第89話:初外食とお会計

あれから一応マイカのおすすめであったり、自称セレスさんの孫を名乗っている子が看板娘をやっているということなので大人しくサムールで昼飯を食うことにしたのだが……


「美味っ! 日本で食ってたレトルトのあさりパスタより百倍美味いんだけど。すげえな、ここの店長。流石はセレスさんの息子さんだわ」


「コンビニとやらに売っておったサンドイッチとは比べ物にならん程野菜が新鮮じゃったり、美味しいことには美味しいのじゃが…いかにも体に悪そうな味付けと違ごおて、これはシンプルなのに自分では作れない味付けなのがたまらんのじゃ!」


という感じで完全にこの店の虜にされただけでなく、普通にセレスさんの孫だということも信じていた。


「うちで使ってるお野菜や魚介類は全てその日に採れた物を使ってますから鮮度は抜群ですよ。レトルトが何かは分かりませんが、そのお陰で味も全然負けてないと思います」


「レトルト食品だとどうしても日持ちをさせるために作られてるから色々入ってたり、何より食材の新鮮さが全然足りないってことでリアーヌとエメさんが禁止したくらいだしね」


「その代わりに食いたい物を伝えれば基本どっちかが作ってくれるから別にいいんだけどな。たまに栄養が偏るから駄目って言われるけど」


まあ自分の為だけに別で作ってもらうのは申し訳ないのでそれをやるのは何が食べたいか聞かれた時だけにしているのだが、許可が出れば必ずレトルトや自分で作ったものとは比べ物にならないほど美味いものが出てくるので特に不満はない。


「エメ達はお主の世界のレシピを参考に、こっちのレシピと今までの経験を元に栄養面や味付けなどのことを考えつつ調理するようにしておるからのう。不満など言った日には泣かれるか、怒られるかの二択じゃろうな」


「俺が口に運ぼうとしたフォークを自分の口に運ぶついでに人の心を読んでるんじゃねえよ。あと俺は怒られるに百万賭けるわ」


「あさりの出汁の味を邪魔せんようにシンプルな味付けになっておるのがいいのう。ほれ、お返しにわらわのサンドイッチを一口食べてもよいぞ。……あと、お主はまだまだ女子の気持ちが分かっておらんの。といことで泣かれるに百万じゃ」


そう言いながらティアは自分が持っていたサンドイッチをこちらに差し出してきたのでそれを軽く押し戻しながら


「俺がパン嫌いなの知っててよくそんなセリフを言えたな、おい……。それと飯を作ってもらっておいて文句を言うやつは大抵自分では一切料理をしない口だけ人間。つまり俺には関係ないから答えは一生出ないだろうよ」


「何事もそうだけど、やらない・やったことがない人の方が偉そうなことを言いがちってやつだね。あと私もティアと同じ考えにプラスして、ソウジ君のいないところで悔しさのせいで泣くに百万円かな」


「………君達、それじゃあ俺がただのクズ野郎みたいに聞こえるからその話を今すぐ止めなさい」


「そもそも賭け云々の話はソウジ様から始まった気がするのですが……。あとパンが嫌いなら朝ごはんとかは何を食べてるんですか? この世界での主食はパンですので、そうなると食べるのものがなくなっちゃうと思うんですが。あっ、お父さん、デザートのフルーツ盛り四つお願い」


君、今サラッと追加注文したくれたけどその代金は誰が払うわけ? というかいい加減仕事に戻れよ。


「別にパンでもフレンチトーストとかにしてくれれば普通に食えるし、最近の朝飯は和食が多いから必然的に米が出てくるから別に困ってないな」


「それに日本の料理は主食のお米に合わせたおかずが多いから、毎日バランスの取れた食事を三食しっかり食べてもらえて嬉しいって喜ばれてるくらいだしね」


丁度マイカが喋り終わったところで店長がフルーツを四つ持ってやってきたので少し黙っていようかと思ったのだが、ティアは若干威圧的な声で


「それで、おぬし等は一体何が欲しいんじゃ? まあ聞かんでも答えは分かるがの」


「いや~、実は一昨日お客さんにちらし寿司を配ったら凄い好評でして、出来ればうちでも地球の料理を出したいなと。それで実は昨日のうちにマイカちゃんには相談したんですけど、『これに関してはソウジ君に直接聞いて』と言われちゃって……」


