お姉様と過ごす記念日。
かなめ
記念日のティータイム
初めてのときは、突然だったから色々と失敗した。
私が淹れたとても渋い紅茶で乾杯することになった。
それでもあの人はにっこり笑って、「美味しいわね」って伝えてくださった。嬉しかったけれど複雑だった。
もっと美味しく淹れられたら、あの人のお言葉を素直に喜べたと思う。悲しかった。
せめてお茶請けで挽回しようとしたけれど、焼き立てのスコーンは見た目はともかく、お砂糖とお塩を間違えて食べられたものじゃなかった。あの人は優しくてけして吐き出したりはしなかったけれど、それ以上は食べていただきたくなくて止めた。
泣きたくなったけれど、あの人が「来年の楽しみが増えたわね」と伝えてくれたから、来年はもっと頑張ろうって涙を引っ込めた。
そして私は、行き当たりばったりであの人のおもてなしをすることは、絶対にやめようと決めた。
二回目のときは、たくさんたくさん練習して自分でも満足できる紅茶で乾杯することが出来た。
紅茶を淹れるためのゴールデンルール。一年目はそんなことすら私は知らなかった。
初めてあの人が私に淹れてくださった紅茶は、私が淹れたものとはまるで別物でした。紅茶とは、苦味など殆ど無く、こんなにも薫り高く美しい水色になるのかと知ったのは衝撃的でした。
お茶の世界は奥深く、沢山の種類や手順。それぞれの茶葉に合わせて覚えることがあることをあの人が教えてくださったので、少しづつ知った。だけど、別にがんじがらめにならなくてもいいんだってこともキチンと覚えた。
二回目のときのスコーンは、お砂糖とお塩を間違えたりしなかった。焼き色もバッチリ。ただ、プレーンだったので一年目と代わり映えしないし彩りがないなって少し後悔した。
あの人がお土産に持ってきてくれた、ぷるんと固いプリンはとても美味しかった。どこのお店で買っていらっしゃったんですかとお伺いしたら、「わたくしの手作りなのよ。お口にあったなら良かったわ」との返答に私は固まった。
初めてのティータイムだったのに、あの人にはとんでもないものを食べさせてしまったんだと涙が滲んでしまった。
後悔以外は、とても素敵な記念日になった。来年はもっと素敵な記念日になるように頑張ろうと思った。
そして本日、三回目の記念日。
あの人は、鮮やかな紅牡丹柄の朱色が美しい着物に、深緑の袴を合せていらして、お出迎えした私は思わず見惚れてしまいました。足元はよく磨かれた革の編み上げブーツ。いつもは腰まで届く長い黒髪をそのままにしていらっしゃるのに、今日は丁寧に結い上げて大ぶりの涼しげな水色のリボンで留めていらっしゃる。ああ、とてもお似合いです。
私がこの間お渡しした根付も、帯にさり気なく付けていらっしゃっている! なんて嬉しいことでしょう! とてもお似合い。本当にお贈りして良かった。
「
「
どうぞこちらへ。とお姉さまを外庭のテーブルへとお連れしながら、今日は泣かないようにと心の中で誓った。
「せっかくだから記念日にティータイムをしない?」と言い出したのは結恵子お姉様。
「それでは結恵子お姉様と
大事な記念日を素敵な思い出にしたいと張り切る私を、結恵子お姉さまは微笑ましく包んでくださっている。
三周年の本日は、キュウリのサンドウィッチも準備した。スコーンには赤が綺麗ないちごのジャムと、真っ白なクリイムを。
そして干し葡萄を混ぜ込んだスコーンと、胡桃を混ぜ込んだスコーンも準備いたしました。
「そうそう、凜恋さん。今日はチヨコレイトのプリンにしたのよ」
「まあ、ありがとうございます!」
テーブルについて早々淡紫色の風呂敷包みを揺らしながら、お姉様はふんわりと微笑まれた。
ああ、なんて可愛らしい微笑みでしょう。この方が、とても素敵な私のお姉様なんて何年たっても信じられない。
「凜恋さんがいつも美味しそうに食べてくださるから作りがいがあるわ」
「結恵子お姉様の甘味がとてもお上手だからです!」
「クリイムはあるかしら? きっとプリンに合うと思うの」
「スコーンにつけるようのクリイムでしたらご用意しています。そちらでも大丈夫でしょうか」
「もちろんよ! さぁ、ティータイムをいたしましょう?」
「はい!」
侍女にとろけないように冷やしていたものを持ってきてくださるようにお願いして、私は紅茶の準備をする。
ああ、お姉様との時間がいつまでも続けばいいのに。
私はそう思いながら、今日という日をお姉様と過ごした。
終わり
お姉様と過ごす記念日。 かなめ @eleanor
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