第90話:お土産選びとサイン

などと一人反省している間に女の子の方が復活したようで、これまた凄い勢いでエレンの頭を上から押しつけながら頭を下げてきたり、自己紹介をされたりしたががこの光景は俺もティアと同じく飽きてきたので端折るとして


「母ちゃんから今日ソウジ兄ちゃんが店に来たって聞いて近くを通るかもしれないからダメ元で店番してたけど、まさか近くを通るどころか直接店に来てくれるとかラッキーすぎるわ。あっ、ついでにサイン頂戴よ!」


どうやらご丁寧にサインを書いてもらうために紙とペンまで用意していたらしく、それらをこちらに差し出してきたのだがこの世界で普及している紙やペンは大昔に召喚された勇者が技術提供をして作られた物であるため和紙に似た質の悪い物だったりする。なので今回だけ特別にサイン色紙とマジックを収納ボックスから出し


「あー、これってもう苗字も書いちゃっていいのか? 一応まだ発表してないし駄目な感じ?」


「お主が考えた新しい国名を他国が先に取ってしもう可能性もあるのじゃし、シラサキの方にするか名前だけの方がいいんじゃないのかの。大丈夫だとは思うがの」


「パクられるのは気に食わねえな……。後でもう一個書いてやるから今日は白崎の方で我慢してくれ」


一応ミナにサインも用意しておけと言われたためソウジ・ヴァイスシュタイン、ソウジ・シラサキ、白崎宗司の三パターンを考え、一日中練習させられたのでどれを書けと言われてもすぐに書ける状態な為どれが欲しいか聞いたところ


「全部‼」


「別に全部っていうなら全部書いてやるけど、俺なんかのサインを貰ってどうすんだよ。正直俺なら異世界からきた勇者のサインだとしてもいらねえぞ」


その証拠にサインをくれなんて言われたのはこれが初めてだし。


「なんかエレンのお願いで普通に書いてくれてますけど、今この国でのソウジ様人気が凄いのは勿論のこと…子供達の間ではこの国の騎士団に入るのが将来の夢になっていたり、ティア様に憧れてメイドを目指すって子も結構いるみたいですよ」


「あらら、これはその子達が大きくなるまでに色々と頑張ってそれだけの場所を用意しておいてあげないといけなくなっちゃったね。私達は勿論のこと、アリスちゃん達も先輩としてしっかり仕事を教えられるくらいにならないといけないし大変だ」


騎士団はまだしもメイドはもう既に足りてるんだよな~。まあ将来的にはアリス達が結婚して育休を取る日がくるかもしれないし、そう考えれば……あの家では全てにおいて最先端技術を採用している&チート魔法を使っている時点でなんの問題もないな。あと、あの子達を嫁にやる気は当分ないし。


………今度ブノワの親父とレオンの親父の所に地球の酒かなんかを持っていこう。つか娘二人は嫌がるかもしれないけど頻繁に家に呼んでやろう。


ちなみに俺は他人の家に行くのが嫌いな人間なのでこっちから行くのは却下である。それにあっちの家に行くといきなり文明レベルが下がるから不便だし。現代日本で例えると自宅にはWi-Fi環境が整っているが、親の実家に行くとWi-Fiがないどころかネット環境が無いみたいな感じである。


「ほら、この見たことない字の方が俺の世界の文字で…白・崎・宗・司…な。ってもサイン用に崩して書いてるから正しい字ではないけどあんまり気にすんな。んでこっちが普通のソウジ・シラサキ」


「よっしゃー‼ マジありがとうソウジ兄ちゃん! 俺一生大事にするわ」


後日、俺の所にリーダが来たので何かと思ったら『先日は妻や子供達の店で買い物をしてくださっただけでなく、サインまで書いてくださったようで…本当にありがとうございます』と言われた。つまりはそういうことだったらしいく、わざわざ120人分の履歴書の中からアーデルさんの名前を探さずに済んだ。


「それで、一体お主はここに何を買いに来たのじゃ? まさかサインを書きに来たわけでもなかろう?」


「あっぶな、色々あったせいで忘れるところだったわ。……なあ、ちょっと見せてもらってもいいか?」


俺は商品として並んでいるアクセサリー類を指さしながらそう言うと、ルナは不思議そうな顔で


「あの、ここに並んでいるものは全て私が練習の為に作ったものの中から売り物になるものだけを選んで置いてるだけなので、もし誰かへのお土産やプレゼントでしたらお母さんの方で買った方がいいと思いますよ」


「誰が作りおったもの、どこで売られておるもの、そんなくだらんことを一々気にするような者うちには一人もおらんよ。なんたってあの家の主が主じゃからのう」


「それにソウジ君は値段とかよりも自分が気に入ったデザインを重要視しがちだしね。そういうところを見ると親近感が沸くでしょ?」


それでも最近はリアに、『ご自分が身に着けるものに関しましては出来るだけ国王というお立場に合う物をお選びください』とか言われてるから気を付けるようにしてるんだけどな。


まあその後にミナが、『ですが何でもかんでも高いものを選べばいいというわけではありません。重要なのは値段ではなくデザインや質です』とも言っていたからここで買う分には大丈夫だろう。


