魔獣退治おめでとう

@yassy

第1話

「国王陛下、この度は魔獣退治おめでとうございます!」

右大臣の乾杯の発声に続いて広間の数十人の重臣たちが一斉に唱和した。

「おめでとうございます!」

先の国王が急逝してより3年。若くして国王の座についた私がようやく国民に対して国王の威厳を保つに足りる成果を示すことが出来た。

片手を上げて皆に応える。

「皆、ありがとう。改めて言うまでもないが今回の魔獣討伐隊を指揮したのはグラハム将軍だ。グラハム将軍、礼を言うぞ」

すぐ隣に座っていたグラハム将軍が起立する。先の国王の時より我が王国の守護神として軍を統べてきた歴戦の勇者だ。煌びやかな鎧の上からも鍛え抜かれた体が発するオーラを感じずにはいられない。

「いいえ、国王陛下の的確なる判断とご指示があればこそです」

グラハム将軍が右手の杯を高々と上げる。

「国王陛下、万歳!」

広間の皆も唱和する。

皆が王国の繁栄を信じて疑わない様子だった。その明るい雰囲気を見て私も改めて喜びをかみしめていた。


歓談の時間となったところで私は右大臣に確認した。

「それで捕らえた魔獣シラチャを殺すことは出来たのか?」

右大臣がゆっくり首を横に振る。

「いいえ、陛下。あの時よりずっと結界の中に閉じ込めておりますがヤツは飲まず食わずでも全く弱る気配がありません」

魔獣シラチャ。

ヤツのおかげで国土の穀倉地帯が甚大な被害を受けた。

一昨年は10万コクもの作物を根こそぎヤツに食い荒らされた。それは10万人の民が1年間食べていけるだけの莫大な量だ。

ヤツは高度な魔法障壁を備えているため剣による攻撃を全く受け付けないばかりか魔法攻撃さえも無効化してしまう恐るべき魔獣だ。

「おかしいではないか。あれほど大食いのヤツが全く食べなくても平気というのはどういうことだ?結界の中に閉じ込めればすぐに餓死するのではなかったか?」

「その後の王立魔法院の調査によりますと、ヤツは魔法により体の維持に必要なエネルギーを空気中から吸収できるということです。つまり、穀物を食べていたのは趣味と申しますか…グルメと申しますか…」

「王立魔法院の魔道士たちが張っている結界でもヤツのエネルギー吸収魔法を無効化できないのか?」

「それが、ヤツの動きを止めるための結界から少しずつエネルギーを吸収しているようでして…」

恐るべし、魔獣シラチャ。


その時、他の重臣たちとの歓談の輪から抜けてきたグラハム将軍が近づいてきた。

「陛下、おめでとうございます!」

赤ら顔で上機嫌の将軍は私たちの浮かない顔を見て言葉を続ける。

「ん?どうかされましたか?この喜ばしい祝いの席で何か問題でも発生しましたかな?」

「ああ、いや、今右大臣と話をしていたのだが、魔獣シラチャがピンピンしているということだ」

「ああ。しかし、動きは封じておるのでしょう?問題ございますまい。永久に魔法で閉じ込めておけば良い」

そういえば、ひとつ気になることがあった。

「右大臣、結界を張るのに何か特殊な魔法の触媒が必要だと申していなかったか?」

「はっ。恐れながら、毎日一定量の『ハイパーピュアグレイン』が必要となります」

「ほう。その『ハイパーピュアグレイン』とやらはどうやって作るのだ?」

「はっ、穀物を煮出した汁に魔道士達が特殊魔法を一昼夜かけることにより作成致します」

「ふむ。ヤツの拘束に結構な量の穀物が必要になると言っていたのはそういうことか。具体的にどれ位の穀物が必要となるのだ?」

「はっ、年換算しますと20万コクほど…」


はぁ!?ヤツによる被害量より多くないか!?


「そ、それでは捕らえている意味が…」

「国王陛下、魔獣退治おめでとうございます!」

私が言葉を言い終わる前にグラハム将軍が野太い大声を皆に向かって投げかけた。

「おめでとうございます!」

皆も唱和する。


えーと、たぶん、ぜんぜん「おめでとう」では無いと思う…

まあ、でも今更言えないか…

超大食いのペットを飼ったと思うことにしよう…

ぱっと見た目、猫だし…

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