スクーター・ジョー 番外編集

谷兼天慈

第1話「夜更けのジョー」

「すげー、新品のスクーターだぜ」

「おお、バラバラにして部品かっぱらおうか?」

「それいいかもな。ようし、お前誰か来ないか見張ってろ」

 真夜中の自転車置き場。

 見るからに怪しげな男二人。

 外灯に照らされたその顔はまだ若い。

 年のころ18、9といったところか。

 一人はそこを離れ、通りを油断なく見回している。

「さて、と…」

 残った男は、日頃からやってることなのか、手際よく懐からスパナなどいわゆる七つ道具を取り出した。

「今度はどれくらいでさばこうかな?」

 ふふ…と笑いながら男はスパナを手にし、赤と白のツートンカラーのスクーターに近づいていった。

 つと車体に手を触れる。

「くすぐってぇ」

「へ?」

 男は目をぱちくりさせた。

 慌ててキョロキョロとあたりを見回す。

「おい、お前何か言ったか?」

 男は向こうにいる相棒に声をかけた。

「なんにも言ってねーよ」

「だよな」

 彼は、それでもしきりに首をかしげながら再び作業に取りかかろうとした。

「てめぇ、なにしやがる!」

「ぎゃっ!?」

 男はびっくり仰天。ひっくり返ってしまった。

「ババババババ、バ、バイク、バイクが喋ったっ!?」

「ったくよー。何なんだよ。人がせっかく気持ちよく寝てたのによー」

 人? バイクって人か?

 男は失神寸前だった。

 案外肝の小さい男だ。

「この落とし前はキッチリつけさせてもらうぜ」

「うぎゃああああああああ!!!」

「あっ、おいっ!」

 男はよっぽどパイクの啖呵がビビったのか、大慌てでそこから逃げ出していった。

「ああん? なんじゃいありゃ~?」

 一人残されたスクーター。

 すると、そこへマンションの住人であり、スクーターの持ち主であるアイドル木村薫がやってきた。

「どうしたの? ジョー。何か騒がしいようだったけど?」

「おお、薫か。なんか知んないけどよー。俺が喋ったらおでれーて逃げちまったんだよ。ったく、俺のこと知らねーモグリがいるらしいぜ」

 ちっと舌打ちしながらジョーは毒づいた。

「ははは…」

 薫はいつものことだと力なく笑うばかり。

「顔はバッチリ覚えてる。見とれよ。今度会ったらキッチリ挨拶さしてもらうぜ」

 ふふふ…ははは…わはははぁぁ───と、いつまでもジョーの笑いは暗闇の中あたりに響き渡った──とさ。ちょん。

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