第28話:リアーヌの飴と鞭

「なぜご主人様はご自分の頭を抱えながらうずくまっておられるのでしょうか?」


「いきなり大声を出しおったから二日酔いの頭に響いただけじゃろ」


頭痛くて反論すらしたくねぇ。クッソ、誰のせいだと思ってんだ。


「なるほど。ご主人様、申し訳ありませんが一度起き上がっていただいてもよろしいでしょうか」


よく分からないが言われた通りに起き上がると、リアは俺の隣に座ってきた。


「なにこれ虐め? いつまで寝てんだよってことですか?」


「違います。先ほどご主人様がお昼を食べたくないと仰っていましたので私が無理やり食べさせるためです。胃を空っぽにしたままお昼まで抜くのは良くありませんので」


「今は何も食べたくないんだけど。この世界にお粥とか無さそうだし、あってもパン粥とかでしょ。俺パン嫌いだし……」


「そう仰られると思って果物を用意してきましたのでご安心を。はい、あ~んしてください」


なにこの状況。さっきまで怒ってたリアが今度は優しんだけど。


「どうですか? 一応一般的な果物しか持ってきていないので大丈夫だと思うのですが」


見た目は完全にリンゴだったけど、味もリンゴだなこれ。まあ昨日使った野菜も殆ど知ってるやつだったから食い物は地球と大して変わらないんだろう。


「普通に美味い」


「それは良かったです。では次にこちらをどうぞ。……はい、あ~ん」


「それで、お主はどこに住んでおったんじゃ? やはり日本かの?」


イチゴも美味いな。あとその話まだ続けるの?


「………今昼食ってるんだから邪魔するな」


「お主、さっきまで昼は食わぬと言っておったろうに。リアーヌも上手いことやりおる」


「ティアさま~。それ以上余計なことをおっしゃらなくて結構ですからね」


「分かった、分かった。それで、どうなんじゃ?」


「あ~ん。……これは何か知らないけどウマ。 あとしつこいから教えてやるが、俺は日本人だ」


チッ、まだリア達にすら黙ってたのに。


「なんの話をしていたのかと思えばそのことでしたか……。ですが日本人というのは黒髪に黒っぽい瞳というのが特徴ではありませんでしたか? 今のご主人様とは全然違いますよね……。あ~ん」


「そういえばそうじゃの。わらわは何人か勇者召喚された者を見たことがあるが、全員黒髪に黒っぽい瞳じゃった。それにこんな白髪に赤と青の目の者などこの世界でもなかなかおらんぞ」


「元は黒髪、黒色の目だったぞ。馬鹿のせいでこうなっただけで」


つか何人か見たことあるって、勇者安すぎだろ。しかも全員日本人っぽいし……。でもこれで俺が異世界人だって知っても特別驚かれなかった理由は分かったな。


「ですがご主人様の場合、勇者召喚には当てはまらないことが多いですよね。あ~ん」


「あ~ん………。ちななみにその特徴みたいなのは何があるんだ?」


「まず勇者召喚を行うには膨大な魔力が必要になる為おおよそ百年に一度のペースでしか出来ないらしいのう。あと呼び出された者は特別な力を必ず一つだけ持って現れると言われておる。リア、わらわにも一つくれてたもう」


「それに加えて勇者召喚された方は二度と元の世界に帰ることが出来ません。過去には帰る方法を探していた勇者様もいたようですが結局最後まで見つけることが出来ず、この世界で亡くなられたという記録もいくつかあります。あと、これはご主人様の分ですから駄目です。ティア様はお昼ご飯まで我慢してください。はい、あ~ん」


なるほどね~。いつでも好きな時にこっちの世界と地球を行き来できる俺は異質ってわけか。元の世界に帰れない理由………。一つだけ仮説が立ったけど今はいいや。


「ってことは、いつでも俺が元の世界に戻れることが世間にバレたらマズイな。まあその可能性も考慮してこの城にいる人達にしか教えてないし、口止めもしてるけど」


「そうですね。昨日ご主人様がティア様達にお洋服などを買って帰ってきた時もお嬢様は、『転移魔法を使ってちょっと変わったお洋服が売っているお店に行っていると説明しておきました』と言って誤魔化しておられましたし……。はい、これで最後です。あ~ん♪」


