4年目に向けたケーキカット

沢木 大和

第1話

 中学のときに付き合っていた元カノとは、卒業して間もなくさよならした。

 違う高校になり、入学試験真っただ中、卒業の頃には、お互いにそこそこ冷めてきていたので、当たり前といえば、当たり前なのだが、チョイ寂しさもある。なにせ、初めて女の子と付き合った相手なのだから。

 その元カノとは中学1年の夏休み前から高1のゴールデンウイークまで、ほぼ3年間付き合ったことになる。正確に言うと、チョット3年に欠けている3年未満だ。きっかけは、塾が同じで一緒の授業を受けていて、話しをする機会が自然と多かったことによる。

 その3年未満は、向こうもそうであってほしいけど、純粋に楽しかった。何をしていても楽しかった。一緒に同じ空気を感じていられるだけで幸せな中学生らしい恋愛だったと自分では想う。


 そんなボクも今や、高校を卒業し、大学1年の夏休み前だ。元カノと別れてから、なんとなく時間があり余ってしまっている自分が嫌で、ボクの誕生日にプレゼントをくれて告白してくれた彼女と何のためらいもなく流れに任せて付き合い始めたのだが、もう3年、いや3年も経った。いやいやまだ3年しか経っていないと言うべきなのだろうか?

 自己ベスト、点数競技スポーツならメダル圏内だけど、恋愛にはゴールがないんだよねぇ。今の状態がどうなのか、よくわからない。


 最近、彼女と何時間もよくする会話は

「このスイーツ、インスタバ映えするわね。」

「それだけじゃなくて、このクリーム、超うまくねぇ?」

「乳脂肪分感が半端ないわ。それに、この滑らかさ、超絶~~~ぅ!」

「クリームとしての攪拌がなせる技っしょ。」

「それもあるかもしれないけど、このパティシエさん、きっと舌が超舌なのよ。それでなきゃ、この触感、出せないもん。」

「あれれっ、知らぬ間に、座布団3枚、っと!」

 てな感じの食べものの話題ばかり。

 たぶん、中学の時や高1、2年だったら、こういう感じで何時間でも一緒にいられたし、すっごく楽しかったと思う。でも今は、この手の話しだけで会って、時間を消費するのは、ちとっ………。


 自分の心の中では、実は3年続いたというハッピー感より、初の4年目突入ってどうなっちゃうんだろうという不安感の方が圧倒的に強い。この自信のなさはどこから来るのだろうか?元カノと3年未満だったからだろうか?自分の魅力の賞味期間は3年くらいしかないと思い込んじゃっているからだろうか?

 いやいや、それって自分からの視点だけだよなぁ?彼女が今もって会ってくれているということは、自分を自分で評価している点数と違って、彼女からの評価は今だ合格点だってことだよなぁ?

「でも、いつ予選通過ラインを下回るかわからないし……」

 と、また不安が、土地の隆起のごとく広範囲に地鳴りとともに持ち上がってきた。


 3周年記念とは、4年目に向けた不安のサイン?

 そんなことを考えながら、彼女と一緒に作った自作ホールショートケーキに、たった今、ナイフを入れた。

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4年目に向けたケーキカット 沢木 大和 @yamato_sawaki_with-AI

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