第87話:マイカにはバレている?

それから俺はエレーナと一緒に三人に似合いそうな指輪を三つ選び無事お会計となった時


「なあ、小切手ってどうやって使うんだ?」


「さっきまで店員の目を気にして駄々をこねておった者とは思えん質問じゃのう。もしわらわ達がついてきておらんかったらどうするつもりだったんじゃ?」


若干馬鹿にしているような感じで聞かれた俺は少しイラッときたため収納ボックスから何個か札束を出し


「別に冒険者ギルドに全額預けてるわけじゃないんだから何の問題もないっつうの。俺はカードと現金の両方を持ち歩く派なんだよ」


「はいはい、人前でそういうことしないの。早くしまいなさい。あと、そのお金は全部ソウジ君がクエストとかで稼いだものとはいえ無駄遣いしちゃダメだからね」


俺はそんなに子供じゃないし、自分で金の管理くらいできるっつうの。……でもこの札束は大人しくしまおう。


「昨日も思いましたがソウジ様って結構軽いと言いますか、周囲の方々も含めてちょっと変わってますよね。普通自分の上司に向かって『こらっ‼』とか言いませんし、挙句の果てには地面に正座させてお説教なんてしたらリアルに首が飛びかねませんよ」


「……俺が心優し~い上司で良かったな。マイカのお陰で素晴らしき国王(仮)が自分の部下に怒られるという惨めな姿を国民の皆様にお見せしてしまったというのにクビにしなかったのは勿論のこと、誰からも何のお咎めを受けずに済んだんだから」


昨日は緊急放送を切る前にマイカが来てしまったせいで俺が怒られれている姿は全て放送されていたのだが、家に帰ってもマイカは何も言われず逆に俺がミナ達に怒られたほどである。ちなみに説教内容は殆ど同じだったので尚更きつかった。


「うちはうち、他所はよそだからいいの。それより早くお会計しちゃった方がいいんじゃない? 今は人がいないけど、いつ来るか分からないんだし」


でたよ、『A君はお母さんにゲーム機を買ってもらったんだって。僕にも買ってよ』って言っても『うちはうち、他所はよそ』とか言って買ってくれないくせに『A君はこの間のテスト95点だったのに、なんであんたは50点なのよ』とか言い出す、な○う主人公もびっくりな超超超ご都合ワード。


当時はこの違和感に気付くことが出来るほどの知性がなかったせいで幼少期は多くの人達が苦しめられたことであろう。しかし今回の件に関してはマイカが全面的に正しいので当時とは違い完全理論武装状態の俺でも言い返すことが出来ないため大人しく会計をしよとすると


「ほれ、わらわが小切手に今回の支払額を書いておいてやったから後はこれをエレーナに渡すだけじゃ。そうすればこの店の誰かがギルドに行ってお主の口座からその額を回収するからのう」


「なるほど~、意外と簡単だな。………ん? なんか値段がおかしくねえか? 三つとも指輪のデザインは違う物を選んだとはいえ、だいたい値段が同じになるよにしたからザッと計算しただけだがこんなに高くなかったはずだぞ」


とはいえこっちは適当に計算しただけであり、もしかしたら俺の計算ミスかもしれないのでスマホの電卓を使おうとした瞬間、さっきまでティアとマイカの相手をしていたアデールさんが何かを乗せた黒い板を持ってきて


「ご注文の品はこちらの二つでお間違いなかったでしょうか?」


「うむ、間違いないのじゃ」


「はい、それでお願いします」


なんかよく分からないが取り敢えず気になったので見てみると、一つは上品ながらも嫌味っぽさが一切ない絶妙なデザインのネックレス。そしてもう一つは透明なガラス玉に色付けされているため可愛らしさが濃い目に出ているデザインなのだが、一緒に付いている小さい部品のお陰で上品さもある揺れるタイプの髪飾りらしき物だった。


「折角じゃからこのまま付けて帰りたいのじゃが、大丈夫かの?」


「はい、既にお支払いはソウジ様が済ませてくださいましたので、付けて帰られるのでしたらそちらの鏡をお使いください。その間にケースを袋に入れてしまいますので」


そう言うとアデールさんは店の奥へと消えていき、マイカはネックレスを自分の首に、そしてティアは自分の腰に巻いている帯の右側に付け始めた。


「確かに似ているとはいえ髪飾りを帯飾りとして使うってのはどうなんだ? ……じゃなくて、誰がお前らに買ってやるなんて言ったよ⁉ 値段がおかしいと思ったらその分じゃねえか!」


