第一章
第1話:……神様?
突然だが、みんなは異世界に行きたいと思ったことはないだろうか。
……もっと言うと神様からチート能力を貰って、な○う主人公みたいに『異世界で俺TUEEEしながらハーレム作って、王様になりたい』とか考えたことはないだろうか。
ちなみに俺はある!
というか大学三年生になった今でも、ほぼ毎日考えていたくらいだ。
……そう、『考えていた』だ。なぜ過去形になっているのかというと、なんとその夢が叶ったからである……。
「はい、終了。前から答案用紙を回して」
教授のこの言葉により、一番後ろの席の人達は一斉に答案用紙を前に回し始めた。それとほぼ同時に色んな所でお喋りが始まる。まあそれは俺も同じで、隣の席にいたよっちに話しかけていた。
「これで三年のテストは全部終わり。明日から春休みか」
「まあこれから、会社説明会とか就活とか色々あるけどね」
正直、就活の話は辞めてほしい。なぜなら、最近は学校にいる限りどこにいても就活の話が聞こえてくるからだ。はぁ~、なんで人間って働かなきゃいけないんだろ。…………そもそも、人間を作ったのって誰だよ!
人間を作れるようなスゲー奴がいるなら、就活が本格的に始まる前に俺を異世界俺TUEEE主人公みたいにして欲しいもんだ。
などと、くだらない現実逃避を一人頭の中でしながら席を立ち
「よし、帰るぞよっち」
「今、現実逃避してたでしょ」
そう言いながらよっちも席を立ったので、俺達は歩きながら
「そっ、そんなわけないだろ!ちゃんと就活について考えてたわ」
「ふーん。じゃあ、どんなことを考えてたの?」
「神の力で異世界召喚されて王様になる!」
俺の返事を聞いたよっちは呆れた顔を隠しもせず
「……またそれ~」
「いや、毎回言ってるけど冗談だからな。……でも実際ラノベ主人公みたいなのが現実になったら人生勝ち組じゃね」
なんたってあいつらは神からチート能力は貰えるは、その力を上手く使って王様になるは、ハーレムを作ったりしてるんだぞ。これを勝ち組と言わないで何と言う? この世界で社畜をやるなんて負け組としか言いようがないだろ。
などとよっちに言ったら、『じゃあ、この世界にいる人達のほとんどは負け組だね。そして宗司もいずれ、その負け組の仲間入りをすると……』と言われてしまった。
そんなくだらない願望を話しているうちに、自分の家の前まで着いてしまった。
「んじゃ、またなよっち」
「じゃあね」
いつも通り別れの挨拶をした後…俺は家の鍵を開け、玄関で靴を脱いでからリビングのドアを開けると
「あっ!宗司おかえり~」
「………………」
パタン。
よし。ここで慌てず静かに扉を閉められたということは、まだ俺は落ち着いているということだ。
……ちょっと待てよ? なんでリビングに知らない金髪でスタイルの良い女の人がいたというのに、俺はこんなに落ち着いているんだ?
