君へ青い贈り物~ブルースター

ユラカモマ

君へ青い贈り物~ブルースター

 数年来の飲み友の彼女はある日薬指にシルバーの指輪をはめてきた。嫌な予感をしつつも問うと彼女はいたずらがばれたこどものように笑いながら答えてくれた。

「今度結婚することになったんだ。だから君とはもう一緒に飲めないや。」

「ああ、そう...。」

「だから今日は思いっきり飲む! 付き合ってくれるよね?」

「...分かったよ。」

 どもる自分を置いて高らかに宣言する彼女に思わずうなずくと彼女は足早にいつもの店へ歩いていった。


 彼女と出会ったのはこのいつもの店だった。たがいに一人で来ていたのだがタイミングが重なることが多く、気づけば誘い合わせて飲む仲になっていた。互いに自分の詳しい話はしなかったけれどそれでもともにいるのはとても心地よかった。


 豪快にジョッキのビールを飲む彼女を見ながら自分はグラスのビールを少しずつ飲む。宣言通りがんがん飲んでいく彼女に少しだけ苦笑いしていつも通り話をした。いつもと変わらない夜だった。今日が最後だとは思えないぐらい普通だった。


 店を出ると生ぬるい夜風が吹いていた。すっかりできあがった彼女はへらへらと笑いながら体を寄せてくる。柔らかい肌の感触に突き放せばいいのか抱き寄せればいいのか分からない。だからしたいようにさせたままゆっくり駅へと歩いていく。駅までの道は薄暗く人が少なかった。自分たちはたまに彼女が無意味に笑う以外特にしゃべりはしなかった。

 いまだ人の行き交う明るい構内に入ると彼女はくっつくのを止めた。そして水を買ってくるから待っていて、と返事も聞かずにコンビニへと走っていく。ああ、とため息をついて隅によると閉店間際の花屋の店先に立つことになった。赤い花、黄色い花、オレンジの花。青いバケツのなかに詰められている。

(そういえば、まだお祝いをあげていなかった。)

 思いつきで結婚祝いに良いのはないかとエプロンをつけた店員に聞くと青い星のような花を勧められた。ブルースターという見ため通りの名前の花は小ぶりで派手すぎずかわいいものだった。他にもいくつか勧められたが結局ブルースターが一番良いと感じたのでそれにした。

 彼女が帰ってくる頃には花屋は閉まっていた。吐いたのか顔が少し白くなっている。コンビニの袋を下げた彼女は何事かいいかけ、それを口に出す前に青い花に目を落とした。

「どうしたの?」

「結婚祝い。」

 はい、と多重に包装された花を渡す。彼女はきょとんと目を丸くしていた。

「おめでとう。どうぞ、幸せに。」

「え、あ~...えぇ...そうね。ありがとう。」

 彼女はおずおずと歯切れ悪く花束を受け取った。花束を抱える薬指には銀色が眩しく光っている。彼女は何か言いたそうな視線を向けてきたが黙殺し改札に行く。それをヒールの音が追いかけて来ていつもと変わらず別れになる。

「君に会えてよかった。これから寂しくなるよ。」

 別れ際、らしくない最後の言葉に君の顔がくしゃりと歪んだのを見て僕は少しだけ胸のすく思いがした。



ブルースターの花言葉

 信じあう心、幸福な愛、身を切る思い

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