第62話:子供達の疑問

などと昨夜のことを思い出していると、突然ブノワの親父がワザとらしく一回咳ばらいをし


「そろそろ部屋に案内してほしいのだが」


「この家の主に挨拶もせずに子供達と遊んでた奴がよく言うぜ。ついでに俺にもお小遣いくれよ」


「ソウジ殿は私達家族にとって一番大事なものを貰っていかれたのですから、これ以上お渡しするものは何もありませんよ」


レオンの親父はシラサキ様からソウジ殿に呼び方を変えたってことは俺達の関係を認めてくれてってことでいいのか? まあ駄目って言われても無視するけど。


「逆に今度は私達がソウ君から色々貰う番よね~。孫の顔とか」


「そんな早く見たいな~、みたいな顔されても無理なものは無理だ。こっちにも事情があるんだよ」


「そうね。たかだか一人相手に片腕を持っていかれたり、あんな無茶苦茶な戦い方をする子が一国の王だけでなく、それに加えて父親なんて早すぎよ」


そういえばここにいる四人は俺の左腕の件の映像とか全部見たんだっけ。……素人相手に厳しくありませんか、お母さん。


とか思っていると、どうやら子供達もこの話を聞いていたらしく


「ん? お兄ちゃんの腕はちゃんとありますよ」


「そういえば、何故最近のソウジ様は一日中手袋をしているのでしょうか? それも左手だけ」


「それに最近のソージ兄ぃってセリアのことは抱っこするのにうちらのことはしてくれなくなったよね」


「サキ兄ぃ、なんで?」


確かに最近は子供達と接する時は極力左手を使わないように気を付けてたし、そのせいで逆に不審がられても仕方ないか。


そう思いながらこの場をどう対処しようか考えいるとお母さんが


「子供っていうのはねえ、私達大人以上に周りの変化に敏感なの。貴方達的には隠しておきたいみたいだけれど、それによって実はこの子達にストレスを与えているってことに気付いてる?」


チッ、ワザと子供達の前であの話をしやがたな。


どうやら俺と同じ答えに辿り着いたらしいミナ・リア・アベル・セリア・マイカは難しい顔を、ティアとエメさん、それにセレスさんは俺達がどうするのかを見守っているっという感じの顔をしている。


「…………」


この城に住んでいる子供達四人以外は全員俺が義手を着けていることは知っているし、心配こそされど気持ち悪がられることなどは一切ない。しかし皆がみんなこの人達と同じ態度を取ってくれるとは限らない。


ティアや婆ちゃんには『別に俺は気にならないけど、他の人が全員気にならないわけじゃないだろ?』などと言ったがこれは半分本当であり半分嘘だ。


というのも半分は俺の左腕を見て相手が嫌な顔をするのを見たくない、というよりもそれで俺自身が傷つきたくないから。つまりは自己保身の為であり、そんな姿を誰かに見られるのが怖いのだ。


そんな風に一人で悩んでいるとミナが念話で俺に何かを伝えようとした瞬間、お母さんはそれを察し


「ミナ、貴方は少し黙ってなさい」


「ですが流石にこれは―――」


「これは! ソウジとこの子達のためでもあるのだから貴方は黙って見ていなさい」


俺のためっていうのは何となく分かるけど、子供達のためってどういうことだ? とか思っていると今度は母さんが


「ソウ君が今後書類仕事だけでなく戦闘面でも仕事をするってなれば怪我をして帰ってくる日もあるだろうし、その時にこの子達がちゃんとそれを受け入れられるかっていうのはメイドとしてはかなり重要になってくるしね。主とメイドの距離が近ければ近いほど」


この話を聞き少し悩んだ後、俺は子供達四人以外に念話を繋ぎ


(左腕の件をこの子達に教えてもいいがあの映像を見せるのは絶対になしだ。それでもいいなら理由を話す)


