お誕生日おめでとう!

暗黒騎士ハイダークネス

お誕生日おめでとう!

 今日の買い物から何かに見られている感じがしていた。

 でも、見られるのは仕事柄はいつものことで気にするようなことではない。

 買い物をし、店の若い子とくだらない雑談をし、夜に友人たちとバーで酒を嗜む。

 そんないつもと変わらない日常を過ごしていた。

 そして、少し遅くなった帰り道いつものように1人で帰っていたところ。


 コツコツコツ


 やけに静かな街の中に反響する私以外の足音。


     コツコツコツ     コツコツコツ


 私が3歩進めば、相手も3歩進む。

 私はただ何の声をかけても来ずに、ただこっちをつけまわしてくる足音。

 最初は気のせいかと思っていたけれど・・・5分、10分とその足音は私についてくる。

 それに私はだんだんとイライラしてきて、文句の一つでも言ってやろうと後ろ振り返らずに急いで駆けて曲がり角のところで待ち伏せをすることにした。

 だけど、5分も待っていても、その足音の主は現れなかった。


「なん~だ・・・私の勘違いだったか、自意識過剰すぎかな」


 そうだ、私は少し気にしすぎていたみたいだ。

 冷静になってくると自分の自意識過剰さに目を覆いたくなってきて、心の中に恥ずかしい気持ちが湧き出してくる。

 少し前ならこのくらいのことでこんなになったりしなかったのに、最近になって、大きくなってきたお腹をさすりながら、私自身気付かない間に神経質になっていたみたいだ。


「はぁー」


 私は急に走ってドクドクドクと少し早く鳴らす心臓の音を落ち着けるために深く深呼吸をして、このうるさい心臓を黙らせる。

 そうして落ち着いたところで、私は家への道へと戻った。

 そして、その帰り道にうすぼんやりと倒れている人影があった。

 だんだんと近くなってくると、その姿ははっきりとしてきて、小汚い恰好の浮浪者が段ボールを敷いて寝ていた。

 近づいた分だけ酷い匂いも漂ってくる。

 嫌な者を見てしまった私は正直浮浪者となんて関わりあいたくもないので、鼻を覆い横を急ぎ足で通り過ぎようとした。

 だけど、次の瞬間。

 ギュッと何かに手首を掴まれた。


「きゃっ?!なに!?」


 いきなりのことで、掴まれた腕の方を振り返ると、こちらに無邪気に笑顔を向けてくる少し身なりのいい少年?がいた。

 鼻を覆ってた手もその勢いで離れてしまった。

 だけど、少年からは浮浪者とは違い、いい匂いが漂ってくる。

 そして、なぜこの少年はこんな時間に出歩いているのだ?孤児か?こんな孤児がいるか?などとそんなことを思った瞬間に、少年が手に持っていた何かを振るった。

 数瞬後、私の腕から痛みが走った。

 少ない明かりが薄く私の腕を照らし、ドクドクドクと血が溢れ出してきているのを見てしまった。


「・・・え?」


 目の前のその光景は現実離れしていて、さっきと同じ自分の勘違いじゃないのだろうか?これは私の見ている夢なんじゃないか?とすら思えてしまった。

 だけど・・・流れる血が、強く脈打つ心臓の音が、この鉄臭い匂いが、目の前の少年が・・・何よりも、私の本能が訴えるこれは現実なのだと。

 少年の腕を思いっきり振り払って、逃げようとした。

 だけど、少年は笑顔を浮かべたまま、私に向けて刃物を振るった。

 運よく鞄を振り回して、2撃目を避けた。

 避けた私を見た少年は口を醜く歪ませて、飢えた動物が獲物を見つけたように獰猛な笑みで私に向かって笑う。


「AHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA」


 それはどうしようもなくおぞましい声で、血を出す私を見て、狂ったように笑っていた。

 逃げなきゃ!逃げなきゃ!!逃げなきゃ!!!

 斬られた腕から流れ落ちる血を必死に抑えて、私は走る。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 コツコツコツ


「はぁ、、、はぁ、、、」


 コツコツコツ


「げほっ、、、はぁ、、、、」


 コツコツコツ


 どんなに私が逃げても、一定のリズムで足音は聞こえてくる。

 言い知れぬ恐怖が私を蝕み、どんどんと息が乱れてくる。

 そして、もうすぐで警察署そのすぐ近くに来た時に小石に躓いて転んでしまった。


 コツコツコツ


 変わらずにこっちに向かってくる足音。

 転んだ拍子に、足が変な方に曲がってしまったようで立ち上がることができなかった。

 もう少し、もう少しで、私は這いずりながら逃げる。


 コツコツコツ


 もう少しで警察署につく!そう希望を抱いたその瞬間ドンッと背中に強い衝撃が走った。

 恐る恐る見上げれば、私の背中を足で踏みつけて、にっこりと笑みを浮かべる少年がいた。

 思いっきり叫んで助けを呼ぼうと思ったら、喉を切られた。


「・・・・!・・・・!!」


 声にならない声で叫ぼうとしている私を楽しそうに見ている少年。


 次は両目にゆっくりと刃物が入り込んできた。


 次は指先を順々に刺された。


 次は二の腕や太ももに薄く長くゆっくりと切り裂いていった。


 そして、次に・・・お腹に冷たい刃物の感触がした。


 血を流しすぎて、朦朧となっていく意識の中。


 私は少年がいるであろう方向に向かって、手を伸ばし、血涙を流して、声にならない声で少年に懇願する。


 そして、腹の中に手を入れられるおぞましい感覚を味わいながら、私の意識はなくなった。





 女の腹を切り裂き、中のモノを引きずり出して、少年はこう言った。


『Happy Birthday』


 反応のなくなった女に飽きたのか、コツコツコツと靴音を鳴らしながら、少年は闇の中へと消えていく。




 朝方になって、その辺りにはけたたましいほどサイレンの音が鳴り響いていた。


 そして、警察が見たものは無残に殺された女の死体だけだったとさ。

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