…………そうか! さっきのはただの見間違いか! なるほど、なるほど。それならこの落ち着きようも納得だ。
そう結論づけた俺は、再びリビングの扉を開いたのだが
「ちょっと~、『おかえり』って言われたら『ただいま』って言うのが常識でしょ!」
「…………」
「なんで黙ってるのよ! 早く『ただいま』って言いなさいよ!」
知らない女の人がそう言ったのを聞き、ようやく俺は落ち着いているのではなく、驚きすぎて声が出なかったんだということに気が付いた。よし、一回深呼吸をしよう。
それから数度、大きく深呼吸をし
「……よし。それで、あんた誰?」
「相手の名前を聞く前にまずは『ただいま』でしょ? 常識くらい守りなさいよ」
「お前にだけは常識うんぬん言われたくねーよ! そもそも常識うんぬん言うならお前不法侵入だろうが!今すぐ警察に通報しても良いんだぞ!」
俺がそう言うと、知らない女の人はいきなり慌てながら
「ちょ、ちょっと待ちなさい! 名乗る! 名乗るから通報しないで!」
慌てながらそう言ったかと思えば、何故か偉そうにしながら
「こほん。私は天照大神よ‼」
「……新手の宗教の勧誘か。やっぱ通報しよ」
「こらこらこら‼ ちゃんと名乗ったんだから通報しないでよ!……というか私、天照大神なんですけど⁉ あの天照大神なんですけど! 普通は今すぐ頭を下げて敬うところでしょうが!」
なんか目の前にいる自称天照大神が色々言ってるけど、こういう場合ってどうすれば良いんだ? やっぱり変に刺激すると危ないから相手に話を合わせるのが良いのか? よくテレビとかで人質になった時はまず落ち着いて、相手を刺激しないようにすること。とか言ってるしな。よし、取り敢えずこの人に話を合わせよう。
「それで、わざわざ天照がウチになんの用だ?」
「私の正体を知ったにも関わらず、敬語を使わないどころか呼び捨てなのが気になるけど……まあそれは良いわ。用があるのは宗司、アンタによ」
「はあ。俺ですか?」
「アンタお正月に友達と二人で、この家の近くにある公園の隅にある小さな神社に行ったでしょ?」
正月に神社?………ああー、そういえばよっちと行った気がするな。確か俺がふざけて
『初詣にあんな神社行く奴なんて誰もいないだろうから、あの神社でお願い事すればなんでも叶えて貰えるんじゃね?』とか言って行ったな。そして俺が願ったのは……
「そしてあなたはあの神社で、『異世界で俺TUEEEしてる主人公みたい且つ、一国の王様になれますように』って願ったでしょ?」
おいおいマジかよ。この自称天照、俺があの日願ったこと一語一句間違わずに言ってきたぞ。マジで本物なのか? いや、でも神なんて本当にいるわけないし……メンタリストって言われた方が信憑性があるよな。
はっ⁉ もしかして俺を洗脳して変な宗教に入れようって魂胆か?
「……あなたが今なにを考えているかのか分からないけど、ただ私はそんなアンタの願い事を叶えに来ただけ」
なんかますます怪しくなってきたな。でもここで無視したことによって何かされても嫌だし、取り敢えず話を合わせ続けるか。一つ気になることもあるし。
そう心の中で決めた俺は、出来るだけ怪しまれないよう自然に返事をした。
「そうか。それが本当なら凄く嬉しいんだが、一つ聞きたいことがある」
「ん? 何かしら?」
「確かに俺はあの神社で、アンタが言ったとおりのお願いをした。だがあそこの神社に祭られてるのは天照大神じゃなく、雷神のはずなんだが。なんで天照大神が俺の所に来たんだ?」
俺はお願い事をした後興味本位で調べたのだが、あそこの神社に祭られているのは雷神だったのだ。そもそも天照大神といえば伊勢○宮である。つまり、百歩譲って本当に神が願い事を叶えに来たとしても来るのは雷神のはずである。
「ああ、それね。だって伊勢○宮ってただでさえ毎日お願い事をしに来る人が多くて大変なのに、お正月まであんな所にいたら過労死しちゃうってことで、友達の雷神の所でのんびりしてたらアンタがお願いしに来たのよ」
「それただの職務放棄じゃねーか!お前がサボってた間の願い事はどうすんだよ!」
「別に私がいなくてもAIが勝手にリスト化してくれてるから大丈夫よ。それに神様だからって、何でもかんでも願い事を叶えてあげるわけじゃないし」
「おいおい、今は神までAIを使う時代なのかよ。……うん? っていうかAIが自動でリスト化してくれるなら、別にこっちに来る必要なくないか?」
「あー、だってせっかくのお正月なのよ。お正月くらい神様だってゆっくりしたいじゃない?」
いや、俺は神でもなんでもないからそんなこと言われても分からないんだが。……要するにこいつ、ハッキリは言ってないが初詣は特に人が多くてうるさいから全く人が来ない雷神の所に来ていたと。それはそれで雷神に失礼じゃないか?
……って、いつの間にかこいつのこと本物の天照大神だと信じ込んでたぞ⁉ あっぶな!
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