第69話:宗司の隠し事

それからも少しだけ二人の言い合いが続いた後、何気ない感じでお母さんが


「取り敢えず、これからは私達も出来るだけソウジには普通の母親のように接してあげられるよう努力するから貴方も本当のお母様と同じように接してくれると嬉しいわ」


「まあ私に関してはほぼ完璧だけどね~♪」


普通の母親ねえ。それがどんな人なのか俺は知らないけど、間違いなく母さんみたいな人は珍しいだろうな。……でも、悪くない。


「母親のようにということは、お父様達はソウジ様に対して今までと変わらずということでしょうか?」


「その言い方だと何だか冷たい人間のように思われそうだから止めてくれ。別に私達だって息子のことは本当の子供のように扱おうとしているし、現にしている。その証拠にこれからお昼をご馳走になった後は緊急の大仕事だ」


「私も陛下と考えは同じですが、やはり私達は国のトップ同士として今後も話し合いをすることが多いでしょうしアンヌさん達のようにはいかないんですよ」


確かにこの二人とは今後も一緒に仕事をすることはあるだろうし、何かしらの交渉をすることもあると思う。その時は義理の親子だろうとお互い自国の為に甘えは許されないのだから普段から馴れ合っているよりはある程度距離を持って接する方がいいだろう。


などと考えていると、再びミナが振り返ってきたかと思えば今度は何故か俺の口元を見つめながら


「話は変わるのですが、ソウジ様の前歯って一本だけ裏側に何かくっ付いてますよね? それにその部分だけ色が少し濃い目の白ですし」


「……やたらキスする時に俺の歯の裏を舐めてくると思ったらそういうことかよ」


「最初は偶々当たってしまっただけだったのですが、何かでくっ付けられているようだったので……つい気になってしまいまして」


たまに俺の歯の裏を舐めてくるからちょっと気になってはいたんだけど、そういうことか。


「昔自分の父親と喧嘩になった時に殴られて歯が欠けたんだよ。んで、歯医者に行ってその部分に偽物の歯みたいなやつをくっ付けてもらったから一ヵ所だけ違うんだよ」


「私は騎士団長のアシルですら流石に自分の息子に歯が欠けるような暴力を振るったなんてことは聞いたことがないのだが、日本の父親はそんなに厳しいものなのか?」


「昔は日本人が恐れている物のランキング第四位に入るくらい厳しかったらしいけど今時そんな父親はいないだろ。歯が欠けたのは偶々だよ、偶々」


そう俺が言った後、タイミングを見図っていたらしいエメさんがお昼ご飯の準備が出来たことを伝えてきた為ミナを元に戻し、居間にいた人達は二人を除いてリビングへと移動し始めた。そう、俺の肩に触れているティアと、そのせいで動けない俺を除いて。


「………今のわらわですらお主の心が読めむということは、無意識にそれだけをブロックしておるということかのう?」


「知るかそんなこと。つか早く離せ、俺は昼飯が食いたいんだ」


「お主、自分の父上の話をしておる時……いや、レミア達が普通の母親のようにという当たりから何やら隠しておったじゃろ?」


「俺と毎日一緒にいるミナやリア、セリアは勿論のこと、俺の子供っぽさを瞬時に見抜いた母さん達でさえ何も言って来なかったんだから…お前の気のせいだろ」


「さっきも言ったがお主は本当に隠したいことがあると上手くそれを隠しおるからのう。……それにあれは一朝一夕で身に着けたものではなく、何十年と掛けて出来るようになったもの。しかもそれは王族の目すら欺くほどの完成度。一体何を隠しておるんじゃ?」


こいつの理論でいくとリアル王族の目すら欺いた俺の隠し事に気付いたってことになるんだが。しかも年の功がなせる業だと言われたところでティアはたかだか420歳。少なくともお母さんは人間の筈だから軽く見積もってもガチの800歳越えであり、ティアの倍以上は生きていることになるのでそれはおかしい。


