第83話:孤児院への不満
宣言通り昼過ぎに起きようと思ったのだが残念ながら十一時過ぎに目が覚めてしまった俺はそのまま遅めの朝ご飯を食べ、リアに入れてもらった紅茶を飲んでいると丁度マイカ達孤児院組がちらし寿司を届けに行くと言うので着いて行くことにした。
といっても俺以外の五人は孤児院の子達と一緒にお昼を食べるようなので、さっき朝ご飯を食べたばかりの俺はここの院長さんと話をすることにした。
「別に院長さんも一緒にお昼を食べてきてもいんですよ。マイカ達を迎えにくるついでにまた来ますし」
「実はまだお昼ご飯の準備中でして、今はソウジ様が持ってきてくださったちらし寿司を先にみんなで食べてる感じですので大丈夫ですよ。何時もはちゃんとご飯が揃うまで待てるのですが、どうも今日は我慢できなかったみたいで」
元々ちらし寿司っていうのは見た目が綺麗な料理だけどリアとエメさんが作ったのを参考に俺が魔法で量産しまくっただけあって中々の出来だったからな。初めて見る料理という点も含めれば我慢できないのも仕方ないだろう。
ちなみにどうやって魔法でちらし寿司を量産したかというと、必要な量の材料をテーブルの上に置いて後は手本をイメージしながら頭の中で念じたら勝手に完成していた。なのでこの魔法を使えば何でも材料さえあれば簡単に作れるんじゃね? と思ったのだが、どうやらこの魔法は作り方が分からないと使えないらしく適当にこちらの料理を作ろうとしたが失敗した。
「今回は国民全員分を用意しなければいけなかったので一人ずつの量が少なくなってしまって申し訳ないですが、気に入ってくれてるようなら良かったです」
「いえいえ、陛下がこの国に来てくださってからは孤児院の運営もかなり楽になりましたし、何より毎日子供達にお腹一杯になるまでご飯を食べさせてあげられるようになったことが本当に嬉しくて…ソウジ様には感謝してもしきれません」
そんな泣かなくても…と言いたいところだが、俺が初めてここに来た時は想像以上に酷かったからな。よくこんな状況でも孤児を見つけてはここに連れてきて責任持って世話をしていたものだと感心したほどだ。
「感謝という点ではこちらも同じですよ。マイカにはこの国の宰相と並行して俺の秘書として仕事をしてもらっていますし、アリス・サラ・エレナ・リーザの四人はまだまだ子供なのにうちのメイドとして家事を全てやってもらってるんですが、メイド長やメイド教育係の者が凄く褒めていましたよ。あの子達を育ててくださった方の教育のお陰かみんな良い子で助かってるって」
「そんなとんでもない。仕方なかったとはいえ、どうしても職員の人数が足りなかったせいであまり面倒を見てあげられませんでしたから、元からあの子達が良い子だっただけですよ」
「職員の件ですが、一応こちらで何人か紹介することも出来ますがどうします?」
まあこれに関しては誰でもいいわけではないので完全にマリノ王国経由での紹介になるんだけど、そこら辺は婚約のこととかで言えないので決して自分の株を上げようとかではない。……ホントだよ。
「それに関してなのですが、実は少し前にミナ様からもお話をいただいておりまして…その」
「紹介するのは全員信頼出来る人物であることは私達が保証いたしますよ。こちら側としても国内に変な虫が入り込まれるのは嫌ですし、何よりここは私の物ですから…というと言い方が悪いですが安心は出来ますでしょ?」
「いえ、ここが国の物でなくソウジ様の私物になったお陰で私達は凄く助かっていますので、言い方が悪いなんて言わないでください。………失礼を承知でお聞きしますが、紹介してくださった方々にここで働いてもらうかどうかを私達が決めてもよろしいでしょうか?」
う~ん、まあこの仕事は他の仕事と違って子供達をちゃんと育てなきゃいけないという責任があるわけだし、何より子供達との相性も重要になってくるだろうから院長さんの気持ちは分かる。……まっ、もし不採用の人がいたとしても断るのは俺じゃなくてブノワの親父とかだろうしそこら辺は上手くやってもらおう。
「いいですよ、将来この国を担う子供達を育てるのも私達の仕事ですから。ついでですし他に何か困ってることがあるようでしたら聞きますよ。すぐに解決できるようでしたら今やっちゃいますし」
そう言うと院長さんは言うかどうか悩んでいるような素振りを見せた後、近くにある本棚から一冊の大学ノートを出してきて
「これは少し前…アベルさんが初めてうちに来た時に、何か問題があった際は全てこのノートにメモっておけば後でソウジ様がなんとかしてくれるからと言われまして……」
