開店120周年のパチンコ屋

花るんるん

第1話

 3周年だ、3周年。

 よかった、よかった。

 めでたい、めでたい。

 「で、何が3周年?」と愚鈍な君は聞く。

 相変わらず、まったく何もわかっていない。

 何が3周年かということは、本質的なことじゃない。大切なのは、3周年ということだ。3周年ということが全てだ。

 「どんな全て?」

 どんな?

 「どんな」ときたか。

 例えば、君に愛している人がいたとする。

 それで、「君の愛している人はどんな人?」と聞かれたら、どう答える?

 答えられないんじゃないかな。君は、その人の部分を愛している訳じゃないから、答えられないじゃないかな。

 何を言っているか分からなかったら、「恋愛のディスクール・断章」でも読み給え。

 「3周年であるもの」と「3周年」は切り離せないんだ。切り離せないのに、「…であるもの」を問うても、仕方ないだろ?

 「私たち、付き合って3年だよね?」

 そう…だっけ?

 「愚鈍なあなたは覚えていないかもしれないけど、たしかに3年よ」

 2年と364日…ということはない?

 「ない」と、これ以上ないくらいきっぱり君は言った。「『君の愛している人はどんな人?』と聞かれたら、少なくとも言えるのは『愚鈍な人』。『例えば、君に愛している人がいたとする』じゃねーよ」

 人は「例えば」を確保して、より人間らしくなっていく。


 例えば、隕石が落ちたら。

 例えば、社長だったら。

 例えば、3年付き合っている彼女がいたら。


 「だから、私は『脳内彼女』ではなく、『リアル彼女』なの。『例えば、3年付き合っている彼女がいたら』ではないの」


 例えば、1年付き合っている彼女がいたら。

 例えば、3年付き合っている彼女がいたら。

 例えば、120年付き合っている彼女がいたら。


 「意味が分からない。『意味の解体』とでも言いたいの?」

 「3周年であるもの」が「君」だなんて、「開店3周年のパチンコ屋」並に安直じゃないか。

 「なぜ、開店3周年のパチンコ屋が安直なの? そもそも、安直ではいけないの?」


 例えば、「開店1周年のパチンコ屋」並に安直。

 例えば、「開店3周年のパチンコ屋」並に安直。

 例えば、「開店120周年のパチンコ屋」並に安直。


 「なぜ、開店120周年のパチンコ屋が安直なの?」 

 なぜ?

 「なぜ」と問う?

 「素朴に意味不明。ズレているのは、あなたの方ではない?」

 ズレているのは、あなたの方ではない?

 「ズレているのは、あなたの方ではない」と問う?

 「よく続いたね、3年。がんばったね、私」

 「私」? 「私たち」ではない?

 「私」と、これ以上ないくらいきっぱり君は言った。

 3年続いたんだ。これからも続いていく。そう安直に僕たちは信じている。ただ、続くものに何事も自然なものはない。自然に見えるだけのことだ。

 「あなたのようなどうしようもない人には、私がいないとダメだと思うの。そうでないと、あなたは人のかたちを保てないから」

僕たちは繰り返す。ボキャブラリーの少ない僕たちは繰り返す。繰り返す過程で、開店120周年のパチンコ屋にも通う。何とか、人のかたちを保ちながら。


 だから。


 3周年記念、どこへ行く?









 















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開店120周年のパチンコ屋 花るんるん @hiroP

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