意味分かる?」


訂正、半分しか見抜かれていなかった。


「確かに俺は俺が大切に思っている人達の為に頑張ってはいるけど、結果的には自分の為にもなるんだし…なんか違くね?」


「そっか……」


「いや、なんでちょっと悲しそうな顔してんの? ぶっちゃけさっきは軽い感じで言ったけど、本当は死ぬ気で色々と頑張ってるつもりなんだけど。………あれ?」


泣いてる? なんで俺が? また自分の頑張りが認めてもえなかったから? 頑張りが結果に繋がっていないから? いつものことなのに?


自分の意志とは関係なく泣き出してしまったせいで軽いパニック状態になってしまい、そのまま泣き続けていると母さんが再び抱きしめてきて


「あ~、違う違う。ソウ君のことは全部リアーヌとかから話を聞いて知ってるし、会う度に必ずここに住んでる子達の誰よりも成長したことが感じられるから、あなたが一番頑張ってるっていうのは分かってる。だからそこだけは勘違いしないで。ね?」


自分の服が俺の涙で汚れることなど全く気にせず抱きしめてきて、そのまま背中を優しくポンポンし始めるとキッチンで何かの作業をしていたらしいリアが一人で現れ、こちらを見た瞬間凄く怖い顔で


「お母様、なぜご主人様が泣かれておられるのでしょうか? 理由によってはいくら家族でも許しませんよ」


「ちっ、違う! 違う違う違う‼ 違うの! 母さんは違う! ちが…う、うわぁーーーーん‼」


全部俺が悪い。だから俺のせいでこの二人も喧嘩しそうになってるんだ。また俺が悪い、俺のせいだって言われる。


俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい俺のせい―――――。






「あれ? さっきリアがこの部屋の鍵を開けたばっかりだった気がするんだけど……、つかお前いたっけ?」


「お主は何を言っておるんじゃ? それは数分前のことで、今はわららと喋りながら一通り準備が整うのを待っておるところじゃろうて。なんじゃ、もうお眠の時間かの?」


言われてみればそうだったような。


「………あ~、思い出した思い出した。なんかよく分かんないけど母さんに抱っこされてここに連れてこられたかと思えば、『ちょっと二人で待っててね』とか言ってお前以外のメイド全員で奥のキッチンに行ったんだったわ」


「それで、明日のパーティーでもあるじゃろうダンスはどうするつもりじゃ? 一応今回の参加国はマリノだけじゃし何かあってもブノワ達が全面フォローしてくれるとは思うが、お主の弱みを見せんに越したことはないからのう」


「こんな短期間でダンスなんて踊れるわけねえだろ。ってことでダンスの時だけ俺とお前で入れ替わろう」


そもそもダンスとか嫌いだし。


「別にわらわは大人の姿になった後幻覚魔法で他の者からはソウジ・ヴァイスシュタインに見えるようにすればよいが、お主の場合この魔法自体は使えても長時間は無理じゃろうて。下手したらミナ達に両手両足を拘束された挙句監禁されかねんぞ」


「俺の変身魔法は相手のスペックも完全再現出来るんだし、最悪なんとかなるだろ。お前のチートスペックを使いこなせるかどうかは置いておいて」


「お主如きがわらわの体を使いこなすなど100年早いわ。もしもの時は大人しく捕まっておれ」


そんな事実過ぎて一ミリも反論できないお言葉を言われてしまった俺は頬杖を突きながら黙っていると、母さんが戻ってきてたので若干不機嫌なまま


「それで、結局母さん達は何しに来たんだよ。今までの話を総合すると明日のパーティーに関係してそうなことだけは分かるけど」


「あれ、もしかして私がソウ君を置いて行っちゃったから怒ってる? ごめんごめん、今抱っこしてあげるから」


などと言いながら自分の膝に俺を乗せた後、後ろから抱きしめてきたので


「なわけあるか‼ 抱っこなんてどうでもいいから早く説明しろ!」


「も~、本当は嬉しいくせに強がっちゃって」


「アンヌ達がうちに来た理由は明日のパーティーの準備…もっと言うとパーティーに出す料理を前日から用意しておくためじゃ。まあこんなことが出来るのはお主がおってこそじゃがな」


なるほど。みんなが作った料理を俺が片っ端から魔法で時間を止め、そのまま明日まで保存しておくってことか。考えたやつ頭いいな。


「そういうこと~。だから今日は一日よろしくね、ソウ君♪」


別にそれ自体はみんなの負担が減るわけだし、なんの問題もないんだけど……なんで俺は真正面から抱きしめられてるわけ。一分もしないうちにさっきと恰好が180度変わってるんですけど。


「おい、もう分かったから離せ! つか早く仕事に戻―――冷たっ⁉」


「あっ、ごめんね。実はさっき服に水がかかっちゃって…お詫びにママのお手てで温めてあげる」


そう言うと一旦お互いの体を離し、母さんは俺の両頬を優しく包み込むようにしてきた時、何かを思い出しそうになった気もしたがそれも一瞬のこと。その為何かの気のせいかと考えた俺は無理やり膝の上から飛び降り、母さんの手を引っ張るようにしながら


「んなことどうでもいいから早く着替えろ…じゃなく、まずは風呂だ! 濡れた服をそのまま着てるとか馬鹿だろ。ほら、早くしろ!」


「もうホント、ソウ君はどこまで頑張り続けて……どこまでカッコよくなるつもりなの?」


この言葉を口にした時の母さんの顔が少し悲しそうだった気もしたが、前を向いていたせいでチラッとしか見えなかったので気のせいだろうと適当に結論付け、急いでお風呂へと向かった。

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