無茶苦茶になった世界の中で

@koooum

第1話

「ふぅ。今日も激しくしてるな。」

窓から少しだけ下を覗くと、遥か下ではバチバチとやっている。

本当に無秩序だな。

どこか他人事ひとごとの様に呟いた。

そばにスティック状チーズの包みを噛みきってあけると、一本を食べきる。

残り少ない食料なんだ。無駄には出来ない。

でも、生き抜くつもりはないから、この食料が尽きたら、僕はゲームオーバーにしよう。


あの日を境に変わったな。

ぼんやりと、そう思う。


切っ掛けは、突然だった。

ありがちと言えば、ありがちだけどバイオハザードが原因らしい。

ただ、ゾンビになって、辺りをさ迷うとかじゃない。

国民総キャリアとなっただけ。

バイオハザードを引き起こしたウィルスは、鳥型インフルエンザαと名付けられる。

この鳥型インフルエンザαは、遅効性で半年から数年で発症。

発熱、嘔吐、下痢、発疹、肉体の腐食が症状として表れ、数日で死に至るとの事だ。

もちろん、ワクチンの開発も行われたが、現在においても成功したという発表はない。

当然、多くの人が絶望したが、それ以上の混乱を呼んだのは、ワクチンがない事ではない。

発症を永久的に抑える方法が見付かったからだ。

その方法は、残酷で恐ろしい。

誰も、ソレを行わないだろうと思われたが、1人が始めると、あっという間に日本と言う国は地獄へと変わってしまった。

世界中でも同様らしいので、日本が地獄ではないな。

世界が地獄なんだ。

平和な国なんて、もうないのだから。


地獄を上から見下ろしていると、ここに来ようとしている男が見える。

ベランダに掛けていた梯子を昇ってきていた。


「降りる気ない?」

上から声を掛ける。


『助けてくれ!』

質問とは違う答えが返ってきた。まともに答える気はなさそうだな。

バレないとでも思ってるのか?

上がってくる男は、レベル2だろう。うっすらとだけど確認出来る。間違いない。……はず。


仕方ない。

梯子から伸びた線の先を操作する。


《ビリッ!ばちっ!!》

『ぎゃ~~。』

《ドスン!》

梯子を昇っていた男は地面に落ち、倒れていた。

死んではいなさそう。まぁ、死んでても関係ないけど。

やっぱり梯子は外した方がいいかも。

でも便利なんだよな。

電気の無駄になるけど、常に電気流しとくか。


《ぎゃぁぁぁぁぁぁ。》

さっきの男の悲鳴が聞こえたので覗くと、女の餌食になっていた。

気絶してたみたいだし、当然か。


いつ死んでもいいけど、他人に委ねる事はしない。

僕の終わりは僕が決めるんだ。


世界なんて無茶苦茶になってしまえ!

何て思っていたけど、実際になってしまうとな。

脆いもんだよ。


まぁ、どうでもいいや。そろそろ寝よう。

節電の為に早く寝る様にしている。節電以外にも灯りを点けていると目立つって理由もあるんだけどね。

辺りは、真っ暗になっている。

まともな人間も少ないし、灯りの少ない街なんて、こんなもんなんだな。

明日を迎えられるのかな?

そんな事を考えながら、うとうとしていたが意識は一気に虚ろになっていった。


『きゃ~~~~。』

悲鳴で目を覚ます。

そんな声なんて、もう聞き飽きたと思っていたのに。

まだ暗い中、声の主を探す。

目が慣れるまで暫く掛かったけど、下で男に襲われている女が見えた。

髪型や雰囲気で、そう思っただけで、暗いから分からないんだけどな。


『いやっ、止めて!』

やっぱり女みたいだ。女の声が聞こえる。


『ヤッた後で、喰らってやるよ!マジいい世の中だぜ!』

クソみたいな事を言っていた。

特に何も考えずにベランダに山積みにしていたレンガを手に取り、投げ落とす。


『ぎゃっ!』

カエルの潰れたみたいな声を上げて、男は倒れた。

ムカついたから、やっちゃったよ。


『はぁはぁはぁ。助けてくれて、ありがとうございました。』

そう言って頭を下げている様だ。

何でもいいし。


『お願い。このままだと、また襲われる。そこに行ってもいい?』

僕が了解するより前に梯子に手を掛けた。


《ばちっ!!》

『きゃっ!』

青白い光と共に弾ける様な音の後で女の悲鳴。

まぁ、そうなるよな。電気流してるんだから。


『お願い。助けて。』

女は諦める様子を見せない。面倒くさい奴だな。それに騒がれると目をつけられる。止めて欲しい。

ムカつくからと男をヤルんじゃなかったかも。


「騒ぐな!ここは、僕のコロニーだ。他を当たれ!」

声を潜めて、下の女に言うが


『お願いします。お願いします。』

僕の話を聞く気もなさそう。

もう面倒だな。ヤッちゃうか?

レンガを手に取ろうとして、改めて下を見た。

あれっ?もしかして……


「ねぇ、もしかして優奈?」

上から声を掛ける。


『えっ?誰っ?』

リアクション的には、優奈で間違いないみたいだな。

誰か分かっても、特に仲がいい訳じゃないし。


『私の事、知ってるの?ねぇ、助けて。お願い。』

余計に絡まれる事になった。まぁ、当たり前か。知ってる素振りみせたんだから。しまったな。

仕方ないか。


「電気切るから、早く上がってきて。」

スイッチを操作して、送電を止める。


『はぁはぁはぁ。』

物凄い速さでかけ上がってくる。ちょっと怖い。

一気に登りきると、ベランダに飛び込む様に入ってきた。

僕は、改めてスイッチを入れて電流を流す。


「朝までね。明るくなったら、出てってもらうから。」

まだ肩で息をしている優奈に声を掛けるが返事は、当然ない。

それでも僕は、部屋に戻るとベッドに潜り込んで、再びの眠りに落ちた。









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