ダーク・クラウズ
アダムズアップル
第1話
”世界の危機”
この言葉に魅力を感じてしまう。
そんな人はほとんどいないだろう。だが、確かに存在する。別に大それたことは考えていない。ただ、このどうしようもなく退屈で、理不尽な現実はいつまで続くのかと半ばあきらめに近い感情を抱いている。
彼もまた、その一人である。
そして彼には”それ”ができ得るということは彼を含め、まだ誰も知らない。
宇江城 丈(うえしろ じょう) はいつも通り、6時30分に起きると、朝食を済ませ、学校に向かった。見慣れた信号機、見慣れた道路、見慣れた交差点、見慣れた________黒い物体。
その黒い物体は、液体状だったり、風船みたいにプカプカ浮いてたり、ひび割れだったり。空中のいたるところにそれらはある。否、あると言えるほど確かなものではないように見える。
そう、彼には見える。それがなんなのか、どういう理屈でそこにあるのか彼は知らない。このことは誰にも言ってない。秘密を隠したいなんて夢のある事ではない。
彼はそれらを不気味とも何とも思っていなかった。それらはただ見えるだけ。特になにかできるとは、彼には到底思えなかった。それらは意識しなければ、自然と視界から消える。見えていても邪魔なので彼は意識しないようになったのだ。
「おはよう、ジョウ。」
「おはよう、岩ちゃん。」 早い時間帯に来ると、僕を含めて6人しかいない。
「岩ちゃんまたFXの本読んでるの?」
「そう。勉強なんてしょうもないことばっかしたくないね。俺はFXで儲けて将来働かずに生きていきたいんだ。」
本気とも冗談ともとれる調子で彼はいった。
学校での勉強に価値は無いと思っている。だからといって、一切勉強をしないなんて思い切ったこともしない、できない。そういった面では現実主義者でもある。
「それには僕も賛成だ。他にもいろいろやり方ってもんがあるのに、教師や親たちは優秀であれば将来安泰だなんて、固まりきったことしか考えていないんだよ。」
「ほんとにそれ。俺のやりたいようにやらしてほしいわ。」
授業は黙々と進んでいる。教師が黒板に書く音、教科書を読み上げる声しかしない。
生徒はといえば、きちんとノートを書いている人もいれば、内職している人もいる。
僕もこの授業ばっかりはまったくやる気もなく、内職するようなこともなかった。
一応、化学の教科書を開いておいてぼーーっとしていた。
つまらないなぁ…。勉強ってなんでこんなに楽しくないんだろうか。たしかに学ぶことは大切だと思う。学ぶ力を養うために学校があることもわかる。だが、学ぶ内容がこうもつまらない必要がどこにある。
いっそのこと学校なんてやめてしまおうか。僕にはやりたいことがある。ない人だけが時間稼ぎのために学校に通っていればいい。
学校が終わると部活は止めていたので、すぐに帰った。
「ただいま。」
「おかえり。今日はちょっと早いじゃん。」
母は夕飯を作っている。いつも通りだ。父は5年前、不運にも交通事故で死んでしまったので、母は午前と夜働いて、時間がある今こうやってご飯を作ってくれているのであった。
いつも通り…それは彼にとっては苦痛であった。ふとそれを壊したくなる衝動に駆られることもあった。
いまがその時か。言うしかない。
「母さん。僕、学校辞めたいんだけど…」
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結局こうなるのか。僕が言い出した途端、母は顔色を変えた。
理解されようとは思っていなかった。ただ意見を聞きたい。そんな思いは通じなかった。僕の声は届かなかった。僕は家を出た。
ふ、ふふふ。
見慣れた道を歩く。見慣れすぎて見えなかったものさえ、鮮明に見えた。”それ”は確かに存在していた。
そうか…
そういうことなのか…この世界は。
一番近くにある”それ”に意識を向けた。
突然車が目の前を通り過ぎ、後方の電柱に衝突した。
不運だな…
”不運を呼ぶ者”《アンラッカー》
それが彼の能力だ。
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