「おい、どうせ今俺が考えてたことも伝わってるんだろ? 早く説明してくれよ」


「質問に質問をするということはわらわの考えていることは当たっておるということでよいのかの?」


「おいおい、質問に質問をするなよ。お前こそ実は年齢をサバ読んでて、それを誤魔化したいのか?」


正直これに関しては答えを教えてやる気はないのでティアが諦めるまで白を切り通そうかと思った瞬間、いつの間にかエメさんが近付いてきていたようで


「あの、旦那様…少々よろしいでしょうか?」


「はい、どうしました?」


「一応アベル様の分もお昼をご用意致しましたので、旦那様がお許しになるのでしたら差し入れをと思いまして」


あ~、そういえばアベルは一人で朝から新しく作った訓練所で24時間サバイバル訓練中(使用テスト)だっけ。完全に忘れてたわ。


「どうする? 一応サバイバル訓練だから食べ物も自力でってことにしてたけど」


「折角エメ達が作ったのじゃし、別にお昼くらい良かろう。そろそろ色々と限界がきておるかもしれんしこれで息抜きも出来るじゃろう」


まあ今回の設定は(場所:森の中、難易度:Sランク)だからな。ちなみに難易度に関しては冒険者ギルドのランクを基準にしている為その難易度に合わせたモンスターがランダムに出現するようになっている。つまり運が悪ければドラゴンが出てくるし、それが一回とは限らないのだ。


あっ、倒したモンスターは食べられる物なら食料としてドロップするようになっているので問題ない。仕組み? そんなの俺も知らねえよ。なんか建物を建てる時に必要な材料が無限なのと一緒で食料も無限っぽかったから、そこから訓練場のシステムが反応して出てるんじゃね?


ということで俺は訓練場にいるアベルの元へエメさんが持っているバスケットだけを送ろうとすると、まだ俺の肩を掴んでいたティアが


「エメのことはわらわが連れて行くからお主は先に座って待っておれ」


「はあ? いや、普通に荷物だけ送ればいいだ………………っテッメエ!」


突然自分の視界が低くなったことに一瞬驚いたもののすぐに状況を理解し文句を言ってやろうとした瞬間、誰かに抱き上げられたので後ろを向くと…少し呆れ顔のセリアが


「はいはい、ソウジは大人しく座って二人が帰ってくるのを待ってましょうねえ~」


「おいおい、どんだけ小さくしてくれたんだよ…っていねえし」


どうやら俺が後ろを向いている間にティアはエメさんを連れて行ったらしく二人ともいなくなっていた。しかもリビングの方では小さくなった俺の為に子供用の椅子やら、食器類にせっせと変えているミナ・リア・マイカが見える。


そして、俺の小さくなった姿を見て集まってきた子供達が『自分にも抱っこさせてと』言う未来も見える。こりゃー多分小一かそれ以下まで身長を縮めやがったな。






それから、二人が帰ってくるまで大人しく子供達に抱っこされたりしながら時間を潰し、ようやくお昼ご飯となった。ちなみに今日の俺の隣の席に座っているのはティアとセリアである。初めての夜ご飯の時、誰が俺の隣に座るかで揉めた為一部の子達で順番を作らせたのだが、何故かそこにティアとマイカも入っていたりする。


「この部屋に入ってきた時から匂いでホットケーキっていうのは分かってたけど、俺がミナ達に作ってやったやつとは大違いだな」


というのも今日のお昼ご飯は普通のホットケーキではなくアイスとか果物が乗っていたり、それにベリーソースっぽいのがかかっていたりするのだ。あと、ナイフを使いながら食べるのが苦手な俺の為に子供達の分と一緒に自分の分も最初から切られてるのはポイント高い。


「生地を焼いたり飾りつけなんかをしたのはエメとアンヌだけれど、そのソースはリアーヌに教えてもらいながら子供達が作ったのよ」


「お主もその一人じゃろうて……」


そんなティアのツッコミを無視し、一口食べてみると


「美味っ‼ 誰かのせいで口が小さくて食べにくいけど」


そんなティアに対する嫌味を言いつつも小さい口で気を付けながら食べていたのだが、どうしても何時もの感覚で食べようとしてしまう為何度か口に入らなった分が顔に当たってしまい


「ちょっと、口の周りがソースでベトベトじゃない。ほら、拭いてあげるから少し大人しくしてなさい」


「んあ? 自分で拭けるから―――んむ、むみょ、うんん」


まさか子供にまで子供扱いされる日がくるとは。今回はセリアだから良かったけど、これがアリス達だったらちょっと立ち直れなかったかもしれん。

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