4月1日の乱
くれそん
第1話
サービス開始からそろそろ三年目を迎えようとしている。
運営的には厳しいけれど、無課金の人でも多く受け入れアクティブプレイヤー数を減らさないようにしている。
弱小企業なので、続けていくことすらも厳しいのではないかという反対意見を押してスマホゲーム業界へと乗り出した。それから長く続けてくれるプレイヤーも多く、大きなヒットとは言えないが、細々と続けている。
一年目はストーリー面の補強が中心となり、イベントに力を入れることができなかった。また、二年目はイベントに力を入れようとするあまり、バグの発生が頻発するようになりダメ運営といわれることも少なくなかった。そして、この三年目やっと安定した運営をできるようになってきている。だから、この三年間まともにアニバーサリーキャンペーンができなかった分、今回の三周年記念キャンペーンは盛大にしようというのが運営陣としての総意だった。
運営開始が5月7日なので、4月中旬から三周年記念イベントを開催しようということで話がまとまった。それに先駆ける4月1日、何かインパクトのある宣伝ができないだろうかというのが最近の話題である。エイプリルフールにかこつけた何かをというのが。
エイプリルフール企画といったところで、嘘企画の発表というのもあれば、ゲーム本編とは全く違った形のゲームをやらせるなど、運営の創意工夫でどんな風にでもなる。さて、どうしたものだろうか。
そんな中、誰かが運営方針の変更というネタはどうかという話を始めた。今思えば、どうしてそんな風に思ったのかはなはだ謎ではあるが、その意見がなぜか通ってしまった。
三周年記念キャンペーンにはもちろん課金要素がある。それを買わなくてもイベントを十分に楽しめるように設定してはあるが、それを購入することが記念イベント攻略の上で必須条件であるかのように宣伝することになった。
無課金でも楽しめることを売りにしていた面が強いので、これは完全なジョークであり、翌日の4月2日には無課金でも大丈夫であるということを改めて宣伝するということが確認された。
さて、そんな中で作成された三周年記念キャンペーン告知のエイプリルフール版はうちのゲームの主人公が金に埋もれて怪しい笑いを浮かべながら、「金だ。金だ。課金がすべてなんだ」とか闇落ちしているとしか思えない姿と、人気ちびキャラが「課金しないと潰れちゃうよ」と意味深なことを言うという悪意しか感じない代物に仕上がっていた。
そのころには、我々の中には正常な判断をできる人物はいなかったのか、これ面白いねとか笑いながら公開の時を迎えることになった。
あまりにも凝った演出と、運営の闇を感じるということで、会社のヤバい現状が垣間見えているんじゃないかとユーザーの間で即日広まることになった。冷静なユーザーからは演出が凝っていること自体が大丈夫な証拠だという意見も出ていたが、そんな意見は黙殺される。その結果、長年のユーザーからの課金と無課金勢の引退を招いた。
4月1日はひたすらに問い合わせや、課金の処理、確認作業に忙殺されることになる。そして4月2日、あるミスを犯してしまった。掲載予定のエイプリルフールだったというネタばらしを忘れたのだ。そして、ユーザーたちの嘘ではなかったようだという思い込みが加速する。
どうしてこんなに盛り上がっているのか運営陣は全く理解していない。何なら自分たちが忘れていることにも気づいていない。こうした日本のごくごく一部での騒動は一週間続いた。そして、掲載忘れに運営が気付いた時には、三周年記念イベントの開催が間近に迫っていた。
アクティブユーザー数を必要とするゲームシステムの都合上、今回の騒動による無課金勢の引退はかなりの痛手になった。その結果として三周年記念イベントの開催までも危ぶまれることとなる。
エイプリルフールのネタは完全にやらかした。これが運営の共通認識になり、三周年記念イベントは失敗に終わるだろうと著しい士気の低迷を招いていた。それでも宣伝した以上はとイベントを開催する。
だが、予想に反してイベントもキャンペーンも好調であった。長年のユーザーにも一定数存在するお気楽プレイヤーも課金した以上はといつも以上にイベントに励み、もともとの課金ユーザーたちの助けによって十分な盛り上がりを見せていた。
そして、エイプリルフールネタだったという情報が伝わったのか、引退したはずの無課金勢も少しずつイベントに参加してくるようになった。
終わってみれば、ユーザー数の減少も少なく、課金額は通常のイベントの数倍という記録を出していた。これが炎上商法というやつなのかなどという感想が運営内で飛び交ったのは、彼らが反省しているからなのか何なのか。
運営は今回のことから、テンションが明後日の方向に振り切れていようがいまいが、確認作業だけはしっかりするように心に誓ったという。
4月1日の乱 くれそん @kurezoul
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