第63話:緊急会議開始

あれから俺は本当に後ろを振り向かずに会議室まで歩いてきたせいでミナとマイカ以外は誰が着いてきているのか分からないため確認の為に振り返り


今回会議に参加するのは……うちの国からは俺・ミナ・マイカ、ギルドからはクロエ、マリノ王国からはブノワの親父とレオンの親父か。


「みんな好きな所に座ってくれ。あと、メモとか議事録は机の上に置いてある紙とペンでどうぞ」


そう言うと皆大人しく席へ着き、地球の物を見ても特に驚く様子もなく会議の準備を始めたので恐らく俺がいない間に何回か会議かなんかで使ったのだろう。一々説明をしなくて済むのは楽で助かる。


そんなことを考えながら俺も壁の中に収納していた大型テレビを手前に出したり、自分のPC等を用意し


「んんっ、本日はお忙しい中私の呼び出しに応じていただき誠にありがとうございます。僭越ながら今回の会議は私が中心で進めさせていただきますので、多少の不手際などは目を瞑ってくださると助かります」


「ミナ、あの人誰? 私の知ってるソウジ君は会議前にいつも『面倒くせぇ~』って言ってる人であって、こんな真面目な人じゃないんだけど」


「そういえばマイカさんは一度もこっちのソウジ様を見たことはありませんでしたね。……あれは主に外交の時の態度と言いますか、超真面目モード時のソウジ様って感じですかね」


「えっ⁉ あれって陛下のおふざけじゃないんですか? 私はてっきりこの前ティア様とうちに来た時みたいに私を揶揄っているのかと……」


流石に今日の議題はいつもみたいにダラ~っと会議を始めるような物じゃないと思って真面目にやれば一言目でこれかよ。


「ソウジ殿はあまりこういう場には慣れていないでしょうし、別に普段通りの喋り方でも構いませんよ」


「前回みたいに突然我慢の限界がきて爆発されても困るしな」


あれは今まで背負ったことのない責任とか緊張があったからで、敬語を使うことによってストレスが溜まったり、泣いたりはしねえよ。あと、その自分の子供の成長を見守るみたいな顔やめろ。


ムカついてきたからこのまま進めよ。


「……今回牢獄付近で起こった爆発事件に関しては既に知っていると思いますので説明を省こうかと思うのですが、問題ないでしょうか?」


そう聞くと微笑ましそうな顔をしている子と、ニヤニヤしている子の二人がいる以外特に問題はなかったので俺は話を進めることにした。


「では、まずはこちらの画面をご覧ください。……この画像は爆発が起こる前、つまり元国王や貴族が収監されていた時の物を図で表したものです。この図を見て分かるように私は牢獄の周りに外からは侵入不可の、そして中からは脱走不可の結界を張っていました。あと、自分で言うのもあれですがあの結界を破壊するなど私以外には絶対に無理でしょうね」


まあルナとあいつなら余裕で出来るだろうけど、あれは例外だ。


「息子よ、話の途中で悪いのだが、幾つか質問をしてもいいかな?」


後でまとめて質問を受け付けるより分からないことがあればすぐに答えた方がいいだろうと思い、質問を許可すると早速ブノワの親父は


「まず、牢獄の内部構造はどのようなものになっていたのだ? これが一部屋ずつ分かれていたのか、それとも一つの大部屋だったのかなどでかなり変わってくると思うのだが」


「牢獄内に関しましては前者ですね。実際彼らがどのような部屋割りで使っていたかまでは私も知りませんが」


「では次に、その牢獄から外に出ることは出来たのか?」


「はい、別に牢獄から出たところで私が張った結界がありますので、それに関しましては当人らが自由に出入り出来るようにしていましたよ。まあそれが今回の失敗の一つでもありますが」


