第37話:真面目なお話し
「それでお主…自分の体に何をしたんじゃ?」
「げほっ、ごほっ、ごほっ―――――」
いきなりそんなこと聞いてくんなよ。確かに真面目な質問がきそうだとは思っていたけれど、多分現時点で一番真面目な話だぞそれ。
お陰でご飯が器官に入ってきたじゃねーか。
「そこまであからさまに動揺せんでもよいじゃろ。ほれ、冷たいお茶じゃ。ゆっくり飲むんじゃぞ」
あ~、冷たくて美味しい。さっきはセリアを誤魔化す為に熱が上がるとか言ったけど、本当に上がってきたかも。
「その質問はついでで聞くような質問じゃないだろ」
「そうは言ってもお主にリアーヌの治癒魔法が効かなかった時点で答えは数個しかないんじゃから別に良いじゃろ。どうせ遅かれ早かれ聞かれておったじゃろうし」
「…………自分で自分に成長を止める魔法をかけた。それがちゃんと機能してるのかは確認しようがないからどうなってるのかは分からないけどな」
「やはりか……。お主、一体自分が何をしたのかちゃんと分かっておるのか? それはつまり不老になったということ。つまり今後は人間として生きながら普通の人間とは違う時間を生き続けるということじゃぞ」
それはちゃんと分かっている。今は成長を一時的に止めているだけでそれを止めれば再び成長はするが、結局止めていた時間の分他の人達より長生きするということも。つまりそれをしてしまったことにより、もう俺は普通の人間ではなくなってしまったのだ。
「でもこうしないとミナやリアとは寿命が違いすぎる。俺だけ老けていくのに二人は若いままとか、先に一人だけ死ぬとか嫌だし」
「じゃがお主がしたことは問題を先送りにしただけじゃぞ。あの二人の寿命に合わせて魔法を解いたとしても結局お主は老けてゆく。それが嫌だからと魔法を使い続ければお主だけがこの世に残る……」
「最後は自殺っていうのも嫌だな。まあ人間が何百年も生き続けたら人生に飽きて死にたくなるのもしれないけど」
「そもそもあやつらとお主では時間の経過速度の感覚が違うのじゃからそういう問題も出てきよる。それに一番の問題はセリアをどうするかじゃ。あやつも普通の人間じゃからこれからも変わらず成長していくしゆく。つまりこのままじゃとセリアだけがお婆ちゃんになってしもうぞ」
「それはそれで可哀想だって言いたいんだろ? そんなのは俺だって分かってる! でも種族によって寿命が違うんだから仕方ないだろ! もう俺はどうするのが正解なんだよ‼」
片方を取れば片方が損をする。この問題は俺一人だけが我慢すれば済む話ではない。
「ちと落ち着け。そんなに大声を上げるては熱が上がってしもうぞ。……それに一つだけこの問題を解決する方法にも気づいておるんじゃろ?」
「三人に、『俺と一緒にずっと生きてくれ』なんて頼めるわけないだろ。もしかしたら今は良いと思っているかもしれないが数百年、数千年後も同じとは限らない。もし途中から寿命で死にたくなっても過ぎた時間は戻せないんだぞ」
それでもセリアの場合はまだいい方だ。14歳で止めたとして人間の平均寿命が80歳とすれば66年で済むからだ。それに比べてあの二人は少なく見積もっても千年ちょっとはある計算になる。俺だったら頭がおかしくなって自殺しかねないレベルである。
「じゃがあやつらもこの問題には気付いておると思うぞ。あの三人は皆お主以上に頭が良いからのう。なんなら直接お願いしてみるのはどうじゃ?」
「絶対に駄目だ。そんなことお願いされたら嫌でも断りにくいだろうし、俺のお願いを聞いたことに後悔する日がきたとしても責任を取れん」
「魔力さえあれば何でも魔法が使えるお主でも出来ないことがあるのじゃな」
「どうせ最初っから気付いてたくせによく言うぜ」
「当り前じゃろ。何でも出来たらそれはもはや神じゃぞ」
俺の知っている神は何でも出来るわけじゃないみたいだぞ。駄女神だからかもしれないけど。
「そうじゃ! 成長を止めるのが駄目なら成長した分時間を戻したり、進めたりしてミナ達に寿命を合わせるというのはどうじゃ?」
「絶対に駄目だ‼ うっ―――」