「ミナ達には指輪を買ってやるんじゃから、わらわ達にも何か買ってくれねば不公平じゃろうて」


「どこも不公平じゃねえよ。むしろ普通だよ。長生きしすぎて頭がボケてるんじゃねえか、おい」


鏡を見ながら帯飾りの位置を確認しているティアを無理やりこちらを向かせながらそう言うと、今度はマイカが上目遣いで


「でもこのネックレス…私に似合うと思わない?」


「思わない、全然思わない、一生思わない、死んでも思わない」


「本当は結構気に入ってるくせに、素直じゃないな~」


二人が勝手に選んで買ったアクセサリーのデザインについてだが、実はマイカの言う通り結構俺好みの物だったりする。しかもちゃんと自分達に合う物を選んでいるからタチが悪い。なのでここは大人しく諦めようかと考え始めた頃、アデールさんが店名が書かれた紙袋を二つ持ってきて


「これはこの店の店長としてではなく一国民としての意見ですが、自国の王様がご自分の大切に思っているであろう方とお買い物をしている時に、さり気なくその方が欲しがっていそうな物を買って差し上げている姿を見ると色々な意味で素敵な方だなと感じます。ですがなんでもかんでも買って差し上げるようでは相手の方は勿論、見ている方もあまりいい気がしませんので注意が必要です」


「そんなことをしておれば一緒にいる者はソウジの金目当てでデートをしておると思われるだけじゃし、そんな者と一緒におるこやつは人を見る目がないと思われるからのう」


いつから俺はお前らとデートをしてることになったんだ、おい。これがバレたら間違いなくミナ達が拗ねるやつだぞ。


「それに私達は誰彼構わずおねだりするような女じゃないしね。こんなことをお願いするのはソウジ君だけだよ♪」


「なにそのこんだけ都合のいい男はお前だけだ、みたいなセリフ。もう今度から出掛ける時はお前ら二人がついてきていないことを確認しながら歩くことにするわ」


「「………………」」


何故か俺の言葉を聞いたティアとマイカは何時ぞやの、ダメだこいつみたいな目を向けてきたが俺はそれを無視して店を出ることにした。


「それじゃあ名前とかの文字入れが終わったら家まで頼むわ。滅多のことがない限りは誰かしらいるはずだから」


「え~と、なんだかお二人の機嫌が少し悪くなったような気がするのですが、放っておいていいんですか?」


「人にネックレスだの髪飾りだのを買わせた挙句ご機嫌取りまでしろなんてごめんだね。ってことで俺は適当に昼飯食って帰るから、あとはよろしく」


そう言い俺は一人で出口に向かうと後ろの方でアデールさんがティア達と何やら小声で話している声が聞こえてきたが全部無視し、別の店員がドアを開けてくれたので一礼してから外に出た。






それから俺は折角外に出てきたのだから屋台か何かで昼飯でも買って城の屋根の上でそれを食おうかなと思い、一人適当に歩いていると……どうやらあの後すぐに店を出てきていたらしい二人が俺の横に来たので


「人にあんな目を向けておいてまだついてくるとはどういう神経してんだ? 今度は飯でも奢れってか?」


「どうせ真面に店の場所も知らんで歩いておったくせに、素直じゃないのう」


「チッ、確かにそのネックレスと帯飾りは俺好で二人とも似合ってるからプレゼントしてやるし、若干どこに行こうか迷ってたところにお前らが来て安心したけど、絶対に飯は奢らねえからな」


これは別に俺がケチとかいうわけではなく、人がプレゼントを買ってやったのに謎の視線を向けられたこと、そして何よりあれの意味が分からないことにイライラしているからだ。まあつまり……


「相変わらず子供よの~」


「でもこういう方面の子供っぽいところを出すなんて初めてじゃない?」


多分だけどマイカには俺の知られたくないと思っていることを、いや…それ以上に自分自身では気付いていない部分まで知られている可能性があるぞ。


「おいマイカ、どこまで俺のことが見えてるのか知らねえけど、誰にも言うなよ」


「そんなこと言われなくてもしないって。だってこれは私が何とかしてあげるんだもん♪」


俺は忠告の意味を込めてワザと脅す感じで言ったのだが、何故か凄く嬉しそうに返されてしまい今の自分の気持ちとごっちゃになってよく分からなくなってしまった。

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