第9話:甘い考え

………なんか頭の下が温かい。それに加えて凄く柔らかくて気持ちい。


「………ん、うん?」


「あら? 起きましたかソウジ様」


どうやら俺はソファーで寝ていたらしく、ゆっくり目を開けると何故かリアーヌさんが俺を見下ろしながらそう言ってきた。


「………え~と、なんで俺はリアーヌさんに膝枕されてるんだ?」


「なんでと言われますと…それは私がお嬢様とのじゃんけんに勝ったからですね」


それは全く答えになっていないどころか更に謎が増えたが取り敢えず無視だ。……膝枕はもう少しだけ堪能させてもらおう。


「あら、ソウジさん起きたんですね。良かった~」


「おう坊主、意外と起きるのが早かったな」


どうやら俺が目を覚ましたことに気が付いた二人はリビングからこちらに向かって来た。それに伴い徐々に気絶する前のことを思い出し始めた俺は


「どれくらいの時間寝てた?」


「そうですね~。今は夜の十時過ぎですのでソウジ様が気絶してから二時間くらいですね」


「そうか。……ん、うぅん」


流石に二時間も膝枕しっぱなしだったと考えると申し訳ないので起き上がるとリアーヌさんは残念そうに


「あら、別にそのままでも大丈夫ですのに」


「リアーヌばっかりズルいです! 次は私にやらせてください」


「……おい、二人とも。そこの坊主をどっちが膝枕をするどうこうより、やるべきことがあるんじゃないのか?」


「うう~、確かにアベルの言うことも一理ありますね。今回は我慢しますけど次は私が膝枕する番ですからね」


いや次ってなんだよ、次って。そもそも何時から俺はこの二人に膝枕されるような関係になったんだ? ………悪い気はしないけど。


「それで坊主、気絶する前のことはどれくらい覚えてるんだ?」


「お姫様がボハニアのクズ共を処刑うんぬんの話をしてたところまでは覚えてる」


「ってことは全部覚えてるわけか。……んじゃ、単刀直入に聞くがお前が気絶した理由はなんだ?」


「…………俺が住んでた世界では戦争とか殺人なんて滅多になかった。それどころか殺人を犯した奴は重犯罪者扱い……つまり俺は人どころか、この世界に来るまで生き物すらまともに殺したことがなかったんだ」


この話を聞いた三人はやっぱりみたいな顔をしながらこちらを見てきた。


「なるほど。そんな奴がいきなり処刑してくれなんて言われたらキツイわな」


「そういうことだ。今までは殺人なんて無縁の生活をしていたが、この世界は違う。そのことに気づいた瞬間怖くなって、気づいたら気絶してた」


「まあこの世界の奴らも初めて人を殺した時は酷いからな~。特に騎士団に入ってきた新人とか」


「それは貴方のせいでもあるですよ。入団したばっかりの子達をいきなり盗賊相手に実戦投入させたりして」


「ああ˝? 騎士団として働くなら人殺しぐらい出来なきゃ話にならねーだろうが! それに心のケアはお前の鎮静魔法で完璧だしいいじゃねーか」


この二人仲良いな。……だがそんなことはどうでもいい。そんなことよりも俺が今一番気になっているのはお姫様だ。さっきからずっと下を向いたまま一言も喋っていない。まあ大体の理由は分かるけど、一応話し掛けるか。


「お姫様、ちょっといいか?」


「えっ? あ、はい。大丈夫ですよ」


他の部屋にお姫様だけを連れて行くのもあれだろうと思い、隣のリビングに移動した直後


「あ、あの、ソウジさん。知らなかったとはいえ私、いきなり国民の前で処刑してくれなんてお願いして……申し訳ありませんでした」


「やっぱりか。別にお姫様が悪いわけじゃないから気にするな」


「ですが……あの時のソウジさんは初めて殺人を犯した人と同じような感じでした。そんな方にあんなお願い……」


「いいからもう気にすんな。あと、乗っ取りの件はちゃんと協力するから安心しろ」


「そ、そんな⁉ あの件については私達だけでなんとかしますから」


「……これはあんたらだけの問題じゃない。俺にも関係がある以上、下手なことをされるよりお姫様の作戦で確実にやった方が良い」


ボハニア王国の隣国は何もマリノ王国だけではない。この城がある場所も隣なのだ。つまりお姫様達が行動を起こして何かがあった場合、こちらにも被害が及ぶ可能性がある。それが分からないお姫様じゃないはずだ。


