おめでとうと言う筈が、言われてしまいました

ひより

第1話

「おめでとう‼︎」


「おめでとうございます‼︎」


 卒業式の日、殿下はヒロインにプロポーズする。そして、それを頬を染めながら受けるヒロイン。

 クラスメイトが祝福の拍手を送り、二人は照れながら手を繋いでいた。


 そんな光景を、離れたところで見つめる私。

 その目には少し涙が浮かんでおり、そっと指先で拭う。私はひっそりと拍手をし、静かに去るのであった。



 ……そうなる筈だった。


 なのに、何故⁈


 何故私がヒロインの場所にいるの⁈


 状況は私が描いていたのと180度違い、私は殿下の横にいて、ヒロインが離れたところで見ている。しかも、めちゃくちゃ怒った顔をしている。

 そりゃそうだ。ヒロインは一生懸命、殿下の好感度を上げていた。私も二人の仲を一生懸命邪魔して、嫌われ者になった。

 なのに殿下はヒロインではなく、私を選んだ。


 そう、悪役令嬢に転生した私をーー。


 時は遡ること1年前、学園の入学式の最中に、私はある乙女ゲームの、悪役令嬢に転生したことを思い出した。

 私は前世で、悪役令嬢ものの小説にハマっていて、是非婚約破棄をしたいと思った。その先にあるかもしれない、まだ見ぬ素敵な恋を夢見て。

 だから、ヒロインが殿下ルートを攻略していると気づいた時は、ガッツポーズをした。よし、これで婚約破棄出来ると。


 私はゲームに忠実に、ヒロインと殿下の恋を邪魔した。一生懸命邪魔した。お陰で学園の一部の生徒に、陰口を叩かれる羽目になったけど気にしない。私の婚約破棄を待っている、まだ見ぬ素敵な人の為に頑張るわ‼︎と自分を奮い立たせて頑張った。


 そんな人いるのか?ですって?

 だって婚約破棄物は、婚約破棄された悪役令嬢が素敵な人と恋に落ちることがあるから‼︎


 まあ、私がそうなる保証はないけどね。でも折角転生したんだから、先の見えない展開を味わいたいなと思って。


 そして順調に殿下を攻略していたヒロインは、今日卒業式の後のイベントで、殿下に告白される筈だった。


 ……だった筈なのに、殿下はちっともヒロインを呼び出さない。痺れを切らしたヒロインは、パーティ会場で殿下に二人きりで話したいと言い出した。

 凄い。ヒロイン攻めてるなあ。


 私は気になり、覗きに行った。するとまさかのヒロインからの告白。

 しかし、まさかの玉砕。何故⁈私はあまりにもビックリしすぎて、物音を立ててしまった。


 あっ、まずい。


 恐る恐る二人を見ると、こちらを見ている。見つかってしまった。

 観念した私は、二人の前に出て行った。


「ごっ、御機嫌よう。ごめんなさい、立ち聞きしてしまいまして……」


 私の姿を見たヒロインは、泣きながらその場を去った。私は追いかけようとしたが、殿下にそれを止められる。


「あっ、あの……殿下、離してください」


「いやだ」


 殿下はまっすぐな瞳で、私を見つめる。掴まれた腕からは、殿下の熱が伝わり熱い。


「私が好きなのは君だけだ」


 ……えっ?殿下の唐突な告白に、私はビックリした。だって、殿下はヒロインが好きな筈でしょ。なんで、ヒロインを振ってるのよ。なんで私にそんな事を言うのよ。


「彼女が私に好意を抱いていたことは知っていた。私もそれは素直に嬉しかった。でも、ある日気づいたんだ。君が私たちをくっつける為に、わざと悪者を演じていることに」


 ばっ、バレてるーー‼︎


「心優しい君は、私たちの仲を取り持つ為にあえて悪者を演じ、婚約破棄を望んだのだろう。君を見ていれば分かるよ。君の態度には愛があった。私たちをくっつけようとする気持ちが、ひしひしと伝わってきた」


 そりゃ、全力で婚約破棄に向けて頑張りましたから。二人をくっつけようと必死でしたから。


「その時思ったんだ、悲しいと。彼女の事は好きだが、それ以上に君にそんなことをされたのが悲しいと思った。君に私との婚約を望んでもらえないことが悲しかったんだ」


 殿下は私に一歩近づき、私の手を取った。


「君は、他に好きな人がいるのだろうか?」


「いっ、いえ……」


 婚約破棄された後、もしかしたら現れるかもしれませんが。


「私のことは、まだ好きだろうか?」


 婚約破棄を頑張り過ぎて、正直殿下のことを自分がどう思っているかとか、考えていなかった。


「嫌いでは……ないです」


「よかった。なら、改めて言う」


 そう言い、殿下は私の前に跪き、手の甲にキスをした。


「君が好きだ。結婚してほしい。私のことを婚約者としてちゃんと見てほしいんだ」


 殿下は凄く真剣だ。私が思い描いていた結末とは違うけど、新しい展開だ。

 これはこれで、面白いのかもしれない。


「はい」


 私はニコリと微笑んだ。


 その瞬間クラスメイトたちが一斉に現れる。どうやら覗いていたようだ。


 そして私たちを囲み、パーティ会場へと連れていく。

 パーティ会場に着くと、おめでとうと言う声がたくさん聞こえる。皆私たちの恋の行方を気にしていたようだ。

 影で見ていた人たちは、殿下の再プロポーズに涙を流している。皆は殿下が私に想いを寄せていることを知っていたようだ。そして私がわざと悪者を演じて、二人をくっつけようとしたことも。

 最初は皆、意地悪をしていると思ったらしいが、二人を想っての行動だと、後々気づいていったそうだ。


 そんなにバレるほど、私は下手だったのか。そしてそれを好きな人の為に、婚約破棄しやすいようにあえて嫌われ者を演じたと勘違いをされてしまった。


 最後まで陰口を叩いていた人は、ヒロインの友人だそうだ。


 全然気がつかなかった。婚約破棄に一直線に頑張っていたから、周りがどう想っているとか全然考えもしなかった。


 私は本気で二人を祝福し、おめでとう‼︎って心の中で叫びたかった。


 それは叶わなかったけど、この結末も悪くないと私は思えた。

 私を心の底から愛してくれている殿下となら、この先の未来を一緒に歩むのも悪くはないと、そう思えた。


 だって、悪役令嬢を本気で想ってくれる殿下なんてゲームじゃあり得なかったからね。

 殿下ルートに行かなくても、殿下はヒロインに好意を寄せていた。

 他の人を好きな人と結婚なんて、冗談じゃないもの。


「ありがとう。絶対に幸せにするよ」


 殿下はそう私に囁いた。ふふっ、この結末は最高ね。


 こうして私は皆におめでとうと祝福され、学園を卒業した。私はこの日、人生で一番多く、おめでとうと言われたのだった。



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