そう言うと誰からも反論は返ってこなかった。なのでゆっくりと左手に嵌めている手袋を外し、ついでに左腕だけ服から出して遠山の金さんみたいな恰好をしながら


「ちょっとこの間戦闘があってさ、まあ完全に俺の力不足が原因なんだけど左腕を斬り落とされて……この通りこれからはずっと義手なんだわ」


「………誰です?」


「アリス?」


「お兄ちゃんの腕を斬ったのは誰です?」


いつもの明るい声とは違い怒っているというか、憎しみが込められている感じの声でアリスがそう言ったのに続き


「ソージ兄ぃ、そいつら今どこにいるの?」


「サキ兄ぃ早く教えて」


「いやいやいや、君達そんな怖い顔して今から何しに行くつもりなのさ」


「ソウジ様をこんなににした人を殺しに行きます」


怖っ‼ 特に最後のエレナとかハッキリ殺すとか言ってたし。誰だよこんな教育した奴は。


「まさかこうなるとは予想外だったわね。誰がこんな風に教育したの? リアーヌとか?」


「お母様は私のことをなんだと思っているのですか? というか誰もこんなこと教えていませんし」


「じゃあ素でっことになるわね……。これは随分と頼もしい人材を見つけてきたものね、ミナ」


「何と言いますか、まさかここまでとは私も予想外でした」


どうやら俺以外の人達もかなり子供達の反応に驚いているようで、それぞれ色々な反応をしている中…その子達の目やらオーラやらがどんどん怖くなってきたので内心焦りながら


「残念ながら全員俺が殺したからもうこの世にはいないぞ。それに人のことを言えたもんじゃないけどアリス達はまだそんなに強くないだろ? だからあんまり無理しないでくれ」


それにこの子達の本業はメイドだし、何より危ないことには極力関わらないで欲しい。そういうのは俺だけで十分だ。


「私達としてはご主人様にもあまり無理をして欲しくなかったのですが」


「……マリノ王国側は誰が今回の会議に参加するんだ? 全員か?」


「いや、私とレオンの二人で頼む。あとこれは経験者としてのアドバイスだが、自分の妻が怒っている時に無視するのは逆効果だぞ」


うわホントだ、リアが凄いニコニコしてる。これ絶対後で怒られるやつだわ。


「助けてセリア~」


まるで青色の狸に助けを求めるかのようなノリでセリアを抱き上げると


「きゃっ⁉ 何よいきなり。ビックリするじゃない」


やっぱりか……。


「別にお前は何も悪くないんだから気にすんな。悪いのは俺が力不足だったから。ただそれだけだ」


「でもソウジがこうなった原因は―――」


「大体、元ボハニア国王の一人娘は俺が既に殺してるんだからこの世にあいつ等の関係者は一人もいないはずだぞ。新国王、ソウジ・シラサキの関係者ならいるけど」


そう、ボハニア王国の一人娘はもう既に死んでいる。つまり俺が今抱っこしているのはただの女の子なのだ。


どうやら言葉の意味を理解したらしいセリアは先程までの暗い顔とは一転、いつも通りの可愛らしく、そして見た目や年齢にそぐわない大人っぽさが混ざったセリアだからこそ出来る独特な表情に戻り


「私はただの関係者じゃなく貴方のお嫁さんよ♪」


「………息子よ、頑張るんだぞ」


何故かブノワの親父は俺に同情の眼差しを向けながら右肩に自分の手を置き、激励? をしてきた。


「そういえば当時の陛下は奥様…レミア様以外の女性も相手にするなんて無理だと言い出したせいで色々と苦労しましたねえ……。あの頃から我が国は様々な点で安定していたというのもあって尚更」


「それでもこの人の場合は長命種っていうのがあったから割かし楽だったでしょ? まあソウジが相手ともなれば寿命の件を出されてもそう簡単には引かないでしょうけど」


??? 最初は自分のお嫁さんの機嫌を取るのは一人でも大変だから頑張れよってことかと思ったんだが、……な~んか違うような。


「何時までもセリアを抱っこしておらんでさっさと会議を始めんか。ほれ、お主等も行く―――なんじゃ?」


俺が考えを巡らそうとした瞬間、まるでそれを阻止するかのようにティアがこの部屋のドアへ向かって人の背中を押してきたかと思えばそれもすぐに収まり


「ちょっと待ちなさい。確かあなたがティアよね?」


「確かにわらわはティアじゃが…なにか用かの?」


どうやらティアの肩を掴んで引き留めたのはお母さんらしく、そういえばこの組み合わせは初だよなあ…とか思っていたらそこに母さんも加わり


「ソウ君の教育方針についてティアちゃんとは一度話し合いたいと思ってたのよねぇ~。ということで貴方はここに残ってね」


なんだよ俺の教育方針についてって。別にティアは今回の会議にいてもいなくても、どっちでもいいから困らないけど。どうせ後で議事録を見せればいいだけだし。


そう考えた俺はセリアを床に降ろした後、後ろを一切振り向かずに会議室へと向かって歩き始めた。


何故かって? だって俺の教育方針に対して譲れない何かがあるのか知らないが、三人とも目が本気だったんだもん。あれは意見が食い違えば間違いなく荒れるね。そんな所に居続けるなんてまっぴらごめんである。

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