「まあ、それがバレたら間違いなく大変なことになるじゃろうな……。普通の者なら一国の王女やその専属メイドに教えるなど有り得んぞ」


「そこがご主人様の良いところであり、悪いところでもありますね」


「一応保険は掛けておいたとはいえ危険な行為だったのは分かってる。……次からはリア達と話し合ってからにする。……ふあぁ~」


「ふふ。もう少しこの話に関しましては詳しくお聞きしたかったのですが、眠くなっちゃったみたいですね」


そもそも遅くまで飲んでてあんまり寝てないのに何だかんだでリアと話したり、怒鳴ったり、宥めたり、説教されたりで疲れたのにプラスして、さっきまでリアが冷たかったのにいきなり甘くなったから……もう少し甘えたくなってきた。


「ん?……あらあら、今日のご主人様は甘えん坊さんですねぇ」


「……お主、突然毛布を頭から被りおってどうしたんじゃ? 別にリアーヌに膝枕してもらっとる所など見られても今更じゃろうに」


「ふふ、このままお休みになられても構いませんよご主人様」


「う~~ん」


毛布の中で俺が何をしているのかというと……まず普通に膝枕をしてもらった後、左肩を下にした状態で寝ころぶことにより俺の顔がリアのお腹の真ん前にくるようにする。そこからその態勢のまま自分の両腕をリアの腰に回して軽く抱きしめてる感じにし、その流れで自分の顔をリアのお腹に埋めれば完成。


つまり、今の俺はリアに膝枕されながら抱き着いてる状態なのだ。実はこれ、俺の癖だったりするのだが今まではリア達相手に膝枕されても我慢していたのだ。でも今日は無…ふあぁ~。






ん~~ぅ。目は覚めたけど、まだ起きたくない……。それにもうちょっとだけ、こうしてリアの体温とか感触、匂いを感じてたい。なんか、話し声が聞こえるけど無視でいいや。


「なんか今のソウジ君って、孤児院にいた一部の子達に似てるんだよねぇ」


「孤児院と言いますと、マイカさんがいた所ですよね。具体的にどのあたりが似てるんですか?」


「うん。私は少し前から院長先生と一緒に子供達の面倒を見てたんだけど……年齢的にはアリスちゃん達よりも上の子なのに、物凄く甘えてくる子が何人かいたんだよね。ホントたまにだけど。それも全員決まって抱きつきたがるの」


「それはただのエロガキだったのではないのかの? マイカは良い体しておるしのう」


「う~ん、それはないんじゃないかな~。だってみんな私じゃなくて院長先生に抱き着いてたし。まあ私は下の子達を中心に見てたっていうのもあるかもしれないけど」


「その方達になにか共通点などはないのですか?」


よく聞いたぞリア。ちょっと俺もその話は気になってきた。


「そうだな~、確かその子達は片親のケースが多くて……何かしらの不幸があってうちに来たっていう子が多かったかな」


「となるとその子達は自分の親に甘えたくても甘えられなかった可能性があるわね。恐らく自分の親に、特に母親に甘えられなかった反動でって感じじゃないかしら。私のは場合、甘えたいなんて思ったこともないけどれど。……今ならその気持ちも少し分かるわ」


おいー! ここにセリアまでいるのかよ。お前いつの間に仲良くなったんだよ。


「セリアさんは一体ソウジ様とどういった関係なんでしょうか? もうご自身のことはお話になられたので?」


「ええ、昨日のうちに全部話したわよ。大方私達の予想通りだったけど……。早くあっちに連れて行かないと、私が全部の初めてを貰っちゃうわよ」


「ちょっと、昨日どこまでしたんですか⁉ というかズルいです! 私なんてまだ抱きしめてもらったことすらないのに!」


「お嬢様。お気持ちは分かりますが、まだご主人様が寝ておられますのでお静かに」


まあ半分起きてるねどね。あとセリアはこれ以上余計なことを言うな。


「う~~、リアーヌだけソウジ様に抱きしめられててズルい。私もその膝枕してあげたいです」


「ミナは少し落ち着かんか。後でこやつにキスでもすれば良かろう。昨日のセリアのようにの」


おまっ! もしかして昨日俺の心の中を覗いた時一緒に見やがったな。確かあの時はセリアの話をしてたから可能性は十分あるぞ。


そういえば人に見られないよう毛布を頭から被って寝たから見えないはずなのに、なんで俺がリアに抱き着いて寝てるってみんな知っ、ふあぁ~。やば……また眠くなって―――――。

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