あなたは甘いお菓子

くれない れん

 さてさて。道行く皆様お立ち合い。

 これにあるはからくり屋敷。

 皆さまには数想かずおもいの館と言えばお分かりの方もおりましょうか。

 え。ご存知ない?

 それは失礼いたしました。

 ですが、今お知りになったのですからどうぞどうぞ少しだけでも見て行ってくださいませ。

 さてさて、御目をとめてくださって、おありがとうございます。

 さぁ、皆さま。

 この館、実はただのからくり屋敷じゃござんせん。

 入った方に一番ふさわしい活劇が上映される、世にも珍しいからくり屋敷でございます。

 本日の演目は入った方のさじ加減ひとつで変わりますれば、私、案内人もその内容は分からないというから、あら不思議。

 恋物語か、恐怖物語か、はたまた親子の愛情か。

 選ぶ扉が変われば、結末も変わる。

 どのような結末が待っておりますか、それはあなた様次第、運次第。

 おお、そこのお嬢様。

 よろしければいかがです? 本日の運だめしと思ってぜひお試しに。

 え?

 いえいえ。お代なぞいただきません。実は本日、常のお客様ご愛顧感謝で、ご新規のお客様は特別に無料体験とさせていただいておりますよ。

 え? よろしい?

 なんと、なんと、ありがとうございます。それではご案内いたしましょう。

 さあさあ、こちらへ。

 お客様のさじ加減で物語はいかようにも変化いたしますよ? 心してご覧ください。

 といっても脅しているわけではございませんのでご安心召されませ。

 それではいざ、深呼吸をいたしまして。

 物語の扉へと、お一人様ご案内ぃ~。



 おっと、まず見えて参りましたのは、百恋もれの扉。

 あの扉を開けますれば、百恋もれと申す者が中におります。

 この百恋もれがお客様に開けるべき扉を教えてくれましょう。

 え? 私?

 これは失礼。申し遅れました、私は十恋とれと申します。

 この十恋とれはしがない案内人。

 お客様がこの百恋もれの扉から出てこられますまでお待ちするのが、私、十恋とれの仕事。

 ではでは、お客様、心のご準備はいかがです? 早速百恋もれの扉をお開けいたしますよ?

 では、どうぞ中へ。十恋とれはきちんとこちらで、このように姿勢を正してお待ちしておりますので。

 え? 必要ないとおっしゃる?

 これは笑顔で手厳しいことを言われる。

 ですが、ようございました。今の今までお客様の花のかんばせは沈みに沈んでおられましたもの。すこしでも笑っていただければ上々というもの。

 さて。

 では、百恋もれの間へどうぞ。

 あとは百恋もれが万事うまくしてくれます。

 いざ、百恋もれの扉、ご開帳ぉ~。

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