また勝手なことを。しかも初めてアベルがここに来た時ってことはまだ通販を使えなかったはずだから仕事部屋に置いといた大学ノートをパクりやがったな。別に三年の時に授業用に買ったけど使わないで余ったやつだからいいんだけど。
「中を見ても?」
「はい……」
やはり院長さん的には気が進まないようでどこか申し訳なさそうな顔をしながら返事をしてきた。
さてさて、何が書いてあるんですかね~。
ノートの中身を全て確認した俺は今からとあることをするために一人孤児院の屋上へと来ていた。
「久々にみんなでご飯を食べてるであろうマイカ達の邪魔をしないよう孤児院にだけ防音魔法をかけてと……。スクリーンの場所は面倒だからこの国を乗っ取る時に出した場所と同じでいいか。あの時と違って今日は一人だからカメラマンがいないけど」
なんとなく独り言を喋りながら準備を進めていき、それらが全て揃ったのを確認した俺は最後に撮影魔法を発動させ
「あーあ、え~、私の国では三月三日というのは女の子の健やかな成長を祈る日ということで……、(やっぱ説明するの面倒くせえな) まあ簡単に言うと女の子の為のお祭りの日なので今日はひな祭りの際に振る舞われるちらし寿司を皆様にも食べていただこうかと―――でちょっとしたお祭り気分のところ大変申し訳ないのですがどうやら一部の国民の方々から孤児院に対するご不満があるようでしたのでそれらについて国王(仮)である私が今から答えさせていただこうかと思います」
ひな祭りの説明がちょっと雑だったけどまあいいでしょう。……今度日本の主な行事集とかいう本でも出そうかな。少なくともそれを最大限に活かしたいであろう商業関係者には売れそうだし。
「ということで早速一つ目のご不満から。え~、孤児院のくせして建物が立派すぎる。というか明らかに家より延べ床面積が広いのがムカつく。まあこの孤児院は私が四階建て+屋上に作り直しましたからね、そりゃ~あ広くもなりますよ。ということでムカつくのでしたらご自分のお金でどうにかしてください」
「はい、では次のご不満にいかせていただきます……。なになに、孤児院で暮らしてる子達が毎日新しい服を着ているのが気に食わない。私はいくらママに頼んでも買ってもらえないのに。服に関しては取り敢えず今の季節に合う物を人数分×三着ずつ私が買いました。孤児院の子達だから気に食わないとのことでしたら貴方はクズです、ゴミです、人間失格です。以上」
「次のご不満、何やら孤児院には洗濯を楽に行える魔法の箱をソウジ様から頂いたようだがそれはズルいと思う……。言い忘れておりましたがこの孤児院は私がここに来た時から私の私物にしました。つまり皆様の税金は一切使われておりませんので洗濯機が欲しいのであれば一台一億円でお売りいたします。欲しい方は宮殿までお越しください。まあ洗濯機だけでは使い物になりませんので毎月プラス料金が発生致します。一ヵ月五百万円くらいですかね。あっ、洗濯機に関しましては全て異世界の技術が使われていますので解析されないよう厳重に結界を張らせていただきますがご了承ください」
「はい次のご不満、孤児院には掃除を楽に行える変わった形の棒をソウジ様から頂いたようだがズルい。これはさっきの説明と同じですね。ということで値段は一台五千万円の毎月のプラス料金は二百万でいいですよ。まあそんな異世界の技術を一般家庭に持ち込もうものなら命を狙われる可能性が格段に上がりそうですが全て自己責任でお願いします。また転売が行われた場合は自動的にこの世界から消えますのでご注意を」
じゃあ孤児院も危ないじゃんと思われそうだが建物自体に結界を張っているのは勿論のこと、ここの住民に対して何か悪さをしようとしている相手には一切認識されない、認識阻害魔法を全員にかけているので安心である。
それからもいくつか孤児院への不満に対して答えていき、ようやく最後のものになった。
「元孤児院の奴らがただただ運が良かっただけなのに王宮で雇ってもらえて、しかも快適な暮らしをしているのがムカつく。底辺は底辺に相応しい生活をしていればいいのに。………おい、お前の居場所は既に特定したから大人しくそこにいろよ。俺の気が済むまで殴った後にこの国から永久追放してや、痛っ⁉」
喋っている途中で後ろから思いっきり頭を叩かれたので誰だよとか思いながら振り返ってみると
「私達のことで怒ってくれるのは嬉しいけど、これから王様になろうとしてる人がそんなこと言っちゃダメでしょ‼」
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