二枚目

最初は駅にやってくる人々のほとんどが――生前よりずっと薄く、輪郭がわかる程度ではあったが――見えていた。時々、表情までもがはっきりと見える者がおり、相手もそれは同じようで皆怯えた顔をする。一時期駅のホームに現れる上半身だけの幽霊として騒がれていたことも知っている。元より私の存在を認識して来ているからだろうか、見物目的で来た者、集団ははっきりと見え、触れられもした。

だが今では非常に細く、透明に近い線が動いているのが時々、こちらの世界を覗くようにして見える程度だ。噂も消えていることだろう。誰も私を覚えていない。

電車の音を聞き、広告の女性を見つめることが癒やしだったが、世界が白くなっている。

あらゆる光が混ざってきていた。

私はこれからどうなるのだろうか。完全にそちらから見られることも、そちらを見ることもできなくなることはわかる。だが今も自身が認識している私は? 私を救ってくれるさらなる死はあるのか?

  私は何か悪いことをしただろうか。

私は、人を救ったことで命を落とした。なのにこの仕打ちはあんまりだ。ひどすぎる。

私は常に道徳的な行動を心がけて生きていた。そのことを後悔したくはなかった。

何故私は道徳に支配された人生を送った?

そうすれば死後は天国とやらに行けるとでも思っていたのか?

いや違う。そう納得させられてきたのだ。私だけじゃない、きっと誰もが。健全な社会を築くため。

天国はなかった。地獄も、神様だっていない。

死の先にあるのは絶対的な孤独だけだ。

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