ということで俺は一人どれにするか悩み始めるとマイカ達はルナと話をすることにしたらしく


「ねえねえ、これ全部ルナちゃんが作ったってことはやっぱりこっちの道に進むの?」


「はい、実は私達のお母さんは店長以外にもアクセサリー類のデザイから商品を作るまで何でもやっているんです。それで私もあんな風になりたいと思って今は修行中です」


「じゃが見た所二人は13歳くらいじゃし、ルナが一人前になったとしても母上はまだまだ現役であろう? となると後を継ぐわけにもいかんし、じゃからといって普通の店員として働くのはちと勿体なくないかの?」


13歳ってことはアリス達と同じくらいの年齢か。この世界でその歳なら普通に働き始める子達もいるくらいだけど、エレンはルナの所で店番なんかしてていいのか? いやまあこの間までバイトすらしたことがなかった半引きこもりに言われたくないだろうけど。


「私は母のお店みたいに高価なアクセサリーをというよりは気軽にオシャレを楽しんでもらえるような物を作りたいんです。なので最終的には私も自分のお店を持つのが夢です」


「日本でいう○℃みたいな感じか。確かにあのお店はデザインもそうだけど値段が若い子達向けの物が多いからそういう層に結構人気みたいだし、何よりこの国にはまだそういうお店がないから流行るんじゃないかな」


「それにはまずこの国の経済を安定させんといかんがの」


なんでマイカが○℃のことを知ってるんだよ。つか詳しくない? あと経済の話は俺の専門外だからするならセレスさんとやれ。


……やっぱこの花柄を大人向けデザインにした髪飾りが一番妥当かな。アクセサリー系だと俺が選ぶより自分で選んだ方がいいだろうし、ブローチとかだと服に合わせるのが大変そうだからな。


「なあ、この髪飾りの紐の部分をこれに変えることって出来るか? 出来ないならできないでそのままでもいんだけど」


「紐に関してはお客さんの好みもあるので変えられるようにしてありますが……この輪っかみたいなのはなんですか?」


「それはヘアゴムっていって名前の通り髪を結ぶためのゴムなんだけど、この世界にゴムってないんだっけか。ゴムっていうのはこんな風に伸び縮みするんだよ。んでその特性を活かして髪を結ぶ用に作られたのがヘアゴム」


そんな俺の説明を聞いたルナは試しに自分の髪の毛を結ぼうとしたのだが


「ぶははははは、お前髪の毛がグチャグチャになってるぞ」


「ちょっとそこまで笑わなくてもいいじゃない! エレンのバカ!」


「人の髪でも慣れるまでは結構難しいからな。自分で自分のをってなると更に難しいらしいからあんまり気にすんな。……ほら、一個やるからもしあれだったら家で練習でもしな」


ミナ達ですらまだ自分では結べてない…というかあいつらの場合は練習すらしようとしてないんだけどな。


それから少しするとルナがゴムに付け替えた物を三つ別々の袋に入れた状態で持ってきてくれたので俺は現金で支払いをし、みんなで食べれるようなお菓子をお土産に買い終えたので家に帰るためにサムールの前を通った瞬間…勢いよく扉が開いたかと思えばそこから出てきたナナは俺の腕を掴みながら


「待って、待って‼ ちょっと待ってソウジ様~!」


「随分と強引な客引きだな、おい。別に三時のおやつならもう買ったからいらねえぞ」


「違います! というかうちは客引きなんてしませんし、したこともありません」


数時間前に行われたあれは客引きと言わずになんと言うんだ? 俺達の姿を店内から確認した後速攻でこっちにきたのは知ってるんだぞ。……ティアに教えてもらったんだけど。


「じゃあなんだよ。お前もサインがほしいのか? 色紙ならまだ何枚か残ってるから書いてやってもいいぞ」


「えっ⁉ ホントですか?」


「えっ⁉ 冗談で言ったんだけど、マジでサインが欲しかったのか?」


「当たり前じゃないですか! 今この国で大人気の、そして今後も大人気であり続けるであろうお方のサインですよ! そんなの欲しいに決まってるじゃないですか‼」


いえ、全然欲しくありません。


「はぁ、今書けるのは二パターンだけだが…どれが欲しんだ?」


「全部‼」


確かナナってマイカと同い年だよな。思考がエレンと全く同じって大丈夫かよ。


「ナナもソウジ君にだけは言われたくないと思うよ」


「何時も思うんだけどさ、君達はどうやってティアみたいに俺の心を読んでるわけ? 軽くホラーなんだけど」


「女の勘というものは世界共通であり、それ以上でもそれ以下でもないのじゃよ」


いや、これに関しては勘とかいうレベルじゃねえだろ。普通にエスパーだって言われても信じるレベルだから。


「ほら、一応保護魔法もかけておいたから汚れから盗人まで何からでも守れるようにしといたぞ。こんなもん盗む奴なんていないだろうけど」


「ホントですか! じゃあ壁に貼り付けるんじゃなくてレジカウンターに飾ろっかな~」


確かにレジカウンターが広い割には何もなかったから飾る場所としては悪くないだろうけど、会計する度に自分のサインを見るとか絶対に嫌なんだけど。やっぱ返してもらうかな……。


結果:返してもらえなかったどころか後日ナナにソウジ・ヴァイスシュタインのサインまで要求された挙句、それら三枚は全てレジ横に飾られることになったとかなんとか。

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