第12話 帰り道、です
羽丸しえらです。
「イェーーーーーイ! みんな盛り上がってるぅー⁉」
「いぇーいなノー!」
なぜかいま、カラオケにいます。
えっと、なんで?
ちょっとこうなるまでの流れを振り返ってみたいと思います。
◇
「それじゃ、ポーラもこの春から早見島に引っ越してきたんだね。しえらと同じだ」
「なノ!」
天音部、部室倉庫からの帰り道。
何となくの流れで、天音部に仮入部に来ていた一年生や多分他の部活の体験入部を終えた子たちの後ろに続いて、通学路の坂道を下りていました。
おしゃべりしながらぞろぞろ歩く、十人ちょっとの人だかり。みんな他に行くところもないし、学校にも残れないので、当然と言えば当然です。
私の三歩前で自転車を引いて歩いている奈緒ちゃんは、元気いっぱいグラマラスガールのポーラちゃんと楽しそうに話しています。さっきが初対面だったのに、もうすっかり仲良くなってるのは、さすが奈緒ちゃんというほかないです。
「ハヤミ島はとっても良い所なノ! ポーラの国は夜になっても太陽が沈まない時期もあるカラ、ここでは毎晩綺麗な星が見られて嬉しいノ!」
ポーラちゃん、とっても嬉しいことを言ってくれます。
自分が褒められたみたいにくすぐったい気持ちになりました。
太陽が沈まない夜……たぶん、白夜のことです。ということはポーラちゃんは、ロシアかカナダ、もしくは北欧の生まれでしょうか。
「へぇー。どのへん?」
「ノルウェーなノ!」
「あーノルウェーね! ふんふんなーる……」
うんうん、とひとしきり頷いた奈緒ちゃんが、こっちを振り返って聞きます。
「ノルウェーってどこだっけ?」
「ほ、北欧だよ。北ヨーロッパ」
奈緒ちゃんはちょっぴり地理に弱いみたいです。
「そっか北欧かぁ。ポーラ、北欧美少女ってカンジだもんねぇ。わかるよー」
「えへへっ、ありがとございますなノ! ナオタンも、金髪似合ってるノ!」
「にはは、ありがとぉ。ちょーっと勇気出したんだよね。怖がられたらどうしよっかって思ったりさー」
確かに、早見高校は校則がゆるくて髪型も自由なんですけど、一年生で金髪の子は奈緒ちゃん以外見かけたことがありません。
「怖くないノ、かわいいノ!」
「う、うんっ。奈緒ちゃんはかわいいよっ」
「にゃ、何これ。モテ期? 二人に言われると嬉しいなー」
恥ずかしそうに照れ笑いする奈緒ちゃんもまたかわいいです。
「……ちらっ」
わざと声に出しながら、奈緒ちゃんは近くを歩いていたスピカちゃん……こほん、超絶美少女スピカちゃんに目を向けます。
「ちらっ、ちらっ」
「……な、何欲しがってるのよ」
「ええ~、別にぃ~?」
「良いんじゃないの。似合ってると思うわよ。入学式の日に見かけたときは、ちょっと声かけるの怖かったけど」
「え、マ?」
「マよ」
マらしいです。ところで、何のマでしょう。
「最初は羽丸さんがいじめられてるのかと思ったもの」
「そ、そんなこと……」
「ないっていうのは、見てたらすぐにわかったわ。あなたたち、ホント仲良しよね。私には毎日一緒にいるほど仲の良い友達はいないから、正直羨ましいわ」
私は奈緒ちゃん以外のお友達がいないだけ、だったりするのですが……。
でも、クラスの人気者でいつも沢山の人に囲まれてるスピカちゃんがそんな風に思ってたなんて、すごく意外です。人気者には人気者の悩みがあるということなんでしょうか。
「にははっ! なーに言ってんの! アタシらもう友達じゃん?」
そんなスピカちゃんの寂しい一言を、奈緒ちゃんがまるっと笑い飛ばしちゃいました。
「明日から同じ天音部の仲間だもんね! でしょ、ポーラ?」
「はいなノ! スピカタンも、シエラタンも、よろしくなノー!」
「ふぇ、わ、私は」
まだ、天音部に入るって決めたわけじゃ……。
「……はいはい。よろしくね」
二つ結びの黒髪をさらりと手でかき上げて、ちょっぴり困った風にスピカちゃんが笑いました。
女神級の笑顔です。みんな、思わずうっとりして言葉を失くしちゃうほどに。
「あ。そうだわ、奈緒」
「……へっ。な、なにっ?」
「……? どうしたのよ、慌てて」
「や、別に何でもないよっ、にははっ。で、何?」
やや不審に思ってそうな顔で、スピカちゃんは続けます。
「あなた、ギター歴一年って言ってたわよね、さっき」
「ああ、うん。そだよ」
……音楽の、話。
自分が話してるわけじゃないのに、身体が強張ってしまいます。
「さっき入部届を出してた他の子たちとも少し話したんだけど、楽器経験者はあなただけみたいなのよね。どれくらい弾ける?」
「んー、難しいなぁ。バンド組んでたわけじゃないし、かといって作曲とかできるわけでもないし。でも、始めたての頃から買ってた教本はテク系だから、教本レベルの早弾きならそこそこいけるよ」
奈緒ちゃんが何を喋っているのか、ゼンゼンワカリマセン。
「それじゃあ、歌は?」
「弾き語りってこと? たまにやるよ、そういう気分の日は。歌もそこそこ自信あるんだ、音楽のセンセーに褒められたこともあるし!」
う、歌……。苦い思い出がよみがえります。
「えー、ってか何、スピカ? もしかしてアタシとバンド組んでくれるのっ?」
「それはまだ考え中。明日の楽器体験には今日来なかった子も来るかもしれないし。……けど奈緒。ギターの実力を説明するのが難しくても、歌ならどうかしら?」
「歌なら、って……?」
「人目を気にせず思いっきり歌えて、好きなアーティストの紹介なんかもできて。おまけに今日友達になったばかりの私たちが親睦を深めるのに、ちょうどいい場所があると思わない?」
……それって、まさか。
私の不安をよそに、その言葉を聞いた奈緒ちゃんは。
「…………!」
パッチリおめめをキラキラと光らせて、かしゃんと自転車に跨りました。
一緒に歩いていた一年生の子たちの目の前にすいーっと躍り出て、空を指差し高らかに、そしてとっても楽しそうに言い放ったのです。
「今からカラオケ行くひと、この指とーまれっ!」
◇
……はい、こういうわけでした。
ちなみに、なんですけど。私は奈緒ちゃんの指にとーまれしてないです。
だけど、いつの間にか、本当にいつの間にか、なし崩し的にこの場所に連れ込まれていました。なんというミステリーでありアンビリバボーでしょう。
とにかく、ついて来てしまったものはもう仕方ないです。
この薄暗くてチカチカした部屋で、マイクが回ってこないようにメロンソーダをぎゅっと握り締め、何とかこの時間をやり過ごさないといけなくなりました。
――あはは! 歌、ヘタだな!
絶対、歌わないんだから……。
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