クレイ・ダント

エリー.ファー

クレイ・ダント

 一年目で結果が出ないからといって、二年目に持ち越すことはない。

 二年目に結果が出ないからといって、三年目に持ち越すことはない。

 三年目に結果が出ないからといって、四年目に伸ばすというようなことは。

 断じてせずに、ここで殺す。

 私は静かに爆弾を取り出すと、ビルの屋上から放り投げる。

 そのまま落下しながら連鎖爆破することで、振動と共に窓の割れる音が響く。

 ビル自体の倒壊に影響を与えるほどの威力はない。

 これなら問題なく、爆弾を使うことができる。火薬の調節やらを工夫してきたおかげで、人を効率的に殺す手段なら幾らでも持っている。

 ただ、ここから先は大きな問題を産むことになるだろう。

 何せ。

 まだあの男だけは殺しきれていないからである。

「死なないかな、あの男。」

 私は独り言を吐き出しながらため息をつき、ロングコートの中にある爆弾へ火をつけてまた幾つかを投げた。今度の爆弾は生体反応を確かめるための爆弾だ。居所が分かった場合は、そこから発生する高周波が衝突と共に異音を発生させるようにできている。この違いは私の耳でしか分からないような小さなものなので、この爆弾によって状況を上手く使えるのは私くらいだろう。

「おーい。どこにいる。私はここだぞ。」

 大きな声で叫んでみたが相変わらず、返事はない。

 私はまた爆弾を用意し始める。

 最初にあの男の会ったのは地球が滅亡してから四年経ったある日だった。スーパーなどの食料もつき、場所によっては住みやすいコミュニティなどが生まれ、生き残った人々による自給自足が形作られていた。

 ただ。

 やはり、この地球滅亡という一つの出来事に、ある意味、好機だと感じている人間もいた。

 私のような人間が正にそうなのだが。

 これで、少しばかり自由になれるのではないか、そう思えたのだ。

 実際に自由にはなれたし、そのことに不満はない。

 無政府状態なので、楽しもうと思えば幾らでも楽しめる。

 これが恐ろしいところなのだ。

 結果的に、殺し損ねた男を追いかけるうちに三年という月日が流れ。

 最早お互いのことはよく知る仲になっていた。

 だが。

 もちろん殺す。

 当然だが。

 後ろで銃の表面を風が掠る音が聞こえる。

 私は左へと飛び、後ろを向きながら体を回す。

 案の定銃を構えたあの男がいた。こちらに顔を向けることもなく、飛び出した銃弾の行く先を眺めている。

 私は爆弾魔だが、こういう接近戦には非常に弱い。

 どのように近づいてきたのか分からないが、何かしらのトリックはあってしかるべきだ。それこそ、この男も爆弾魔としての経験がある場合は、やはりその設置されているであろう箇所を避けることができる。

 何があろうと、死なない。

 だからこそ、殺しがいがある。

「なんでお前、死なないんだよ。」

 私は男に尋ねる。

 男は応えない。

「何故、死んでくれないんだよ。」

 私はまたも同じように尋ねる。

 男は当然のように応えない。

 その瞬間、空から大きな隕石がこちらに向かってきているのが分かった。

 もう、逃げられないだろう。

 男の銃口が私の方に向く。

 私も間もなく爆発するダイナマイトを構えた。

「殺してみろよ。」

 私はダイナマイトを投げる。

 男は引き金を引く。

 お互いからだを飛ばしながらも、致命傷だけは避けながらにらみを利かせる。

「死ぬ前に、殺す。絶対に殺す。殺す殺す。必ず。殺す。ぶち殺す。」

「俺が殺す。」

 男が初めて喋った。

 隕石が向かってくる。

 お互い次の手を打とうとしないまま、時間が過ぎる。

 隕石が直ぐそこにまでくる。

 しかし。

 何もせず、声も出さず。

 ただ二人で見つめ合って笑う。

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