第2話
「血を飲む?それとも肉を喰らうの?」
目を開けなくても分かった。
僕の傍には、優奈がいる。
『わたっ、私は、そんなつもりじゃ……』
吃りながら言っても、何にも説得力ないし。
「別に責めるつもりないから。生き抜く為には、しょうがないよ。
豚を殺して食べるのと、何が違うって言うのさ。」
目を閉じたまま優奈に言った。
優奈からは、何も言葉が返ってこない。
目を開けて、ゆっくり身体を起こす。
喉がカラカラだ。
「いつでもいいよ。でも、痛くしないでね。」
ここ笑う所なんだけどな。
優奈からは、相変わらずリアクションは返ってこなかった。
水を飲むために立ち上がり部屋を出る。
助けた時点で、こうなる事は考えられた。
どうして、助けたんだろうね。自分でも分からない。
キッチンに置いてあったペットボトルを開けると水を飲んで一息ついたので、周りを改めて見ると食べ物のゴミが散らかっていた。果物の種やら、お菓子の袋にに空き缶。それにペットボトルが数本転がっている。
よほど腹が減っていたんだろうね。
無計画に、こんなに食べてしまったんだから。
この分だと食料は、数日しか持たないな。
思っていたより、遥かに早くに終りを迎えそう。
僕だけなら、それでもいいんだけど優奈は、そうもいかない。
どうするかね。本当に。
部屋に戻ると優奈は、まだフリーズしたままだ。
目も虚ろで、ちょっとヤバい。
「ねぇ、今後の話なんだけど……」
聞いているのか分からないけど、一方的に話した。
僕は、いつ終わってもいい事。
優奈1人でも、食料が数日で尽きる事。
あとは、適当。何を話したかさえ、自分でも分からない。誰かと話したかったのは、僕の方だったのかも。
「……こんな所かな。だから、優奈さえよかったら、レベル上げしてもいいよ。」
見た所、優奈はレベル1。早く割りきってレベルを上げないと。
『そっ、そんな事、出来ない!』
優奈の目は揺れていた。言葉とは裏腹に迷っているのが、手に取る様に分かる。
「じゃあ、死ぬの?僕とココで、飢え死にする?」
これは、僕なりの優しさ。
背中を押してやる。
最期に誰かの役に立って消え去りたいと思う。
地獄でも人間らしさを失ってないと、カッコよく、意地をはってやる。
『………。2人で生き残る事は出来ないの?』
ポツリと優奈は言った。
「僕には、生きる気力がない。生きて、したい事もない。だから、いいんだ。」
僕の言葉が終わるのと同時に
「ん!?」
優奈にキスをされていた。割りと濃厚なやつ。
何で、この場面でキスなん?
何考えてんの?
『私のファーストキス。エッチもしたいでしょ?ねぇ?!』
若干、キレていらっしゃる?
何で、こうなってんの?
そして、生存本能からなのか、わりかし簡単に体には反応があった訳で。
それを優奈に見付けられる。
『ほらっ、したいんでしょ?でも、今はダメ。2人で生きるの。生き残ったら、好きなだけしてもいいから。だから、私と生きて。』
何で、こんなに必死なの?僕なんて、ほっとけばいいのに。
優奈は、僕の事を知らなかったんだし、見ず知らずの他人でしょ?
なのに何で……。
何も言えなくて、僕は黙ってしまった。男らしくないのは分かってるけど、優奈に齧られて終わりでもいいや。とか、投げやりに考えてたから今更だしな。
優奈も、黙ったまま。何を考えてるのか分からない。どうして、僕を生かそうとする?
どの位、そうしていたのか分からない。
僕は腹が減ったので、リンゴを齧り、優奈にも投げ渡す。
少しリンゴを見詰めた後で、優奈も無言でリンゴを齧っていた。
さぁ、どうしたものか。
「優奈は、どうして僕を生かそうとする?パートナーを求めるなら、もっと強そうな奴にした方がメリットがあるでしょ?」
実際、そうだ。力のある奴に女の武器を使って擁護を求めれば、生き残る事は出来るだろう。レベル上げ用の獲物も捕まえてくるだろうし。
僕では、見るからに頼りないのに。
『分かんない。でも、貴方は優しい。』
優奈からなのか、女と言う生き物だからなのか分からないが、何の根拠もない事を、さも当たり前の事かの様に言う。
もう、ほっといて欲しいのに。
……と、こうやって悩んでるのを見透かされて、それを優しいと言っているのかも。
はぁ~。溜め息が出るレベルで僕は馬鹿だな。
ゲームから下りると決めたんだから、その後の事なんて、ほっとけばいいのに。女1人残していく事が出来ないなんて。
「まずは、食料の確保。あとは、シェルターの移動だ。」
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