そう言うとブノワの親父は納得したらしく一度頷き、他の人達から追加の質問もなかったので次に俺は爆発が起こった当時の映像を流すと……それを見たクロエが


「えっ⁉ なんで誰もいないところで突然爆発が起こったんですか? 私はてっきり数人がかりで何かしらの魔法を使ったのかと思っていたのですが」


「では先程の映像に特殊な加工を施した物をご覧ください」


そう言いもう一度同じ映像を流すと今度は一人の女性が映し出され、そいつが結界の前で何やら作業を行ったかと思えばそれも数分のこと。それからすぐに爆発が起こった。


「さて、これを見て分かる通りこの女性は透明になれる魔法か何かを使っていたことが分かりますが、そんなことはどうでもよく問題は結界の前に設置されたこの四角い箱です」


「いや、私達としてはソウジ殿に掛かれば隠密行動が意味をなさないのは勿論、記録まで残せることの方が問題なのですけど」


「でもそのおかげでこの国での犯罪率は格段に下がっているっていうデータも出始めてるんですよ。まあ警備室側が先に情報を入手してそれを未然に防いでいるだけであって、ソウジ君のおかげで国民の意識が変わったとかではないんですけど」


そういえばそんな報告書が上がってたな。数は少ないくせして一つ一つの文字数が多いからパラパラっとしか読んでないけど。今日の夜…は無理そうだから明日ちゃんと確認して次の日に会議が必要そうならやるか。


まあミナ達が何も言ってこないってことは急ぎの件ではないんだろうけど。


「ですが既に他国とは比べ物にならないほどの治安の良さを維持していますし、あとは犯罪者に対する処罰等をどうするかを決めるのが重要かと」


「日本人の犯罪に関する考えはかなり厳しめだと聞いてはいたが、少し厳しすぎるのではないか? あんまりあれだとその内シワ寄せがくるぞ」


「犯罪者や盗賊の数より法律を守って暮らしてる人が多いのはどこの世界も同じこと。それなのにワザワザ前者の奴らのストレス解消などの為に後者の人達が被害を被るのはナンセンス。世界は広いですからね……」


一体ここにいる何人が最後の言葉の意味を理解出来たのかは知らないが、少なくとも親父二人は俺の考えに気付いたらしく、かなり真面目な顔で


「ちなみにソウジ殿が我が国と正式に同盟を結んだ場合、どのくらいの技術提供をしていただけると考えればよいのでしょうか」


「あまり母国の宰相にこういうことは言いたくありませんが…いくら同盟を組んでいるとはいえ技術提供等は提供される側が同レベルのものや金額を提示して初めて交渉が行われるもの。……あとは言わなくても分かりますね?」


お~、こわっ。前回よりはティアとの修行のお陰もあって耐えられそうだけど、あんまり長引くとストレスが溜まるから早く話を戻したいな~、なんて。


「たった二週間で息子殿をここまでに仕上げてくるとは、あのティアという娘も油断出来ないな」


多分だがブノワの親父は俺の考え方が一般人、しかも平和ボケの日本人のものから一国の王としてのものに変わりつつあることを言っているのだろう。


まあこれに関しては自覚しているし、今までの考え方も忘れないよう周りの人達にも協力してもらいながら気を付けていたりはする。じゃないと最悪どっかの誰かと同じ道を辿ることになるからな。


ということで、そろそろ俺の今の考えを伝えて話を戻すか。


「ミナの言っていることが正しいのは勿論のこと、貴方達が欲しがっているであろう技術をそちらの国でも使いたいのであればかなりの国内整備や自衛能力が必要になりますよ。犯罪者には犯罪者なりに罪を犯す、便利すぎる力にはそれなりのありますからねえ」


「なるほど、少し私達は目先の利益ばかりに考えがいっていたようですね。長年宰相をやっていながらお恥ずかしい」


まあ今回の件に関しては一概にレオンの親父が悪いとは言えないけどな。誰だって自分の常識を軽く超える技術や力があればそちらにばかり考えが引っ張られるのはよくあることだし。……なんて地球の技術を元に作ったシステムをドヤ顔で使ってるだけの俺が言えることじゃないけど。

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