そういえば昨日の報告書にそんなことを言ってくる飲食店が出てくる可能性があるので今後どうするか考える必要があるってのがあったな。んで確かその報告書に関しては


・警備部によって作られた信用度を元にランク分けされた一覧表を参考にし、Sランク(信用度最上位)に入っている店にのみ一部レシピを公開(他店には絶対に教えないことが条件)、あとは各店独自の研究をさせる。メリットしては直接教わった異世界の料理を一部の店でしか味わえないことによって特別感が増す。ただし価格が高騰してはあれなので全て同じ値段(安め)にさせることが絶対条件である。


・もしくは全ての飲食店に一部レシピ(全て基本のみ)を公開し、あとは各店オリジナルの味付けなどを考えさせる。メリットしては平等さを保つことが出来る代わりに他国にまで広まってしまう可能性がある。というか確実に広まる、つか絶対にレシピを売り出す奴が出てくる。つまりこの案は個人的には却下。


って案を出しておいたから後で会議なりなんなりで今後の方針は決まるんだろうけど、これを馬鹿正直に言うわけにもいかねえしな。


「う~ん、取り敢えず今までの行いを振り返って何か悪いことをしてたなら諦めな。ってことでご馳走様」


そう言いながら立ち上がったことでナナは少し不満そうにしながらもこちらの事情を察してくれたらしく、大人しくレジへと向かったので俺はポケットから財布を出そうとした瞬間マイカが


「ソウジ君の分は私が奢ってあげるからいいよ」


「いや、別にこれくらい俺がまとめて払う…というか周りの人の目が痛いから払わせてくれると助かるんですけど」


というのも俺より先にマイカが財布をカバンから出した瞬間、凄い勢いで周りから『あいつ男のクセして女に払わせるのかよ』とか『仮にも王様になろうとしてる人が普通自分の部下に奢らせる?』みたいな雰囲気が流れ始めた、というか小声でそう言った会話が実際に聞こえていたりもする。


「あんなわらわ達のことを何も知らんくせに勝手な憶測やくだらん価値観を押し付けてくるような者達の声など一々気にするでない。ああいう者達はそうやって自分を正当化したり優越感に浸りだけじゃからのう」


「あの~ティア様、いくら事実とはいえですね…ワザと聞こえるように大きい声で喋られますとご不快に思われるお客さんもいますので……」


お前も十分デカい声で喋ってるけどな。絶対ワザとだろうけど。


「それに男の子が女の子にご飯を奢るのが当たり前っていう風潮の中、その逆を堂々とやるってことはそれだけ私は貴方のことを大切に想ってますよっていう新しい表現方法になったりもするしね」


そんな『―――は服や化粧にお金が掛かってるんだから―――がご飯を奢るのは当たり前でしょ?』とかふざけたことを抜かしている全―――に聞かせてやりたい程素晴らしいお言葉を口にしたマイカ様はそのまま会計を済ませた。


その後、地球のレシピに関しては一つ目の案が採用され、Sランクに入っている飲食店はサムールだけだったため売り上げは更に伸びただけでなく、マイカのお陰で交互に奢りあいをするカップル客が急激に増えたとかなんとか。






「この後はどうするんじゃ?」


「さっき気になる店があったからそこに寄ってから帰る。ってことで先に帰ってていいぞ」


そう言うと二人は再び例の目をこちらに向けてきたので俺はそれをついてくるという風に解釈し、さっきと同じように一人先に歩き始めると、『突然無言で歩きだすな』だの『歩くのが早くなっている』だの文句を言われたが相変わらず視線の意味が分からないせいで若干イライラしていた俺は全部無視した。


それから俺達はさっき行ったジュエリーショップに向かって歩き続け、それの少し手前にある露店…というか小さいテントの前で止まるとそこの店番らしき男の子がこちらに気付いた瞬間凄い勢いで立ち上がり


「えっ? えっ⁉ ………うおおおおお‼ スッゲェ、本物のソウジ兄ちゃんだ!」


「ちょっとエレン、店番中は大人しくしててって何時も言ってるで………」


などと若干お怒り気味で店の奥から出てきた女の子は俺達の姿を見た瞬間、何故か喜び出したエレン? とは違い顔を真っ青にさせながら固まってしまったので


「おい、なんかこの子顔色が悪いまま固まっちゃったけど大丈夫か? 悪いけど俺の回復魔法は緊急時以外は使えないぞ」


「そろそろこの反応にも飽きてきたのう。まあ今までお主が外を歩かんかったせいでもあるんじゃが」


そう言えば帰国した時にティアが街を歩いて国民と顔を合わせるようにしろって言ってたけど、こういう理由もあったのか。今後は散歩だけでもいいから外出するようにしようかな。

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