「それは勿論分かっています。ですが今のソウジさんが殺人なんてしたら最悪、心が壊れてしまいます。ですからそんなことはさせられません」


「別に処刑するのが全てじゃないだろ。取り敢えず牢屋にぶち込んどいて今後どうするかを考えることも出来る。それにボハニアのヤバさを知ってしまった以上無視することも出来ない」


正直俺はまだボハニアについてよく知らないし、関わらない方が絶対に良い気がする。だが今回の問題は人の命が掛かっている。道に迷ってる人が目の前にいるのとは規模が違う。……後者なら見なかったフリをする俺でも流石にそれは無理だ。


もし誰かに、『お前は問題の大きさで人助けをするかどうかを決めるのか?」と言われようが関係ない。なんたって俺はそういう人間だからな。


「本当にいいんですか?」


「ああ。逆にお姫様達がやるなと言ってもやるぞ」


「………分かりました。もしもの時は私達が代わりに手を汚しますし、絶対にソウジさんのことは守ります」


「さいですか。でもあの国の次の王は俺だ。勝手に殺すのは絶対に許さないぞ」


この言葉には二つの意味がある。まず一つは慣れているのだろうが、出来るだけ人を殺してほしくないという気持ち。そしてもう一つは俺の選択のせいで人が死んだという結果が生まれないようにという、ただの自己保身だ。


そんな俺の考えをどこまで気づいているのかは分からないがお姫様はどこか嬉しそうな顔で


「はい、分かりましたソウジ陛下」


「それはまだ早いだろ。……それより作戦会議の続きだ」


ということで俺達は居間にあるソファーに戻るとリアーヌさんは新しい紅茶を入れ始め、アベルは


「戻って来るのがおせーよ」


「どうした、随分と元気がないな。まあ居間とリビングはそんなに離れてないからリアーヌさんに怒られてるのが聞こえてたけど」


「精神的には俺の方が大人なのに、なんで俺が怒られなきゃいけないんだよ」


「へー、やっぱりアベルの方が年上って認識でいいのか?」


「そうですね。この世界には様々な種族がいるので成長速度も違いますが、基本的には人間の年齢が基準になっております」


「ってことはお姫様とリアーヌさんは俺より二つ上って認識でいいのか?」


そう俺が言うと紅茶を持って帰ってきたリアーヌさんが


「それで合っていますよソウジ様。ですので間違っても私達のことをおばさんとか考えちゃ駄目ですよ」


「いやいやいや、そんなこと全然考えてないから。それに昼間も言ったけど二人とも17歳くらいに見えるし」


「まあ長命種の場合ほとんどが人間でいう17から20歳までで成長が止まりますからね。……そういえばソウジさんって17歳なんですか?」


「えっ、まあ~一応? もっと年上に見えるか?」


あの駄女神のせいで確かに見た目は若返ったが、中身は変わってないはずなのでそう見られてもおかしくないかと思ったのだが


「いえ、もう少し年下かと」


「申し訳ないのですが、私もソウジ様は15歳くらいかと思っておりました」


そんなに俺の見た目って若いか? もしかして精神年齢が低い……とか? なんか後者の気がしてきたからこれ以上考えるのは止めよう。


俺がそんなことを考えているうちにリアーヌさんは全員に紅茶を配り終わったらしく、丁度ソファーに腰を下ろしたところだった。


………なんで俺の隣に座った? ってか、全然気にしてなかったけどお姫様も隣に座ってんじゃん。なんなのマジで。

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