大声を出したせいか突然眩暈に襲われ、前屈みに倒れそうになったところをティアが咄嗟に支えてくれた。
「大丈夫かの? さっきも大声を出すなと言ったじゃろうに。お主ときたら……」
「それだけは絶対に駄目なんだ‼」
「分かった、分かった。じゃから一旦落ち着かんか。明らかに熱が上がっておるぞ」
言われてみれば確かに体温が上がってきてるかも。
「これは誰にも言っていないことだが、俺の髪と目の色が普通の日本人と違うのは実年齢より4歳若返らせた結果だ。細かく説明すると面倒くさいから端折るけど、今回は運が良かっただけ。次はどうなるか分からない」
「4歳ということは…お主本当は21歳なのかの? ははっ、全然21歳には見えんぞ。もちろん見た目がという意味じゃなく、中身がじゃぞ」
「反応するところそこかよ。あと、ティアには何歳に見えてるんだよ」
「ん~、背伸びしておる15歳かの」
確かミナとリアも同じこと言ってたよな……。そんなに子供っぽいか? 実はお前らが年寄り過ぎるからそう感じるだけだろ。
「お茶……」
「ほれ、一気にじゃなくゆっくり飲むんじゃぞ」
「21歳だって言ったばっかりなのにもう子供扱いかよ」
「じゃがわらわが言わなければお主、一気飲みしておったろ」
だって熱が上がってきたせいか凄く喉が渇いたんだもん。こういう時に冷たい飲み物を一気飲みするのはよくないっていうのは分かるけどさぁ。
「子供扱いついでにもう一つだけ注意しておくかのう……」
「一つどころかこれからも当分は子供扱いするくせに」
「じゃが事実お主はまだまだ子供じゃ。じゃから一度だけ言っておくがのう。お主は自分自身の体を不老にしてしもうた。それはつまりこっちの世界で生きていくということに片足を突っ込んだということじゃ」
「まあ俺の世界には長命種なんて勿論のこと、不老の生物なんていないからな。そんな奴がいたら世界中がビックリだ。元の世界で生きていきたいなら今のうちに全てを戻さないと無理だろうな」
「じゃが今はまだ片足だけ。もう片方の足が突っ込まれた時……それはお主の手で人を殺したときじゃ」
「ついでに言うなら、今はまだ生きている前国王や貴族共を殺したとき……俺はこの国の王にならなきゃいけないってか?」
これは屁理屈というか、逃げかもしれないが一応あいつらはまだ生きている。つまり王になるなんて御免だと思った瞬間あいつらを自由にしてやれば全てが解決する。………俺の悩みだけがだが。
「そこまで分かっておるならもうこの話は終わりじゃ。あとは自分で考えて答えを出すのじゃな」
「今度考えておくわ」
ちょっと真面目に返事をしたが、『行けたら行く』と言う奴は行く気がないのと同じで当分考える気はない。
それからは適当な話をしながら雑炊を食べ進め
「ごちそうさま」
「うむ。少し熱が上がったようじゃがこれだけ食べられれば大丈夫じゃろ」
「殆どお前のせいだろうが」
「それでよいからお主は大人しく布団の中に入るのじゃ。………ちと気になることもあるし、わらわは居間に戻るぞ」
ティアに言われたからってのもあるが怠さが増してきたのもあり、俺が寝っ転がったのを確認するとそう言ってきた。
「おい、気になることってなんだよ」
「ミナ達もおるようじゃし問題はないと思うんじゃが、買い物から帰ってきたエメ達と一緒に知らない魔力がうちに入ってきておってのう。少し気になっておったんじゃ」
「誰だよそれ。俺も見に行く」
そう言いながら俺はベッドから出ると
「これ、無理をするでない」
「いいから行くぞ。俺は自分のパーソナルスペースに知らない奴が入ってくるのが嫌いなんだよ」
「お主のパーソナルスペースはどれだけ広いんじゃ。そんなんじゃまともに外も歩けんぞ」
「確認したらすぐ戻るから」
「は~あ、戻らんかったらわらわが無理やりベッドまで運ぶからのう」
ということで、体調が悪い俺に歩くスピードを合わせてもらいながら居間まで行くと……問題の人物がそこにはいた。
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